食べ物に潜ませて与える経口投与のワクチン
狂犬病のワクチン接種と言えば、チクリと注射をするイメージが強いですが、トリーツなど食べ物に潜ませて経口投与するタイプのワクチンが、野犬の多い国で狂犬病の蔓延を抑えるのに一役買ってくれるのではないかという研究が行われています。
研究は複数の団体が関わり、インドのゴア州で州政府の協力を得て行われています。イギリスの動物保護団体ドッグズトラスト・ワールドワイドからの資金提供、アメリカの企業MSDアニマルヘルスから、ワクチンの物資提供も受けています。
インドのゴアで野犬を対象に実験
インドには推定1億匹の野犬がいると言われています。犬たちが自由にどこでも歩き回っている状態なので、一匹でも多くの犬に狂犬病のワクチン接種を受けさせることは、人間の安全のためにも重要です。現在は野犬を捕獲〜ワクチン接種〜解放という方法をとっていますが、経口ワクチンを食べさせることができれば、時間と人手が大幅に節約できて効率が上がります。
経口狂犬病ワクチンはインドでの使用がまだ認可されていないので、今回の研究では経口投与という方法が可能かどうか、またその流れをテストするため、空のカプセルを仕込んだ食べ物(擬似ワクチン)が使用されました。ワクチン部隊がモペットバイクに乗って野犬を探し、カプセルを仕込んだ食べ物を与えました。チームの各メンバーは毎日35匹の犬に擬似ワクチンを与えることができました。現行の犬を捕獲して注射する方法では1日に9匹なので、その差は歴然です。
また、擬似ワクチンは発見した犬の80%に投与することができたのに対し、現行の方法ではワクチンを注射できる犬は発見した犬の63%であるのも大きな差です。この新しい方法と既存の方法を組み合わせると、毎日現行の3倍以上の犬にワクチン接種をすることができます。このテスト結果は、狂犬病予防活動のNPOや獣医師団体、エディンバラ大学の研究者などの専門家からも高い評価を得ています。
狂犬病ウイルスがある地域に侵入した場合にその地域動物の70%に免疫があれば狂犬病は広がらないと言われています。経口投与のアプローチを実行することで、この数字が可能になると考えられます。
経口投与の狂犬病ワクチンの意味
日本のように狂犬病が排除されている国では実感が持ちにくいですが、地球上では今もこの病気で毎年約5万9千人がなくなっています。この研究が示した根拠をもとに経口投与のワクチンが導入され、狂犬病根絶へのステップとなることが期待されています。
この実験の評価にも参加した狂犬病予防活動のNPOミッションレイビースの創設者でもあるギャンブル博士は、「狂犬病は病気としての恐ろしさだけでなく、結果として生じる恐怖も社会に大きな影響を与えます。」と述べています。ワクチンを注射から経口投与に切り替えると言うと、単純で小さな変化のように聞こえますが、地球規模で見ると絶大なインパクトのある新しい方法だと言えます。
まとめ
狂犬病のワクチンを食べ物に仕込んで経口投与することで、インドのような野犬の多い国でワクチン接種率をアップさせ、病気の蔓延を防ぐのに貢献するという研究の結果をご紹介しました。日本とは無縁の話だと思われる方もいるかもしれませんが、野犬の増加が大きな問題となっている地域は日本にもたくさんあります。また、狂犬病はほとんどの哺乳類に感染する致死的な感染症であること、人や動物もワールドワイドに移動していることを考えると、決して日本とも無縁の話ではありません。日本の法律では野犬を捕獲して再度解放したり、ワクチン接種だけを行ったりするというのはできないことですが、公衆の安全のためにこのような方法もあるということは知っておいた方がいいように思います。
《参考》 https://phys.org/news/2019-04-rabies-benefit-oral-dog-vaccine.html
狂犬病の経口ワクチン(経口:口から食べること)はインドでは現在認可されていませんが、欧米では野生動物に対しての投与が長年行われています。