アニマルホーダーと動物依存の関係
一般的に知られるアニマルホーダーとは、「適正飼育できる環境を整えず、健康衛生面で極めて不適切な状態で、頭数制限管理ができずに動物の居住環境も人間の居住環境も破綻している状態」のことを指します。
アニマルコレクターや動物依存とも呼ばれ、本人には「生活が破綻している」、「動物たちが苦しんでいる」という自覚も認識もありません。精神疾患の症状の1つと考えられ、適切な治療をしても繰り返してしまう傾向にあります。
しかし数十頭~数百頭の動物を抱えるアニマルホーダーは、【多頭飼育崩壊】などといわれニュースなどでも取り上げられますが、一般飼育者の少数頭の飼育崩壊については、表面上は発見が難しいのが現状です。保護団体のシェルターや、個人の保護活動者、一般飼育者による【多頭飼育崩壊】は、とても身近なところにある現実です。
可愛そう、可愛いといって保護する、購入した動物に【避妊去勢手術】をしない状態で、雄雌の管理をせず自然妊娠、自然出産を繰り返していく無制限繁殖によって陥るケース。避妊去勢による繁殖管理はしているものの、適正飼育できる頭数を遥かに超えているにもかかわらず、数を増やしてしまって陥るコレクターのケース。
どちらも動物への過剰依存や過剰愛着が大きく関係し、増やすことがあっても里子に出すなど手放すことができません。また見知らぬ人に我が子を託せない人は、動物の幸せを考えれば考えるほど深い闇に陥ってしまいます。
- 人間不信
- 嫉妬
- 独占欲
- 心配
- 強迫観念
「もしも、悪い人だったらこの子は幸せになれない。」
「どんな人も信用できない。」
「自分以外の人がこの子を幸せにできるはずがない。」
「奪われたくない。」
「自分からこの子を引き離して、虐待して殺すつもりかもしれない。」
など動物たちのために手を差し伸べても、なかなか動物たちの引渡しに応じてもらえず、交渉が何年にもわたるケースがほとんどです。また根本的に【愛情】があるので別れたくない、寂しいという感情もあります。
一般的にみれば、崩壊している飼育場所にいるよりも、個々の幸せを考えてもらえる場所で生きられる方が動物たちの幸せになることは明らかです。アニマルホーダーや動物依存に陥ってる人には、【動物の幸せとは】という一般認識が共有できません。ですがこれらの状態はレアケースではなく、一般飼育者にも危険な傾向が強く表れています。
一般家庭のアニマルホーダー
健康な成人一人につき、何頭までが適正に飼育できるでしょうか?愛情、健康、躾、医療、運動、スキンシップ、ボディケア、介護が十分行き届き、更に居住環境の衛生面が常に保たれ、観察、管理がしっかり行える頭数は、成人一人につき、
犬種 | 適正飼育数 |
---|---|
小型犬 | 3頭まで |
中型犬 | 2~3頭まで |
大型犬 | 1頭~2頭まで |
の以上です。これは動物の飼育に携わる職業に就いたことがない一般の飼い主さんが、24時間365日、常に犬と一緒に生活しているという前提で【適正飼育】が可能な頭数です。更に基本的な躾が済んでおり、行動、精神面に問題がない犬に限った頭数です。
犬の大きさだけで考えれば成人が一人で適正飼育できる頭数ですが、犬種によってケアに要する時間や運動量、性格によっては多頭飼育が極めて困難になることもあります。
1頭の犬の適正飼育:1日のスケジュール
小型犬 成犬 トイプードルの場合
- 6時起床
- サークル、ケージなど犬の居住エリアの清掃
- 7時散歩
- 排泄、気分転換、運動を兼ねてボディーチェック、排泄チェック
- 散歩から戻り体を綺麗にふき取り1時間休憩させる(仮眠、安静)
- 9時朝食 食後歯ブラシ
- 食後3時間休憩させる(昼寝)
- 13時 ボディケア スキンシップ オヤツ
- 被毛のチェック、毛玉にならないようにブラッシング、耳掃除
- のんびり飼い主さんと触れ合う、遊びの時間や自由時間
- 17時散歩
- 排泄、気分転換、運動を兼ねてボディチェック、排泄チェック
- 散歩から戻り体を綺麗にふき取り1時間休憩させる(仮眠、安静)
- サークル、ケージなど犬の居住エリアの清掃
- 19時夕食 食後歯ブラシ
- 食後2時間休憩させる(仮眠、安静)
- 就寝前の排泄
- 20時 就寝 暗点
- 10時間の睡眠~午前6時起床
睡眠時間、運動量、ボディケア、スキンシップなど犬を適正飼育するために、理想的なスケジュールです。この他に通院やトリミングが月に1度。小型犬で手がかからない、抜け毛がないと言われるトイプードルでも1日これだけの時間と手間が必要です。頭数が増えれば増えるだけ時間と手間は×頭数になります。
そして365日、命ある限りこれらの飼育環境を保ち続けなければ、完ぺきな適正飼育とはいえません。ですが多くの一般家庭では、日中の8時間~10時間お留守番となること、休日以外の日は十分なスキンシップの時間が作れないなど、犬にとって理想的な睡眠時間がとれていないのがほとんどです。
大型犬種や牧羊犬種などではこの他に、体を支える筋肉を衰えさせないためのトレーニングや栄養補給も必要になります。また排泄チェックや食欲、体調がふだんと違うと気が付いたときに、すぐに病院に連れていける時間的余裕が必要です。
犬種や年齢によっても必要なケアや時間は増えていきます。これらの全てを整えて【適正飼育】といえますが、完ぺきに整っていないからといって犬が不幸である、飼育放棄であるということではありません。
一般家庭では仕事や用事があり、犬は人間の生活スケジュールに合わせて生きています。日々のお留守番が長くても、休日に十分に運動をさせ、スキンシップをとること、それぞれの飼い主さんが工夫して、愛犬のためにできる範囲で最良を考えています。
1頭飼育で1年の適正飼育にかかる費用
小型犬で成犬:トイプードルの場合
- ご飯代(オヤツ含む)15万~20万円
- ボディケア代(トリミング含む)12万~15万
- 消耗品代(トイレシート、ボディタオルなど)3万円~5万円
- 医療費(予防医療、健康診断、サプリメントなど)7万円~8万円
- その他レジャー費、衣装費、おもちゃ代など5万
トータル42万円~53万円くらいになります。全国平均はトイプードル1頭、飼育費用1年間のトータル35万円~50万円というデータもあります。大型犬になれば、これらの費用は単純計算でも倍になり、小型犬種であっても頭数が増えれば年間飼育費用×頭数となります。
一般家庭で陥りがちなアニマルホーダー
避妊去勢も済ませ、衛生面での飼育環境は保たれているのにもかかわらず、一般家庭でもアニマルホーダーになっているケースがあります。
収支のバランスが崩れている
一般家庭で、人間の食費より犬の食費が上回っている家計状況は危険信号です。つまり4人家族の食費より犬4頭の食費が上回っている家計状況は望ましいものではありません。
富裕層家庭で、犬に500g10万円の食事を与えているようなケースはのぞきます。また家計に十分な蓄えがあり、犬には良いものを食べさせたい、と高級食材などを与えているケースものぞきます。これらのケースは家計に十分な余裕があり、毎月の収入の中で犬の飼育費用を賄っている一般家庭とは異なります。
人間が健全に生活ができている上で、余裕の中で犬にお金をかけている事と、人間の生活を切り詰めて、生活に制限をかけながら、犬にお金をかけている事とでは大きな違いがあります。
バランスが悪い例
- 1人暮らしの女性でトイプードル4頭
- 月収 20万円
- 固定費(家賃、光熱費、通信費、保険)7万円
- 食費 1万円
- 犬費 12万円
- 犬医療保険無し
- 貯金無し
1人暮らしで自分にかける趣味や、美容のお金を犬に使っているのなら良いのではないか?個人の自由だろう、と思われるかもしれませんが、このような家計状況は【アニマルホーダー】と判断できます。そしてこのような状況で多頭飼育している飼い主さんは、非常に多いのが現状です。
問題点1
一人暮らしで4頭のトイプードルの飼育は適正飼育可能範囲を超えた頭数です。
問題点2
貯金無し、犬医療保険無しでは、万が一のとき適切な治療が受けられません。
問題点3
人間の生活に金銭的余裕が全くありません。犬依存が非常に高い状態です。
問題点4
毎月の犬経費もかなりの節約が必要な家計状況です。飼育費用に余裕がない場合、最初に削られてしまうのが予防医療です。
問題点5
飼い主さんに万が一のとき、働けなくなったとき、すぐに少数頭飼育崩壊に陥ります。
犬にもしものことがあったときは、病院に医療費の分割のお願いや、借金をして医療費を工面するなど方法はあるかもしれません。ですが現状では犬の頭数を減らすか、収入を増やすかの飼育環境改善をしなければ返済は不可能です。
無理な返済をすればしわ寄せは犬にきます。仕事を増やして、収入を増やそうとすれば犬にかけられる時間は減り、ネグレクトにもなりかねません。そしてこのような飼い主さんは、フードのランクを下げて安価なフードに切り替えたり、ワクチン接種や感染症の予防をやめて家計状況を改善したりしようとします。
どちらも犬の健康には百害あって一利なしです。世間で騒がれる何百頭ものアニマルホーダーではありませんが、少数頭でもアニマルホーダーになってしまう危険な状態で、ギリギリの飼育をしているケースはとても多いのです。
たとえ1頭の飼育であっても同じように、収入と犬の飼育費用のバランスが大きく崩れているケースも危険度が高いといえます。
犬と人間の生活どちらが大事?
いくら犬を大切に育てているからといっても家計が破綻している状態では、どちらも守り切れない状況に陥る可能性が極めて高い状態だといえます。犬や動物を愛する人や保護活動をしている人は、【自己犠牲】を惜しみません。ちょっと節約すれば、仕事を増やせば助けられる命を目の前にすると無理に無理を重ねてしまいます。
「見て見ぬふりはできない」
「自分が助けなければ死んでしまう」
「殺されるよりも少しくらい不自由な方がましだ」
そんなふうに周りが見えなくなってしまっています。しかし、一人に背負える命には限界があり、制御が効かなくなったり、管理が行き届かなかったりしてアニマルホーダーとなってしまいます。最初は優しい気持ちで「助けたい」、「守りたい」という思いだったはずです。
しかし、飼育費用が捻出できず、避妊去勢手術を受けさせることもできなくなり、「死ぬよりましだ」と劣悪な環境で生かされる犬たちは飢餓にさらされてしまいます。
それでも、「破綻」「崩壊」している認識も自覚もないため、他者が無理やりにでも立ち入って動物たちを保護しなければ不幸の連鎖は止められません。ですが一般家庭でも同じ状況は起こりうるのです。
計画もなく、ただ「可愛い」といって犬を増やし、避妊去勢をせずに同居させていると望まれず新しい命が誕生します。2頭だった犬が7頭になり、20頭になり、餌代、医療費が捻出できずネグレクト状態に陥ってしまうのです。
また自分は食べられなくても良い、犬たちが幸せならば、と自己犠牲、過剰愛情、過剰依存の状態になってしまうと、家計にみあわない飼育費用をどんどんつぎ込んでしまいます。
犬と人間の生活どちらが大事なのか?
それはどちらも大事で、飼い主には責任があります。ですが基礎となる人間の生活が破綻していては犬の生活を守ることはできないのです。愛犬が若く、健康なうちはまだ破綻生活も続けられるかもしれません。ですが高齢になり介護になる、病気になるなど高額な医療費がかかる状態になれば、更に生活や時間は切迫します。
犬の寿命もどんどん長くなって、ペットの高齢化が進んでいます。長期間バランスの崩れた生活で精神面、金銭面、健康面に悪影響を及ぼします。飼い主さんの健康が崩れたとき、生き場所を失ってしまうのは愛犬たちです。病気になっても治療さえしてもらえずに苦しい思いをして、介護状態になってもいつも一人ぼっちで糞尿にまみれ、寝たきりになったりと望まない状態に陥ってしまうのです。
犬やペットは無理をしてでもどうしても飼育しなければならないというわけではありません。動物を飼育するためには、経済的余裕、時間的余裕、正しい判断できる精神状態、正しい知識が絶対に必要です。【一般家庭では犬を飼うな】という厳しい意見もあります。
ですが実際、家計に余裕もなく蓄えもなく、医療保険にも加入していない飼い主さんは、愛犬がどんなに病気で苦しんでいても治療を受けさせてはくれません。病院へ連れてきて診察を受けても、手術をすれば助かる病気でも、薬を飲めば症状を和らげてあげられる病気でも、現状把握だけをして治療を拒否します。そして苦しんで亡くなった愛犬を偲ぶことなく、また新たに犬を迎え入れてしまうのです。
金銭的な余裕があっても、愛情がなくアクセサリーや消耗品として犬を飼育している飼い主さんなら、同じように治療を拒否するでしょう。しかし愛情があっても金銭的な理由で命を諦めなければならない状況がいつか来ると分かっていながら、次々と犬を増やしていくのは【動物虐待】【アニマルホーダー】と同じです。
犬は、飼い主さんが与えるものが生きる全てです。時間も食べ物も、愛情も治療も全て与えられて生きています。お留守番が長いことや、体に合ったご飯を買ってあげられないこと、お散歩に連れて行ってあげられないこと、適切な治療をうけさせてあげられないことは、飼い主さん自身が分かっていることです。
なのにどうして犬を飼うのですか?欲しいものを手に入れたいという欲に、現実が見えなくなっている飼い主さんがとても多く存在します。殺処分を目前に命の期限を切られた動物たちは、かわいそうだと思うでしょう。助けてあげられるのなら、助けたいと無理をしてでも手を差し伸べる優しい人が多くいてほしいと思います。
ですがそれは、分の生活に何ら影響のない負担の範囲でなければ、誰も幸せにはできないということを知ってほしと思います。犬を含む動物を飼育するということは、飼育にかかる時間やお金に余裕がなければ【適正飼育】ではないということを認識してほしいと思います。
まとめ
節約や工夫はとても良いことだと思います。家計にみあわない贅沢をさせなくても、犬は健康に育てられます。ですが下限はあります。安価で粗末なご飯を長期間食べ続ければ、健康に生きることはできません。
お留守番が長くても運動不足やスキンシップを解消できる時間は作れます。24時間365日、犬の飼育、犬と生きるということだけに専念できれば、完ぺきな適正飼育ができるかもしれません。ですが、それは現在犬を飼っている方の多くが不可能なことです。
だからこそよく考えてみてほしいのです。安易に頭数を増やさないということ。犬のためならと、家計にみあわない贅沢をさせること。人間の生活が健全に保たれて初めて、犬の適正飼育ができるのだということを知ってほしいと思います。
しわ寄せは後々すべて犬にかかってくるのです。犬や動物の飼育には一定の条件が整っていなければ飼育環境として不適切であるということが、広く一般常識として認識されることを願います。