はじめに
あなたは、外の気配にいちいち吠える犬や、散歩中にすれ違う全てのものに吠える犬の、そんな犬の飼い主に対して、『どうしてちゃんとしつけないのだろう?どうして注意しないのだろう?』と思ったことはありませんか?
またそれとは逆に、吠える犬に対して、「吠えたら駄目!」「静かにしなさい!」「うるさい!」と叱る飼い主の声を聞いて、『どうしてあんなに怒るのだろう?あんなに怒らなくてもいいのに…』と思ったことはありませんか?
犬にも個性があり、しつけやすい犬もいれば、どんなに努力しても成果が出ない犬もいます。
犬に関する知識を知らずに飼い始めた場合、近隣住民との間でトラブルが発生したり、トラブルを避けようと社会に背を向けた暮らしに一変してしまうこともあります。
『ちゃんとしつけるから大丈夫!』と思っていても、その思いに反して思い通りの成果が出ない場合もあることを覚悟した上で、『犬を迎え入れる』ことがとても大切だと思います。
そして犬を迎え入れるということは、その命に対して責任を持つということであり、同時に社会に対しても責任を負うということを自覚しましょう。
それでは、『動物の愛護及び管理に関する法律』から、飼い主が知っておくべき事や、持つべき責任について、一緒に考えていきましょう。
生後56日を経過していない子犬を販売してはならない
幼齢の犬又は猫に係る販売等の制限
生後56日を経過していない犬、又は猫を、母犬・兄弟姉妹から引き離したり、販売のために引渡したり、展示してはならない (第22条の5)
一定の日齢に達していない子犬を、母犬・兄弟姉妹から引き離すと、十分な社会化が行われず、成長後に吠え癖や咬み癖などの問題行動を起こす可能性が高まるとされています。
ペットショップなどで、とても小さな可愛い子犬を見つけた時には、この法律のことを少し思い出してみてください。
もしかしたら、母犬からもらえなかった分も含め、想像以上の愛情を必要としている子犬かもしれません。
終生飼養の原則
動物の所有者又は占有者の責務等
その命を終えるまで、適切に飼養することに努めなければならない (第7条の4)
みだりに繁殖して、適正に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない (第7条の5)
一度家族に迎えたら、最後まで責任を持つというのは飼い主として当たり前のことですが、これは動物愛護法でも上記のように定められています。
犬を迎え入れる前に、必ずこのことが守れるかしっかりと考えましょう。
命の尊さと痛みへの理解
基本原則
みだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮し、その習性を考慮して、適正に取り扱うようにしなければならない (第2条の1)
適切な給餌及び給水、必要な健康管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した、飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない (第2条の2)
虐待行為をした者への罰則
- みだりに殺し、又は傷つけた者には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金 (第44条の1)
- みだりに虐待した者には、100万円以下の罰金 (第44条の2)
- 遺棄した者には、100万円以下の罰金 (第44条の3)
飼い主が動物虐待の加害者になりうることは、あまり広く知られていないように思います。
何が虐待にあたるかの判断基準は、『苦痛』です。
つまり、動物が心身ともに苦しむことのない状態におかれているか否かです。
判断基準の一つに『5つの自由』というものがありますので紹介します。
①飢え・渇きからの自由…十分な食物と水が与えられているか
②不快からの自由…風雪雨や炎天を避けられる快適な休息場所があるか
③苦痛からの自由…健康管理・病気予防・適切な治療はされているか
④恐怖・抑圧からの自由…恐怖や不安、精神的苦痛や多大なストレスがかかっていないか
⑤自由な行動をとる自由…正常な行動やコミュニケーションができる環境が与えられているか
飼い主に悪意はなくても、その動物にとって必要なものや適切な環境が何であるかを知らずに、虐待的な飼養管理をしてしまっていることがあります。
どのような状況が虐待にあてはまるのか、いくつか羅列しておきます。
- いじめたり、不必要に傷つけたりする
- 食餌や水を与えない
- 自分で管理ができないような数や種類の動物を飼養して、不適切な飼養環境になる
- 健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束する
- 病気の予防や治療をしない
- 清掃を怠る
- 脅していうことをきかせる
そして、虐待行為には罰則が適用されます。
明らかに虐待行為だと認識できるものだけでなく、意図的なものではないが、心身の健康や衛生面に配慮しない不適切な飼い方も、虐待行為に入ります。
可能な限り自然の習性にあった行動をさせてあげられているか、様々な場面で、この法律のことを少し思い出してみてください。もしかしたら、知らず知らずのうちに、虐待に近い行為をしてしまっているかもしれません。
近隣住民への迷惑行為
動物の所有者又は占有者の責務等
動物の健康や安全を保持するように努めるとともに、動物が人の身体や生命に危害を加えたり、財産に害を及ぼしたり、生活環境の保全に支障を生じさせたり、鳴き声や臭気などで人に迷惑をかけたりすることのないように努めなければならない (第7条の1)
多頭飼養者への罰則
周辺の生活環境が損なわれている事態を生じさせていることに対して、都道府県等の勧告に基づく措置をとらなかった場合に出される命令に、従わなかった多頭飼養者には、50万円以下の罰金 (第46条の2)
多頭飼養者に対しては、臭気・鳴き声・毛の飛散・多数の昆虫やネズミの発生などで、近隣住民の生活環境が損なわれている事態が生じていると認められた場合には、罰則が適用されることがあります。
多頭飼養とは、犬猫で概ね10頭以上とされていますが、集合住宅での飼養など飼育環境により、もっと少ない頭数でも多頭飼養とみなされる場合があります。
散歩中は犬や周囲の安全のために必ずリードを使用し、飼い主が主導権を握ります。
もし、散歩中に排泄をしてしまった場合は、尿は水で洗い流し、便は取り残しがないように持ち帰りましょう。
散歩は排便排尿をさせることが目的ではありません。
排便や排尿は、できるだけ散歩に出かける前に済ませるようにしつけましょう。
飼い主のマナーや社会のルールを守り、常に周囲に迷惑をかけない心掛けが大切です。
人と動物の共通感染症
動物の所有者又は占有者の責務等
動物に起因する感染性の病気について正しい知識を持ち、飼い主や周囲の人たちへの感染予防のために、注意を払うよう努めなければならない (第7条の2)
動物に起因する感染性の病気の中には、動物との不用意な接触や取扱いによって、人に感染してしまう共通感染症が多くあります。
感染すると犬の命にかかわるだけでなく、自分や周囲の人たちにも危険が及ぶこともありえます。
是非とも正しい知識を収集し、万全の予防策をとりましょう。
予防策としては、ワクチンや予防薬がありますので、獣医師に相談してみてください。
飼い主の連絡先
動物の所有者又は占有者の責務等
動物が逃げ出すことを防止するために、必要な措置を講ずるよう努めなければならない (第7条の3)
自己の所有であることを、明らかにするための措置を講ずるよう努めなければならない (第7条の6)
逃げ出した動物が、人の生命、身体又は財産へ危害を加えたり、野生化することで生態系へ悪影響を及ぼしたり、農作物等への被害を生じさせたりと、様々な問題を起こしています。
自己の所有であることを明示することで、飼い主(責任)の所在が明らかになり、動物が逃げ出した場合には、飼い主を発見することもできますし、また、盗難や遺棄の防止にもつながります。
具体的な明示方法としては、飼い主の氏名及び電話番号等の連絡先を記した首輪、迷子札、又は飼い主の情報を登録したマイクロチップ等があります。
犬に関しては、狂犬病予防法に基づいて、鑑札と狂犬病予防注射済票の装着が義務付けられており、心強いことに、この義務を果たすことで、必然的に飼い主を明示したことになっています。
ところが残念なことに、室内犬だから、小型犬だから、毛が傷むからと、この義務を果たさない飼い主がいます。
万一、犬が飼い主とはぐれてしまった時に、この義務だけでも果たしていれば、鑑札や狂犬病予防注射済票の番号から、飼い主を割り出し、飼い主に連絡が入るようになっています。
鑑札や狂犬病予防注射済票を記念に保管していては、せっかくの取り組みも機能しません。
登録と狂犬病の予防注射をした時には、この法律のことを思い出し、この御守りを犬に取り付けてあげてください。
もしかしたら、紛失したり、損傷するかもしれませんが、その時には再交付してもらえますので(有料等は要確認)、大切に保管していなくても大丈夫です。
室内犬でも常に一緒という訳にはいかないと思います。
犬と離れている時に、災害の起きる可能性は0ではありません。もしもの時のために…が大事です。
最後に、今まで紹介してきた『動物の愛護及び管理に関する法律』とは別の法律になりますが、『狂犬病予防法』についても少し触れておきます。
狂犬病予防法
飼い犬の登録
犬を取得した日から30日以内に、犬の所在地を管轄する市区町村に、一生に1回の登録をし、その時に交付される鑑札を、必ず犬の首輪等に装着しなければならない(生後91日以上の犬が対象) (第4条)
飼い犬の狂犬病予防注射
狂犬病の予防注射は、毎年度1回の実施が義務付けられ、毎年4月1日から6月30日の間に受けることとされており、市区町村から交付される注射済票を、必ず犬の首輪等に装着しなければならない (第5条)
届出の義務
狂犬病にかかった犬、その疑いのある犬、これらの犬に咬まれた犬を診察または死体を確認した獣医師、あるいはその犬の所有者は、保健所長へ届け出なければならない (第8条)
違反者への罰則
狂犬病発生時における届出をしなかった者には、30万円以下の罰金 (第26条の2)
飼い犬の登録を行わず、鑑札を犬に着けなかった者には、20万円以下の罰金 (第27条の1)
狂犬病予防注射を受けさせず、注射済票を犬に着けなかった者には、20万円以下の罰金 (第27条の2)
まとめ
私が犬に関する知識の必要性を心の底から感じたのは、とても怖がりな犬のしつけに行き詰まった時でした。
他の犬達にとって難易度の高いしつけは、いとも簡単にクリアできるのに、怯え、怖がり、パニック、威嚇から、どうしても吠えてしまうのです。
そんな時に『早期母子分離』という言葉を知りました。
ペットショップで出逢った時は、生後54日目で490gのとても小さな子犬でした。
しかも、体調不良とのことで直ぐの引き渡しにはならず、生後61日目にやっと我が家の一員になりました。
それからは、知らされていなかった先天性の病気がいくつか発覚したものの、とても元気でみるみるうちに大きめのチワワに成長しました。
ひ弱でとても小さかった子犬は、いったい生後何日目に毋犬と引き離されていたのでしょう。
吠えることを覚えるまでは一日中ほとんど寝ないで、ずっとキュンキュン鳴いていたことを思い出し、なんて無知な飼い主だったのだろうと反省しました。
他の犬達と同じしつけ方が、この犬にとっては虐待行為だったに違いないと心が痛みました。
この経験により、「何か問題が生じてから知るのではなく、問題が生じる前に、問題を生じさせない対策ができるように、犬に関する知識は、犬を飼う人にとって、とても重要なものだ」と気付かされました。
今回の内容が、犬を飼う人の『もっと知りたい』という気持ちにつながれば光栄です。
ユーザーのコメント
30代 女性 臣
ありがとうございます。
いつか、保護犬を引き取って生きたいと考えているので、今から法律や犬達の事を学びたいと思います。
女性 ココア
もうペットショップは命の売り買いを辞めて、本当の商品だけを扱うべきではないでしょうか!飼う側の審査や資格があるかないか最期まで責任を持つ覚悟があるのか育て方やしつけの仕方をちゃんと教育したうえで譲渡するべきです。
そして何より、品物として扱う法律を命を扱う法律に変えなければ何の罪もない動物達の命を守る事が出来ないと思います!パピーミルの恐ろしさというブログを見ました。最悪でした。人間のやる事とは思えない酷さに申し訳なく言葉を失いました。動物が好きとか嫌いを飛び超えて虐待、虐殺の犯罪そのものでした。この事実をみんなが知って法律を変えなければ!と思います。
40代 男性 ひろ
後、3ヶ月経たないと店に出してはいけないと改正当時思っていたのですがその月で3ヶ月になる子はもう出されてるんですね。言葉の隙間を利用して商売してるショップがますますイヤになりました。