犬はコミュニケーション能力の高い動物か?
「犬はコミュニケーション能力が高い」と言うのは、動物の世界の中の話ではありません。
野生で暮らしている狼や、一つの群れの中でも役割分担をする草食動物、さらに哺乳類ですらなく、昆虫の中ではスズメバチのように、攻撃する役割、卵を育てる役割、巣を守る役割、縄張りを見回る役割など細かく役割分担している生物もいます。
それらの動物と比較すれば、犬のコミュニケーション能力は、決して高いとは言えません。
けれども、人間が相手である場合、犬ほど高いコミュニケーション能力を持っている動物は他にいないのではないでしょうか。
その証拠に、人間は昔から犬とのコミュニケーションを生かして、さまざまな形で犬の能力を生活の中で役立ててきました。
人間との高いコミュニケーション能力を生かした使役犬
人間は、自分たちの生活のためにいろいろな動物を利用して来ました。
衣食住をまかなうための家畜として、牛、豚、鶏などを飼育し、その番犬として犬を使役しました。また、交通手段や物資の運搬の引手として馬や牛、国によっては、象やラクダも使役されています。けれど、犬ほどたくさんの目的で使役されている動物はいません。
例を挙げると、
- 家や財産を守る番犬
- 羊を統率し、外敵から守る牧羊犬
- 狩猟犬
- 介助犬(盲導犬、聴導犬)
- 軍用犬
- 救助犬
- セラピードック
などがあります。
人間との高いコミュニケーション能力を生かしたドックスポーツ
犬は、私たち人間に使役されるだけでなく、一緒にスポーツを楽しむことも出来ます。
- ドックダンス
- アジリティ競技
- フリスビードック
- 犬ぞりレース
犬のコミュニケーションスキル
私たちは普段、愛犬と当たり前のように意思の疎通を行っていますが、犬はどんな風に人間とコミュニケーションをとっているのでしょうか?
視線を使ったコミュニケーション
目的とする物体があり、そこに到達するためには飼い主さんの力を借りなければならない…。例えば、おやつが高いところにあって、食べたいけれど、届かない。
飼い主さんの顔を見て、おやつを見て、鳴き声をあげる…と言った行動を「交互凝視」といいます。
また、逆に私たち飼い主が視線で目的物を示して、「あれを取ってきて」と言葉だけで指示すれば、その指示を理解し、飼い主さんの指示どおりの行動をとることが出来る…と言ったコミュニケーションも取れます。
嗅覚を使ったコミュニケーション
アメリカのエモリー大学で行われた実験により、犬が飼い主のニオイを認識し、さらには飼い主の感情を共有できることが科学的に証明されています。
私たち人間は、「ニオイ」で他の人の感情を感じ取ることは出来ません。しかし、犬は私たち人間よりもはるかに優れた嗅覚を持っています。
「飼い主さんのニオイ」と「他の人のニオイ」を嗅ぎ分けることなど朝飯前です。
それだけではなく、犬は嗅ぎ取った「ニオイ」の中から、たくさんの情報を得ることが出来ると言われています。
しっかりと信頼関係にある飼い主さんのニオイは、犬にとってはとても安心し精神を落ち着かせるニオイです。
ところが、もし飼い主さんが緊張していたり、なにかひどく動揺していると、一緒にいる犬も緊張し、動揺します。それは、飼い主さんの体から出る汗のニオイで、飼い主さんの感情の乱れを感じ取ることが出来るからです。
聴覚を使ったコミュニケーション
動物としてのコミュニケーション能力の高さで言えば、犬と同じ仲間の狼の方が犬よりも優れています。
けれども、犬は人間の言葉を耳で聞いて、その意味を理解し、行動に利用することが出来ます。しかも、優秀な牧羊犬や猟犬は、人間の指示や言葉に従い、群れ単位で行動することすらできるのです。
犬のコミュニケーション能力が高い理由
犬は、人間に「家畜」として飼われ始めて、さまざまな用途に用いられてきました。
その過程で、それぞれの役割により効率的な容姿、能力が人間によって形成されて、たくさんの犬種が生まれました。
やがて、犬同士で群れを成して生存して来た歴史よりも、人間と共に生きてきた歴史の方が長くなり、犬同士でコミュニケーションをしていく必要が無くなっていきました。
その結果、かつては犬が持っていただろう、狼のような優秀なコミュニケーション能力が大きく後退しました。けれど、その代わりに、犬は「人間」と上手にコミュニケーションできるという独特の能力が高くなったと考えられます。
まとめ
愛犬と一緒に暮らしていると、「嬉しい」「遊んでほしい」「お腹が空いた」「眠たいから寝よう」など、たくさんの感情を私たちに伝えてくるのがわかるようになります。時々、じっと私たち飼い主の顔を見つめてくるのを見つめ返すと、「言葉で話すことが出来たら、もっと言いたいことがわかってあげられるのに…」ともどかしく思うこともありますが、もしかしたら、言葉でのコミュニケーションが取れないからこそ、犬達は私たちに純粋な感情を伝えようとしてくれているのかも知れません。