「犬に咬まれないために」YouTubeを使った犬の咬傷事故の研究結果

【獣医師監修】「犬に咬まれないために」YouTubeを使った犬の咬傷事故の研究結果

犬が人間を咬んでしまった事例を研究するために、YouTubeにアップされた動画を分析した結果が発表されました。犬の咬傷事故を防ぐためにどんなことに気をつけるべきか、ご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

YouTubeの動画で犬の咬傷事故を分析

歯をむいて警告している柴犬

犬の咬傷事故の防止は、犬と人間両方の安全や福祉のために重要ですが、たいへん残念なことに世界中で犬が人間を咬んでしまう事故は後を絶ちません。

なぜそのような事故が起きるのか、何が引き金になるのかなどを多くの研究者が調査していますが、他の犬の研究実験のようにその現場を直接観察したり再現したりということが不可能なのがこの研究の難しいところです。

このたびイギリスのリバプール大学の研究チームが、実験に代わる方法としてYouTubeにアップされている犬の咬傷事故の動画を検証分析して事故の性質や事故直前の犬と人の行動を調査し、その結果を発表しました。

動画の分析と調査の結果は?

骨を守ろうとしているジャックラッセル

「dog bite」「dog attack」「dog bites man/woman」「dog bites child」「kid gets bitten」(それぞれ、「犬 咬む」「犬 攻撃」「犬 咬む 男性/女性」「犬 咬む 子供」「子供 咬まれる」の意味)を検索ワードでとし、論文の筆頭著者が話す英語、ポーランド語、フランス語の3言語で検索して、襲撃訓練の動画などを除いた143の動画が調査の対象となりました。

そのうちの、犬と人間のかかわりが始まった時点から咬まれるまでの詳細が全て映っている56本の動画は、犬が咬む前の行動についての分析にも使われました。

もちろんYouTubeの世界は真実をそのまま映すものではありません。人間の目に「おもしろい」とか「かわいい」と見えるものが多くアップされている傾向があるため、小型犬が人を咬んでいる本当は深刻なケースでも「おもしろ動画」と分類されていたりします。

他にも、撮影されやすい状況やアップされやすい動画とはどんなものか、動画の画質や編集の仕方などによっても分析結果は左右されるためYoutubeを使った調査にはマイナス面もありますが、そのようなことを差し引いても、咬傷事故とその前の行動との関連の分析をするためにこの調査は有効だったそうです。

分析に当たって、研究チームは「犬が咬む」ということの定義を「犬が人間の身体の一部を口に咥えて圧力をかける」としました。

アップされた動画から分析された被害者の年齢や性別、怪我の概要は、今まで発表されている多くの咬傷事故のデータと一致していました。

最も多く咬まれているのはと乳幼児、咬まれているのは男性の方が多い、男性、大人が咬まれた場合の怪我は腕や足が多く、子供が咬まれた場合には顔や首が多いなどです。

何が犬が咬む引き金になったのか?

防御のため警告するミニピン

最も重要なのは人間のどんな行動が犬が咬む引き金となったのか、またそれは予測することができたのかということです。

研究チームが発見した特に重要なキーは「咬む前の20秒間」でした。実際に犬が咬むという行動を起こす前の平均して20秒の間に、犬は身体の筋肉の硬直(いわゆる、かたまった状態)、唸り声を出す、顔をしかめる、歯を軽く当てる・軽く咬む、顔をそむけるなどのボディランゲージを示していました。

犬は「これ以上しつこくすると咬みますよ」という警告を発していたわけで、この時点で人間が犬から離れていれば咬傷事故は防ぐことができたと考えられます。

さらに、咬みつきの約30秒前の犬の行動を見ると、耳をペッタリと倒したり位置が低かったり後へ倒したり、体を低く伏せたりして不快である、恐怖・不安を感じているという表現もしていました。

一方、犬が咬む前20秒間の人間の行動も観察しました。犬の嫌いな医療行為、虐待やからかう行為、食べ物やおもちゃに関する行動は一般的が咬む前に見られる行動だと以前から言われています。しかし、咬まれた人がなぜ咬まれたのか、なぜ犬が咬むことに気づけなかったのか分からない場合も多いのです。

今回の研究では、以下のような人間の行動が、犬に咬まれる前に見られました。例えば犬の上に屈みこんだり犬をまたいで立つ、犬をなでる、犬を押さえ込む、です。

また、犬のそばで笑ったり、人間が寝転んだりすることが犬が咬む15~18秒前に見られ、犬が咬む直前には大声で叫ぶ、(犬に咬まれた痛みではなく、咬まれるという恐怖による行動と考えられます)という行動が多く観察されました。

また犬が咬む21秒前までは、人間が犬に近づく方向の動作が多かったのに対し、犬が咬む9秒前からは人間が犬から離れていく方向の動作が増えていたことも分かりました。

犬に咬まれないための注意事項は?

目線を外してあくびする犬

「犬の上に屈み込んで撫でる」「大きな声を出す」「犬の目を凝視する」などは、従来から多くの動物行動学者やドッグトレーナーがしないようにと呼びかけていることです。

この研究では、これらの人間の行動が実際に咬む行動に結びついた映像を確認でき、犬がどのくらいの長さの警告時間を与えているかを検証できたと思います。

上に挙げたような行動は人間に悪意がなくても犬にとっては不快だったり、時には恐怖を感じたりするので、犬との関係によっては避けなくてはなりません。

飼い主と愛犬の関係であれば、犬の許容範囲は少し大きくなります。犬が自分の犬でない場合、特に知らない犬の場合には絶対にやめましょう。

上記の行動だけでなく、犬が発しているボディランゲージの意味を学び知っておくことは、犬と暮らす上で必要不可欠なことです。もちろん子供達にもしっかりと教えておかなくてはいけません。

まとめ

笑顔のコーギー

イギリスの研究者による、YouTubeの動画から犬の咬傷事故を分析調査した結果をご紹介しました。
犬は実際に咬む行動の前の20秒間に様々な警告を発していること、犬をなでたり押さえ込んだり、また犬にまたがったり犬によりかかるといった人間の行動が犬が咬む前に多く見られることが観察されました。

この事実をしっかりと認識して、犬と暮らしている人は書籍やセミナーなどで一度しっかりと犬のボディランゲージについて勉強する必要がありますね。「犬があくびをした時は相手に”落ち着いて”と伝えたい時」など断片的な情報でなく、総合的に学ぶことが大切です。

犬と人間が安全で幸せに暮らすために、多くの人に犬が発する信号を知っていただきたいと思います。

《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/05/180510133029.htm

監修獣医師による補足

≪参照≫ Owczarczak-Garstecka, S.C., Watkins, F., Christley, R. et al. Online videos indicate human and dog behaviour preceding dog bites and the context in which bites occur. Sci Rep 8, 7147 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-25671-7

【補足】 この記事で説明されている以外にこの論文に書かれていることを紹介します。

この研究で人を咬んだ犬種で多かったのは、ジャーマンシェパード、チワワ、ラブラドールレトリーバー、ピットブルで、この結果はこれまで調査された結果と一致しているそうです。ただ、この結果はこれらの犬種が人を咬みやすいということなのか、それとも単にイギリスで多く飼育されているからなのか、については分かっていません。

犬による咬傷事故のデータは人間の医療機関から集められることも多いのですが、その場合にはチワワはあまり話題にあがりません。チワワに咬まれても、傷が小さく済むことが大きいからです。しかし動物の行動学についての調査では、チワワは犬全体の平均よりも人間や他の犬に対する攻撃性が高いという結果が出ているそうです。

犬をなでたり、上から触ろうとしたり、抱きしめたり、犬に話しかけたり、犬と一緒にまたは犬のそばで歩いたり、といった人間が犬に悪意を持って行ったものではない行動や、犬も遊びに誘う姿勢をとっていたり、ひっぱりっこをして遊んでいたりするような時に犬が人を咬んだ割合が、55.24%でした。

この数字は、飼い主が飼い犬と触れ合っている時の映像がYoutubeにアップされやすい、という理由もあるでしょうが、飼い主が悪意なく犬に対してとっている行動が犬は嫌いなことがある、という可能性を示しています。

犬は咬むという行動に出る前に、恐怖や不安、ストレスが強まっていることを様々な方法で表していて、人は咬まれることから回避するための十分な時間があるはずなのに咬まれてしまう理由としては、人が犬からのシグナルに気づくのが遅すぎる、または全く気付かない、または気付いていても自分が咬まれるわけがないと思い込んでいるのかもしれない、としています。

あくびをしたり、口や鼻をなめたりといった転位行動(その状況にそぐわない行動で、葛藤や欲求不満がある時に、ストレスや不安を軽減させるためにとる行動)や、視線をそらしたり顔をそむけたりといったなだめ行動、服従行動、そして姿勢や耳の位置の変化といったボディランゲージが本研究でも認められ、この記事内でもその重要性が説明されています。転位行動やなだめ行動は最近では一般的に「カーミングシグナル」としてよく知られています。

また今回の研究結果は、「ladder of aggression(攻撃へのはしご)」によっても予想しえた結果であるとも説明されています。ladder of aggressionは、イギリスの獣医師、動物行動学者であるKendal Shepherd氏が作成した、犬が攻撃として咬む時に、咬むにいたるまでに見られるカーミングシグナルとボディランゲージをまとめたものです(英語版はhttps://www.kendalshepherd.com/the-canine-commandments/からダウンロードできます)。

獣医師:木下明紀子
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