犬にとって落ち着ける場所の条件とは?
人間と犬は、長い間ともに暮らしてきました。その間、人間の都合で犬の容姿や性格が改良されて、様々な体格、容姿、性格の犬種が誕生しました。しかし、何世代にも渡って、どれだけ野生から遠ざかった生活をしていても、野生動物として生きていたころから現在に至るまで、いくつか変わらずに残っている習性があります。そう言った野生の頃から残っている犬の習性によって、「犬が落ち着いて過ごせる場所」の条件を考えてみましょう。
狭いこと
野生で生きていたころ、犬は巣穴を作って生活をしていました。眠るのも、子どもを産むのも、育てるのも穴の中でした。なぜなら、自分の体よりも少し広いくらいの大きさの巣穴には、自分の体よりも大きな外敵が入ってくることができないからです。
犬にとって、一番安心できて落ち着くことができる狭さとは、体を伸ばして悠々と入れるような場所ではありません。体を丸めた上でお尻や体のどこかが壁に触れる程度の狭さが、一番安心できる広さで最も好みます。
暗いこと
「暗いこと」も、穴の中で生活していたころの名残です。ただし、人間よりは夜目が利くと言っても、真っ暗な場所だと聴覚を研ぎ澄まさなければならないので、却って落ち着きません。ですから、人間の感覚で言うと「少し薄暗いなあ」と感じる程度の明るさの場所が犬にとっては気を張ることもなく、気分的に落ち着いていられます。
適温が保たれていること
犬は寒さに強い動物なので、極端に体脂肪が少なく、体毛も短いイタリアングレーハウンドやミニチュアピンシャーのような犬種でない限り、ある程度寒くても自分の体温でしのぐ方法を知っています。しかし、逆に暑さには弱く、気温が20℃を超えると熱中症になる危険があります。
いくら狭くて薄暗い場所でも、蒸し暑いと居心地が悪く、落ち着いて過ごすことはできません。特に、外飼いの犬の場合は夏でも心地よく落ち着いて過ごせるような工夫が必要です。
静かであること
人間でも、一人で静かに過ごしたいと思っているときに、テレビの音や外からの音を騒音だと感じたら、落ち着いて過ごすことができません。特に犬は、騒音がする理由がわかるはずもなく、聴覚も人間より優れているのでなおさら音には敏感です。
犬が落ち着いて過ごせる場所を設置するのは、できるだけ外からの音が聞こえにくい場所で、できれば、犬がその場所で休んでいたらテレビなどの音も不快にならない程度の音量に下げて静かな環境を作ってあげましょう。
安心できる匂いがすること
飼い主さんのにおいのついたものや犬自身が使い込んだ毛布やお気に入りのものを側に置いてあげましょう。
清潔であること
本来、犬は自分の寝床では排泄しない動物です。ですから、自分が落ち着いて休む場所を尿や糞で汚すことはありません。しかし、熟睡してお漏らしをしてしまったり、外から汚れて帰ってきたまま寝床で寝てしまったり、換毛期に抜けた毛が寝床の敷布などについたままだったりして、徐々に寝床が汚れてきます。
人間も、汚いお布団や散らかった部屋では落ち着かないのは、犬も同じです。ある程度、犬の好きな匂いを残す必要があるため、毎日洗う必要はありませんが、寝床の匂いが臭いと感じたり、飼い主さんから見て「不潔かな」と感じたりしたら、寝床の中や周りを掃除したり敷布などを洗濯したりして、犬が清潔な場所で休めるようにしてあげましょう。
なぜ、「落ち着ける場所」が必要なのか?
ストレスが溜まりにくい
人間にもいろいろな性格の人がいるように犬の性格も個々で違います。飼い主さんに叱られたときに、自分の中で気持ちを沈めることが必要な犬もいれば、ずっと飼い主さんの側にいたい犬もいます。
また、お留守番をする際に、犬が自分の家の中全てを守らなければならないと思うと、警戒心も強くなりますが、自分の巣穴である場所の中にいれば安心できます。いずれにしても、犬自身の感情を犬自身がコントロールするために静かに落ち着いて過ごせる場所がある方が、犬がストレスを溜めにくいのではないでしょうか。
犬と飼い主さんとの信頼関係を築くことができる
犬が何に対しても警戒することなく、落ち着ける場所とは、自分の巣穴です。犬にその空間を与えてくれたのは、飼い主さんです。そして、飼い主さん不在のとき、犬は巣穴の中に籠っていれば安心できます。さらに、飼い主さんは、犬が巣穴だと思っている「安心できる場所」を使って、犬に対する様々なトレーニングをすることで、犬の信頼を得ることができます。
災害時に備える
自治体にもよりますが、現在、環境省は災害時に避難する際、「ペット同行避難」を推奨しています。その際、ふだんからクレートやキャリーの中に入って大人しくできるようにしておけば、避難する際にも、避難所についてからも、犬がパニックになる可能性が少なくなります。
また、ふだんからクレートに入ることに慣れている犬と、狭い場所にいることに慣れていない犬とでは、ストレスを感じる度合いが大きく違ってくるはずです。
外出や旅行の際に落ち着いていられる
ふだんから、クレートやキャリーに入っても平気な犬は、電車などに乗るときも落ち着いていられます。また、船や飛行機では飼い主さんから離れて、ケージなどに入って移動することもありますが、慣れていればストレスなどの心配はありません。
犬が落ち着ける空間とは?
家族の気配を感じられる空間
家族が過ごす空間の中で、犬が家族の存在を感じていられる場所に設置します。例えば、犬が夜に眠る場所は二階の誰かの寝室であっても、日中、犬が落ち着いて過ごせる場所として、リビングや居間の隅に犬の居場所を設えます。
外飼いの場合なら、玄関の脇やリビングの様子が見えたり、声が聞こえたりするような場所に設置してあげましょう。
自由に出入りできる空間
「落ち着ける場所」として、犬用のベッドを設置する場合もありますが、クレートやケージなど、しっかりと扉を閉めることができる「箱」を使うのであれば、静かにしているからと言って、家族が家の中にいるのに閉じ込めっぱなしにしてはいけません。
犬が自分の意志でなく、何か「罰」として閉じ込められたと感じてしまったら、せっかく飼い主さんが犬が落ち着ける場所として用意した空間が、落ち着く場所どころか、大嫌いな場所となってしまいます。あくまで、犬が自由に出入りできるようにしておきましょう。
飼い主さんの目は届いても、視線が集中しない空間
「何をしているかな?」と飼い主さんが犬の様子を気に掛けることはできても、その視線がずっと犬の方に向けられていたら、犬は「遊んでくれるのかな?」「お散歩に連れて行ってくれるのかな?」「おやつをくれるのかな?」と、落ち着いていられません。
例えば、家族全員の視線が一斉に同じ方向へ向く、テレビの隣に犬の居場所を設置してしまうと、家族の誰かがずっと犬を見ているように感じてしまいます。犬が静かに過ごしているときは、犬の気配を感じつつ、そっとしておく…そんなことができる空間が犬にとっては、一番よい環境と言えます。
まとめ
「犬が落ち着ける場所」を作るのは、犬のためだけではなく、犬と人間が一緒に暮らしていく上でお互いのために必要だからと言えます。ただ、精神的に落ち着ける場所としての条件を整えるだけでなく、いかに心地よく過ごせるかも考えながら、ご自分の住環境や愛犬の性格、体格などを考慮して、最適な「犬が落ち着ける場所」としての空間を用意してあげましょう。