犬の歴史とは
犬は人間と暮らす動物のなかで最も古い歴史を持つ動物であると考えられています。犬の先祖と考えられる動物は私達人間が地球上に誕生するよりも前に存在しているとされていますが、いずれも不明確な部分が多く犬がいつ、どのようにして誕生したのかどうかなど、犬の歴史の実態は現在でも明確になっていません。
しかし、犬の先祖といえば現代で一番身近な動物として「オオカミ」の存在があります。犬とオオカミのDNAは殆ど同じ構成であることや、血統を辿っていくとオオカミの血が流れている犬種も確認されているため、犬の歴史のなかでも犬が「家畜化されたオオカミ」であったことはほぼ間違いないと考えられてきました。
長年の研究が功をなし、近年DNA解析によってイエイヌは「約13万5000年前にオオカミから派生した突然変異種である」ことが証明されています。同時に犬の歴史のなかでも有力とされていた「オオカミとジャッカルの混血説」については否定されることとなりました。本記事では犬の起源と考えられる動物やそれらの進化、人との関係など犬の歴史について解説します。
犬の歴史の起源である動物
犬の歴史のなかでも、犬の起源と考えられている動物についてご紹介します。
ミアキス
ミアキス (Miacids or Miacis) は、約6500万年~4800万年前に生息した小型捕食者であり、現在存在している全てのイヌ科の先祖にあたる存在とされています。イヌ科の他にもネコ科、クマ科の先祖にもあたり、体長約30cm、長くほっそりとした胴体と尾、短い脚を持ち「イタチ」によく似た姿をしています。
このミアキスは現代の犬によく似た骨盤、ネコ科の特徴である引っ込めることのできる鉤爪(かぎづめ)などを持ち、後にそれぞれイヌ科、クマ科、ネコ科へと分岐することとなります。
キノディクティス
キノディクティス(Cynodictis)は、約3720万~2840万年前に生息した小型肉食獣です。前述したミアキスが進化した存在であると考えられており、体高は約30cm、平べったい体型に長いマズルを持ち、走ることや穴を掘ることが得意であったと考えられています。
キノディスムス
キノディスムス(Cynodesmus)は前述したキノディクティスが更に進化した動物であり、3330~2630万年前頃に生息していた肉食動物です。体の大きさは現在の「ハイエナ」によく似ており、姿形は犬よりも猫に近いものであったと考えられています。現在のイヌ科リカオン属の祖先とされています。
トマークトゥス
トマークトゥス(Tomarctus)は、約2300万年~1600万年前に生息した肉食動物で、前述した
キノディスムスとは別にキノディクティスから進化した動物であると考えられています。その姿は現在の犬によく似ており、イヌ科動物の祖先として最も有力な存在であると推測されます。
イヌ科イヌ属の派生
約2000万年前、イヌ科の祖となるトマークトゥスが出現した後、イヌ科は更に派生を続けることとなります。11属にはキツネ属(ホッキョクキツネ属、ハイイロギツネ属、クルぺオキツネ属、カニクイキツネ属、オオカミキツネ属)、タヌキ属、ドール属、タテガミオオカミ属、ヤブイヌ属、そしてイヌ属があり、このイヌ属から更に7種に枝分かれします。
イヌ属からアメリカアカオオカミ種、コヨーテ種、ヨコスジジャッカル種、セグロジャッカル種、キンイロジャッカル種、アビシニアジャッカル種、タイリクオオカミ種に派生し、現在私達が共に生活を送る「イエイヌ」はタイリクオオカミ種に分類されます。
タイリクオオカミ
ハイイロオオカミとも呼ばれるタイリクオオカミ、学名Canis lupus(カニスループス)は、体長100cm~160cm、体高60cm~90cmとされていますが、生息地域によって体格にはバラつきがあります。タイリクオオカミは、同じイヌ属に分類されるアメリカアカオオカミ、アビシニアジャッカル、コヨーテ、更にイエイヌとも相互交配が可能な種であるとされています。
タイリクオオカミの亜種
タイリクオオカミにはイエイヌを含む約30種以上の亜種が存在しており、いずれも学名上ではCanis lupus(カニス・ループス)が名称の頭に付けられています。タイリクオオカミの主な亜種は以下の通りです。
名称 | 学名 |
---|---|
イエイヌ | Canis lupus familiaris |
ニホンオオカミ | Canis lupus hodophilax |
エゾオオカミ | Canis lupus hattai |
ホッキョクオオカミ | Canis lupus arctos |
シベリアオオカミ / ツンドラオオカミ | Canis lupus albus |
エジプトオオカミ | Canis lupus lupaster |
カスピオオカミ | Canis lupus cubanensis |
シンリンオオカミ | Canis lupus lycaon |
アラビアオオカミ | Canis lupus arabs |
メキシコオオカミ | Canis lupus baileyi |
イタリアオオカミ | Canis lupus italicus |
グレートプレーンズオオカミ | Canis lupus nubilus |
つまり、私達人間と暮らす「イエイヌ」は分類学的には「ネコ目イヌ科イヌ属タイリクオオカミ亜種イエイヌ」となります。このように犬の歴史のなかでもその祖先や血統については未だ不明確な点が非常に多いのが現状です。
しかし、2019年2月には米国メイン州メイン大学のローリー・コネル教授の尽力の元、19世紀からの純血種の血統台帳、犬種レジストリーが公に利用することが可能となりました。この貴重な血統台帳があれば繁殖において遺伝性疾患などを防ぐ交配を行うことができるだけでなく、世界各国の犬種一覧表の内容の充実、更に犬そのものの歴史の研究への貢献も期待できそうです。
犬の歴史と進化
犬の歴史の起源である動物で紹介した動物達がどのような歴史を刻み、進化を経てきたのかをご紹介します。年代については資料により若干の差がありますのであくまでも目安程度としてご覧ください。
ミアキスの出現
イヌ科を含む食肉目の祖とされるミアキスが出現したのは「新生代 第三期 紀始新世」頃と考えられています。新生代に入ると陸上の動物では恐竜が絶滅、哺乳類が大発展したことから「哺乳類の時代」と呼ばれます。この後、斬新世に入ってキノディクティス、キノディスムスへの進化、更に中新世から鮮新世頃にイヌ科動物の祖先となるトマークトゥス(トマークタス)の出現と続きます。
イヌ科イヌ属の派生
トマークトゥスの出現の後、人類が誕生したとされる新生代 第四紀 更新世にかけてイヌ科イヌ属への派生や亜種の枝分かれが続いたと考えられており、この後長い月日を経て同じ更新世、約15万年前頃にオオカミから派生した「イエイヌ」が誕生したと推測されています。
飼い犬のルーツ
新生代 第四紀 更新世後期(旧石器時代後期)から完新世初期にかけて人類の遺跡からオオカミの骨が発掘されていることから、人とオオカミは共通の地理や生活環境で生活していたと考えられています。この時期が「オオカミの家畜化」に深く関わっていると推測されますが、この家畜化の経緯については様々な見解があり、現在でも明確となっていません。
イエイヌの化石の出土
中石器時代には、日本古来の飼い犬とされている「縄文犬」の化石が出土、更に新石器時代になると様々な犬種の骨が出土するようになります。また、現在の純血種とされる犬の品種が人為的に作出され始めたのが8世紀頃、さらに作出が活発化したのは18世紀以降とされています。この頃には現在の純血種の原型となる犬種がほぼ出揃っていたと考えられています。
つまり、食肉目の祖であるミアキスからキノディクティス、トマークトゥス、タイリクオオカミ、タイリクオオカミの亜種イエイヌとして進化してきたと推測されます。
犬の歴史と人との関係
犬の歴史に人が関わり始めたのは遅くとも更新世の中期以降頃と考えられています。人間と犬の歴史、つまり犬(オオカミ)が家畜化した経緯については明確になっていないものの、以下のように推測されています。
飼い犬のルーツ
旧石器時代には人類の遺跡からオオカミの骨が発掘されています。この時期は「ゆるやかな接触の時期」と表現されることもあり、家畜化というよりはお互いの利益のために同じ地理上や生活環境に共生していたと考えられています。エサを求めて人が暮らす場所へと出没したオオカミが何らかのきっかけで人との接触が増え、徐々に犬化したのではないかという説もあります。また、人類の祖先とされるクロマニョン人(旧石器時代後期に分布)は、既に犬と暮らし狩りをさせていたと推測されています。
古代日本においての飼い犬の歴史
古代日本においては縄文時代に入ると、既に「飼い犬」「ペット」という概念が存在していたと考えられています。狩猟生活を送っていた縄文人は非常に犬を大切に扱っていたと推測されており、縄文早期には犬を丁寧に埋葬した形跡も発見されています。
犬に限らず動物と人間の歴史には様々な観点での見解があり、単純な年表で表すことは不可能と言えます。犬と人間の歴史に関して世界的に見ても食用として扱っていた歴史もあれば神と崇めた歴史も存在するなど、国や時代によってその歴史は変化を続け、長い年月を経て今の関係を築き上げてきたことには間違いありません。
まとめ
犬の歴史と人との関係についてご紹介しました。犬の先祖はオオカミであり、現在のイエイヌは約13万5000年前、オオカミから派生した突然変異種であるということが分かっています。オオカミが家畜化、つまり人と暮らすようになった経緯については不明点が多いものの、オオカミが持つ「群れで行動する」という気質が人間との共生に上手くマッチしたという説が有力とされています。
つまり、人にとってオオカミは番犬や狩猟犬のような役割を持ち、オオカミにとっては人が暮らす場所では「エサ(残飯)」が安全に食べられる、一緒に狩りをすれば「獲物が捕らえやすい」などお互いにメリットがあるというシンプルなきっかけだったのかもしれません。今後の研究で犬の歴史や人との関係、その経緯などが明らかになることを期待したいですね。
ユーザーのコメント
40代 女性 leon
広い敷地内には、犬小屋、餌場、日除け場、子犬養育場があり、専門医や役人が配備されていたとのこと。
優遇された環境で、犬たちはどんな生活を送っていたのでしょうね。
また大きな犬囲いがあったこの場所の旧名は「囲町」だったということです。摩訶不思議な「生類憐みの令」ですが、区役所へ届出をしに行った際にこの記念碑を見つけた時はちょっと嬉しかったです。
女性 つなぽん
40代 女性 ケーキ
私が飼っているのは洋犬ですが、やはり柴犬は大好きです。住まいの関係で小型犬を飼っていますが、柴犬を見ると心が和みます。いつかは飼いたいなと思っています。
聖徳太子が犬に名前を付けてかわいがっていたという記録があるとどこかで読んだのですが、狩猟犬や番犬だったとしてもはるか昔から犬と心が通じるということがあったのでしょうね。
逆に昔の人々が犬と良い関係を作って来たからなのかな、改良してきたからなのかな、とにかく現代の犬が人間を好きでいてくれることに感謝ですね。
女性 aoi
私が引っ越しをする前にいた近所に、アジアの外国の方が住んでいました。当時うちで飼っていた赤毛の犬を見ては「赤毛だからおいしいよ」とカタコトで言われ、愛犬が食べられてしまうかもしれないととても怖くなったのを覚えています。番犬として飼っていたので屋外でした。その後、しっかりと全方位を囲む柵を取り付けたきっかけでもあります。
こうして古来の日本の歴史と同時に犬の扱いを見ていくと、人間の勝手なエゴがあからさまに表れていてとても複雑です。過去の過ちは二度と起こさないよう、現在に生かしていかなくてはなりませんね。
30代 女性 nico
50代以上 男性 くうたろう
戦時中、イヌの毛皮を戦地の兵隊さんに送る、非常時に犬を飼うのは贅沢だ、という理由から飼い犬が集められ殺されました。毛皮云々は真っ赤なウソ、駆り集めた憲兵たちに殺され、死にきれなかったイヌ達の悲鳴が聞こえたそうです。
父が子供の頃、やはり飼い犬が取り上げられ、帰ってこなかったそうです。
「ある日憲兵が来て『犬を飼っているだろう』と言いに来た。『いない』と答えたけど『いるはずだから、名前を呼べ』と言う。呼んでもいつもは来ないのに、その時に限って出てきてしまった」見てる前では嫌だろうから、とどこかに連れて行ってしまった。と、祖母が昔話をしてくれたことがあります。
女性 たこ