胃拡張や胃捻転が起こった犬の生活習慣や食習慣を追跡調査した膨大なデータがある!
なんらかの理由で胃にガスまたはガスと水分が溜まりパンパンに張る胃拡張、さらに膨らんだ胃が体内で回転して捻れてしまう胃捻転。どちらも予期せずに突然やってきて、短時間の間に命を落とすこともある恐ろしい病気です。
リスクが高いと言われる大型犬の飼主さんはこの病気を心配している方も多いかと思います。
この病気がなぜ起きるのかは未だに明確になっていませんが、いくつもの要因が複雑に重なった時に起こると考えられています。
アメリカでは10年に渡る追跡調査の統計を取って、胃拡張や胃捻転を患った犬に共通していたリスク要因を挙げたリサーチが広く知られています。信頼のできる医療系の情報では必ずと言って良いほど引用されているデータですが、日本ではまだあまり知られていません。そのせいか、高リスクに分類されている行動が日本の情報サイトでは「予防策」として推奨されているような場合もあるので、ぜひご確認ください。
胃拡張、胃捻転の大規模リサーチの概要
このリサーチを行ったのはアメリカのパデュー大学獣医学校のグリックマン博士の研究チームでした。
リサーチは1994年に開始され、約10年に渡る追跡調査によって行われました。
つまりこのリサーチは病気が起こる科学的なメカニズムを解明するという性格のものではなく「胃拡張または胃捻転を患った犬のうち、○○という行動をしていた犬は△△%」というふうに、事実を数字で表した統計です。
リサーチ対象はグレートデーン、アイリッシュセッターなどの胃拡張/胃捻転のハイリスクグループとされる胸の深い大型犬11種1914頭でした。犬たちは皆、このリサーチ以前にはこの病気になったことがない個体です。
それぞれに生活習慣や食習慣の統計を取り、どのグループでその後胃拡張/胃捻転の罹患があったかを調査してリスク要因を割り出しました。
リサーチが終わった時点でも、もう10年以上前の統計ですが、現在も胃拡張/胃捻転のリスク要因を知り予防を呼びかける際には獣医師や医療の専門家が正式に引用するデータです。
ハイリスクに分類される5種類の犬
ただ単に大型犬というだけでなく、胃拡張/胃捻転にかかるリスクの高い犬の特徴がありました。
1.胸が深くウエストの細い大型犬
これはよく知られているハイリスクグループの特徴です。このような体型の犬は肋骨の内側で胃が動くスペースの余裕があるため胃捻転のリスクが高くなります。
2.高齢の犬
年齢が上がれば、胃を支える靭帯が伸びた状態になるため胃捻転のリスクが高くなります。
大型犬では5歳以降1年ごとに20%ずつ、超大型犬では3歳以降1年ごとに20%ずつリスクが上がっていくと言われています。
3.一親等以内に発症歴のある犬がいる
胃拡張/胃捻転は遺伝病ではありませんが、一親等以内に発症歴にある犬がいる場合は無い場合に比べて約1.6倍の割合で発症していました。
4.早食いの犬
早食いをすると、食べる時に空気を多く飲み込むためリスクが高くなります。早食い防止の器なども市販されているので利用するのも良いですね。
5.怖がりの犬
神経質、攻撃的、臆病な犬はリスクが高くなります。普段はそれほど臆病ではない犬も長くストレスにされされた後にはリスクが高くなります。
犬の生活の中のハイリスク要因
食事の回数、1回の食事の量、フードの原料、食べ方など、生活の中にリスクを高くする要因が隠れています。
食事の回数
1日1回だけ大量のフードを与える方法は最もリスクが高くなります。食事は1日2〜3回に分けて与えます。ドライフードならば、体重15kgあたりカップ1杯強を上限にします。大量のフードが胃に入ると、重みで胃を支える靭帯が長時間伸びた状態になるためです。食事の後に極端に大量の水を飲むことも、胃が重くなるためリスク要因となります。
フードの原材料
フードの原材料一覧の最初の4つ以内(つまり含有量が多い)に脂肪が含まれているフードはそうでないものに比べてリスクが2.7倍になっています。フードのタンパク源が安価な植物性のものである場合、風味を補うため脂肪を多く添加するので、良質の動物性のタンパク源を使用したフードを与えることが大切です。
フードの与え方
この項目は、反対のことをしている例がとても多いので特に重要なところです。
まず、フードの保存料としてクエン酸が使用されているフードを水でふやかして与えることでリスクが4倍以上になります。フードを水でふやかして与えることは胃拡張/胃捻転の予防策として挙げられることが多いものです。クエン酸は合成保存料無添加のプレミアムフードに多く使われています。
そしてもうひとつ。フードのお皿を台に置いて高い位置で食べさせることは、空気を飲みこむ量が増えるためにリスクが2倍以上高くなります。
上の犬の骨格と内臓のイラストにあるように、犬が普通に立っている状態では口から胃につながる食道は曲がった状態になっています。この状態で食べ物を飲み込むと空気が入りやすくなります。犬は頭を下げて食べることで食道は胃に向かってまっすぐの状態になります。
長期間に渡って多くの症例を調査した結果、お皿を台に乗せて食べていた犬の胃拡張/胃捻転の発症率は明らかに高かったということですので、くれぐれもお気をつけください。
食前食後の運動
実は運動についてはパデュー大学のリサーチの中では明確に触れられていません。
確かに食後に激しい運動をしていて胃捻転が発症したという例は多いのですが、食事をした時間から何時間も経った夜中や早朝に発症した例も多く、食後の運動を避ければ胃拡張/胃捻転が起こらないとは言えません。けれども食後すぐに運動をすると、消化器官以外の部分に血流が回るため消化に必要な血流が足りなくなり、体に良くないことは確かです。
食前の運動も、とても激しい運動の直後は同じく血流のクールダウンが必要なので水分補給だけしたら、食事まで少し間を置きます。
まとめ
約10年の調査機関の間に胃拡張/胃捻転を発症した犬の食事や生活習慣の統計を取ってリスク要因を割り出したパデュー大学のリサーチは、現在もアメリカの多くの獣医師が予防の指針にするものです。
従来は「胃拡張や胃捻転を予防するために」と言われていた事柄がハイリスク要因になっている例もあることを多くの方に知っていただきたいと思います。
胃拡張や胃捻転が発症する明確な原因は明らかになっていないため、何をした時に発症したかの統計からリスク要因を減らしていくことが犬の命を救うために大切です。
リスク要因を全て取り除けば絶対安心というわけにはいかないのですが、マニュアル通りにはならないのが生き物の身体です。
ベースになる知識はしっかりと持った上で、自分の犬にとってのベストの調整ができる飼い主でいたいと思います。
《参考》
https://docs.lib.purdue.edu/dissertations/AAI3099198/
http://www.instituteofcaninebiology.org/bloat-purdue-study.html
ユーザーのコメント
女性 匿名
クエン酸が水に溶けるとリスクが高くなるなんて。
幸いにうちの子のフードにはクエン酸は含まれていないのですが、日頃からお湯を入れています。
これからのフード選びは慎重にします。
食器は高くしています。
老犬になり、首への負担を考えての事ですが、早速辞めます。
知らない事は恐ろしいですね。
貴重な記事をありがとうございます。