重症化した場合の死亡率は50%も…犬の『熱中症』のサインとは?特に『リスクが高い犬種』や正しい応急処置【獣医師執筆】

重症化した場合の死亡率は50%も…犬の『熱中症』のサインとは?特に『リスクが高い犬種』や正しい応急処置【獣医師執筆】

犬は、人間のように汗をかいて体温を下げることができません。体表が保温性の高い毛皮で覆われているため、実は人間以上に暑さに弱い生き物です。犬の熱中症は命に関わる病気であり、重症例では死亡率が最大50%にも達します。夜間救急の最前線に立つ獣医師が、飼い主さんに知っておいてほしい熱中症の知識を徹底解説します。

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幼いころから捨て猫や保護犬、迷い犬などを家族として迎え、多くの動物に囲まれて育つ。
東京大学農学部獣医学科卒業後、2019年までは日中の動物病院に勤務。夜間動物病院での勤務を経て独立し、2021年、「夜間の不安を安心に」をモットーに、茨城県内初の年中無休夜間動物病院、つくば夜間動物病院を設立。2025年には水戸夜間動物救急センター、京葉夜間どうぶつ病院を開設し、地域の夜間動物医療体制拡大に尽力。

犬の熱中症、実際はどのくらい起きている?

犬の熱中症トップ画像

当院では5月ごろから熱中症の来院が増え始め、7月〜9月は週に数件のペースで診ています。残念ながら夏場には死亡例もあります。

一方、近年は屋内飼育が一般的になり、空調設備も整ってきたことから、いわゆる「高温多湿での体温調節失敗」による熱中症自体はそこまで増加傾向にはないように感じます。メディアでの熱中症啓発も広まり、飼い主さんの意識が高まっていることも一因かもしれません。

一方、夜間救急では、一般的な熱中症だけでなく、元々の持病に起因した熱中症で受診されるケースが多い印象です。心疾患や呼吸器疾患を抱えている子、てんかん発作などの神経的な疾患を抱えている子は、ハァハァと苦しい呼吸が続いたり、てんかん発作が続いたりすることにより体温調節がうまくできなくなり、熱中症になってしまうことがあります。

持病持ちの子の場合は、季節や室温を問わず熱中症になるリスクがありますので、特別な注意が必要です。

体温と熱中症 重症化した場合の死亡率は50%にも

犬の平熱は38℃台が一般的です。

熱中症になると体温が急上昇し、41℃を超えると体内の細胞に異常が起き、43℃を超えると細胞死が急速に進みます。

重症化すると全身性炎症反応症候群・DIC(播種性血管内凝固)・多臓器不全を引き起こし、重症例の死亡率は最大50%にも達します。

よくある「熱中症シチュエーション」と受診の目安

真夏のドッグランは要注意

  • 仕事から帰宅したら倒れていた(留守番中に発症)
  • 出かける前にエアコンをつけるのを忘れてしまった
  • エアコンの風が届かない部屋にいた
  • 庭で放し飼いにしていた
  • 散歩・屋外活動後に具合が悪くなった
  • てんかんの重積発作(意識のない発作が次々と重なる、または5分以上続く状態)が続いた

特に、留守番中に発症するケースや、てんかん発作が熱中症を引き起こすケースが多くなっています。屋外活動時以外にも熱中症リスクがあることに注意が必要です。

「呼吸が荒く、ぐったりしている」という状態で発見され、来院されることが多いです。

「すぐ病院へ!」と判断すべき熱中症のサイン

以下のサインが見られたら、迷わず動物病院に連絡・受診してください。

  • 呼吸回数が多く、おさまらない
  • ガーガーと苦しそうな呼吸をしている
  • よだれが止まらない
  • 耳や口がコンビニの肉まんぐらい熱い
  • 意識が朦朧としている
  • 横になって立ち上がれない

特にリスクが高い犬種・状態

フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズー、ペキニーズなどの短頭種は、生まれつき気道が狭いため体温調節が難しく、特に注意が必要です。日ごろからガーガーと音を立てて呼吸をする子、いびきをかく子は要注意です。
気道まわりに脂肪がつくと呼吸がしづらくなるため、肥満も熱中症のリスクを高めます。

異変に気づいたときの正しい応急処置

室内でぐったりする犬

飼い犬の異変に気づいたら、まずはかかりつけの動物病院に連絡し、冷静に対応することが大切です。かかりつけ医が診療時間外の夜間の場合は、下記のサイトを活用すると便利です。

正しい応急処置

  • すぐに動物病院に連絡する
  • 涼しい環境(エアコンの効いた室内など)に移動させる
  • サーキュレーターやうちわで顔まわりの空気を循環させる:呼吸による熱放散を助けるため
  • 首や内股(太い血管が通っている箇所)を冷やす:保冷剤はタオルやペットシーツで包んで低温やけどを防ぎましょう
  • 濡れタオルを体にかけ、体表からの熱放散を促す(長毛種や、柴犬などの毛が硬い犬種では効果が薄いことも)

やってはいけないNG処置

「早く冷やさなければ」と焦るあまり、逆効果になる処置をしてしまう飼い主さんも少なくありません。

  • 氷水に浸ける、全身を冷水で流す:こうした方法は一見良さそうですが、足先など末梢の血管が収縮し、逆に熱が体の中央にこもってしまいます。測定した体温は下がっていても、内臓は燃えています。
  • 過冷却:冷やしすぎるのもNGです。すぐに病院に行けない場合は、必ず体温を計測しながら冷やし、39.5℃になったらいったん冷却を中止しましょう。その後は体温測定を繰り返し、正常な体温に落ち着くかを確認します。

飼い主さんが取り乱さずに、冷静に対応してあげることが大切です。

今日からできる熱中症予防のポイント

水分補給する犬

  • 冷房や換気を適切に行い、室内の温度湿度を管理する:湿度は60%以下に保ち、エアコンの風が届かない部屋に留守番させることのないよう気をつけましょう。
  • 夏場の屋外活動は最小限にする:屋外のドッグランなどはワンちゃんが楽しくなって遊び過ぎてしまい、気づいたら熱中症になっていた、というケースも。熱い場所に長時間滞在させないよう、飼い主さんが管理してあげてください。
  • アスファルトを避けた散歩コースを設定する
  • 散歩の際は、頸部を冷やし、こまめに水分補給をする
  • 散歩から帰ってきたら、涼しい環境でしっかり休ませる

夜間救急の現場から

点滴する犬

熱中症は、実は診断がなかなか難しい病気です。

勤務医時代に、呼吸困難で来院したバーニーズ・マウンテン・ドッグを、上司の獣医師が熱中症と診断。抗生物質や抗炎症剤などの薬物治療を一切行わず、冷却処置だけで元気にして帰していくのを見て、「的確な診断と治療の重要性」を強く再認識しました。

一方で、熱中症は重症度に大きな幅があります。1時間ほど冷やすだけで元気になる子もいれば、体温を下げることはあくまで治療の入口にすぎず、ボロボロになった体を何日もかけて立て直す必要があるケースも。

当院を開業して2年目の夏、冷房のない部屋でお留守番をしていたパグが、夜間に運び込まれました。体温計で測りきれないほど高体温で、意識もない状態でした。

熱を下げるだけでなく、即座に点滴を開始し、昇圧剤や輸血なども必要に応じて対応しながら、ミスが許されない数日間を乗り越えて、最終的に元気に退院していただくことができました。

獣医師からのメッセージ

犬は、人間のように汗をかいて体温を下げることができません。また、体表が保温性の高い毛皮で覆われているため、より暑さに弱い生き物です。

さらに犬はどんなに暑くても、散歩やドッグランでは嬉しくてはしゃいでしまいます。元気そうに見えても、かなりの高熱になっている可能性があることを忘れないでください。

熱中症は、命を奪う可能性がある病気です。一度も熱中症にさせないよう、夏場は十分に注意してあげることが大切です。

もし万が一熱中症が疑われる場合には、必ず動物病院を受診してください。

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