犬は匂いに好き嫌いするの?
犬にも匂いの好き嫌いはある
犬には、「本能的に好きな匂い」と「生活習慣の中で好きになった匂い」があるようです。例えば、飼い主さんにとっては、汚くて臭い他の動物の排泄物や、おやつとして与えることがある豚や牛のヒズメの匂いなどは、犬としての本能的な欲求を満たしてくれる「本能的に好きな匂い」です。
一方、「生活習慣の中で好きになった匂い」と言えば、「車に乗ると楽しいことがある」と覚えたら、車の芳香剤の匂いで興奮するようになったり、飼い主さんがおうちでパンやお菓子を作る人なら、小麦粉が焼ける匂いで「おいしいものが食べられる」と察してパンを焼く匂いが好きな犬もいるように、その犬が生活している環境の中で体験した「嬉しいこと」「楽しいこと」が要因となって、その匂いを好むようになった場合です。
私たち人間でも、「なぜ、この匂いが好きなの?」と聞かれたら、「いい匂いがするから」「おいしそうな匂いがするから」「この匂いを嗅いだら、楽しい気分になるから」など、理由はさまざまですが、匂いの好みも人それぞれで、その匂いが好きな理由も人それぞれです。まして、人間より嗅覚が優れているのであれば、犬にも匂いの好き嫌いがあるのは当然ではないでしょうか。
嫌いな匂いを嗅いだ時の行動
- くしゃみをする
- 尻尾を垂らし、近づかない
- 顔を左右に激しく振る
好きな匂いを嗅いだ時の行動
- その匂いを体にこすりつけようとする
- ずっと匂いを嗅ぎ続ける
- 鼻を「くんくん」と激しく動かして匂いを嗅ぐ
犬の鼻の機能について
犬と人の鼻の機能の違い
人間も犬も、鼻腔内に嗅上皮(きゅうじょうひ)という組織があります。
嗅上皮は、嗅細胞(きゅうさいぼう)という細胞からなり、この嗅細胞は鼻の中に入ってきた臭気を脳へと伝える役割を担っています。犬が人間よりも嗅覚が優れているのは、犬の鼻の中には人間の40倍以上の嗅細胞を持っているためです。
匂いの階層化が出来る能力
ただし、この「嗅細胞」が多いからと言って、匂いを強く感じているのではありません。犬は、匂いを強く感じるのではなく、匂いの中に含まれる成分を嗅ぎ分ける能力があるということがわかっています。この能力を「匂いの階層化」と言います。
犬の好きな匂い
1.自然界に存在する有機物のにおい
もともと犬は、自分で獲物を狩って生きていた動物です。
使役や愛玩のために人間に飼育されてきた歴史が長くても、その本能はいまだに犬の本能の中に存在しています。
獲物を追跡し、追いかけて捕らえて捕食する、という犬の狩りの方法では、獲物の残した分泌物や排泄物の匂いを嗅ぎ、獲物の情報を収集することからはじまります。そして、獲物を追跡する際、自分の匂いを消す必要があり、そのために自分以外の動物の排泄物や乾燥した虫、ミミズなどの匂いを体にこすりつけると言った行動をとっていました。その名残で、犬は今でも人間にとったら「不潔で臭い」と思われるような、動物の糞やミミズの死体など、自然界に存在する有機物の匂いを好むと考えられています。
2.家族の匂い
例え、飼い主さん家族内では「臭い」と言われている脱ぎっぱなしの靴下や汗まみれの下着やスポーツウエアの匂いの方を好む傾向があります。
これは、飼い主さんの分泌物の中に含まれる成分の中に「飼い主さんの情報」がかなり濃厚に含まれているため、洗い立てで飼い主さんの匂いが付いていないものよりも汚れて臭いほどの匂いが染みついている物の方が好みなのかも知れません。
3.食事に関わる匂い
焼いた肉や魚を食べたことがある犬なら、その匂いを嗅いだだけで食べ物だと察知します。
それ以外の食べ物でも、犬が食べて「おいしかった」という経験があれば、なおさらその匂いに執着します。
例えば、酸味が強いために犬が好まない、と言われている柑橘類の匂いでも、その果肉を
食べて犬が「おいしい」と感じて記憶していれば、柑橘類の匂いを嫌うどころか、匂いを嗅いで「食べたい!ちょうだい!」と興奮する犬もいます。
犬の嫌いな匂い
私たち人間にも「好きな匂い」と「嫌いな匂い」があります。
排泄物や腐敗臭のように、誰が嗅いでも「臭い」と感じる匂いもあれば、パクチーやチーズ、納豆のように人によっては異常に臭いと感じる場合もあれば、むしろそれら発酵食品の匂いが大好きな人もいます。また、香水や芳香剤の匂いが好きな人もいれば、逆に香水や芳香剤の匂いが嫌いな人もいます。そして、その「嫌い」と言う理由も人によって違います。
ですから、一般的に犬が嫌いだと言われているモノにしても、全ての犬がその匂いを嫌っているとは言い切れません。
ですが、なぜ、嫌いな匂いがあるのかと言うと、人間のように「臭いから嫌い」というだたの好みの問題ではありません。
危険を予知させる匂い
犬は、犬以外の動物が残した排泄物や分泌物から、その動物の情報を嗅ぎ取り、記憶し、分析する能力があります。猪や熊を狩るための猟犬は、何度も狩りを経験するうち、
獲物が残した匂いだけで、性別、年齢、大きさなどを察知するようになります。巨大な動物相手ではなく、虐待など自分に危害を与えたことのある人間の匂いを覚えれば、人間の感じるだけで怯え、警戒します。そうして、自分では到底太刀打ち出来ない相手からの敵意を感じると、犬は自分の命の危険を察知して、怯え、警戒し、その匂いから遠ざかろうとします。
同じ動物の排泄物や分泌物でも、その匂いの中に恐怖を覚える要因があれば、その匂いから遠ざかり、避けるようになります。
ガソリンなどの化学物質による刺激臭
化学物質は自然界に存在しません。ですから、その匂いを犬が嗅ぎ取っても分析することが出来ないのです。まして、その匂いに刺激を感じて鼻の中に
ただし、その匂いを記憶することは出来ます。なにか異常を感じたら、その匂いに対して嫌悪感を持つこともあるでしょう。そのため、一般的に「犬はガソリンなど化学物質の匂いがキライ」と言われています。
けれども、犬は利口で食いしん坊なので、ガソリンの匂いが染みついた服を着ている人に毎日おやつを貰った犬は、ガソリンの匂いを嫌いにならないかも知れません。
自分の排泄物の匂い
犬は、自分の寝床の中では排泄しないという習性があります。
これは、自分の排泄物が体についてしまうと、自分の情報が空気中に発散されてしまい、狩りの成功率が下がるため、自分の体を常に清潔に保つ必要があった名残だと言われています。犬にとって自分の排泄物は、「臭いから嫌い」なのではなく、食糞の悪癖がある犬でない限りは、その匂いを体につけたくない物質なので、自分の排泄物に関して、無関心です。
まとめ
人間と犬とでは、嗅覚の能力に違いはあっても、どちらも匂いに対しての好き嫌いはあります。しかも、人間と同じように嫌いな匂いの理由もおそらく、犬によって違うかも知れません。一般的に犬が嫌うと思われているようなモノでも、犬の経験によってはその匂いを好むようになることもあります。人間にとって「臭い」と感じる匂いでも、犬にとってみればとても心躍り、ワクワクする匂いなのでしょう。ご自分の愛犬がどんな匂いが好きで、どんな匂いがキライなのか、日々の生活の中で、愛犬の仕草や表情を観察してみてはいかがでしょうか。