ヨークシャーテリアには注意したい病気がある
ヨークシャーテリアは、一概に病弱な犬種というわけではありません。健康に長く暮らす犬も多く、「ヨークシャーテリアだから病気になりやすい」と過度に心配する必要はないでしょう。
一方で、体格や遺伝的な背景などから、ほかの犬と比べて注意したい病気がいくつか知られています。
病気によって根拠の強さは異なりますが、国内の保険請求データや海外の研究でも、ヨークシャーテリアで多くみられる傾向が報告されているものがあります。
もちろん、こうした病気がすべてのヨークシャーテリアに発症するわけではありません。犬種としての傾向を知ったうえで、普段の体調や行動の変化に気づけるようにしておくことが大切です。
ヨークシャーテリアがかかりやすい主な病気
ヨークシャーテリアで注意したい病気には、消化器や関節、呼吸器、目、皮膚などさまざまなものがあります。症状だけではほかの病気と見分けにくいこともあるため、それぞれの特徴を知っておくことが大切です。
タンパク喪失性腸症
タンパク喪失性腸症(タンパク漏出性腸症)とは、腸からアルブミンなどのタンパク質が過剰に失われ、血液中のタンパク濃度が低下する状態の総称です。
ひとつの病名ではなく、慢性腸症や腸リンパ管拡張症など、さまざまな消化器疾患に伴って起こります。
ヨークシャーテリアでは、タンパク喪失性腸症を伴う慢性的な消化器疾患が報告されており、注意したい病気のひとつです。
主な症状は、長引く下痢や軟便、嘔吐、食欲低下、体重減少などです。血液中のアルブミンが大きく低下すると、お腹に水がたまる腹水や、足などがむくむ浮腫がみられることもあります。
診断では血液検査や尿検査、超音波検査などを行い、タンパク質が失われる原因を調べます。必要に応じて消化管の組織を採取して調べる生検を行うこともあります。
治療は原因や状態によって異なり、低脂肪食などの食事療法を中心に、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨脱臼は、後ろ足の膝にある膝蓋骨、いわゆる「膝のお皿」が本来収まっている溝から内側または外側に外れてしまう病気です。小型犬に多く、ヨークシャーテリアでも注意が必要です。
骨や関節が成長する過程で生じる骨格構造の異常などが関係し、多くは膝蓋骨が内側に外れる「内方脱臼」です。
歩いている途中で突然片方の後ろ足を上げる、数歩だけスキップするように歩く、足を伸ばしたあと普通に歩き始めるといった様子がみられることがあります。
重症になると歩き方の異常が続き、骨や関節の変形につながることもあります。
重症度はグレード1〜4に分けられます。症状が軽い場合は体重管理や運動量の調整、リハビリテーションなどで経過をみることがありますが、痛みや歩行障害が強い場合、骨格の変形が進んでいる場合などには手術が検討されます。
気管虚脱
気管虚脱は、喉から肺へ空気を送る「気管」を支えている軟骨が弱くなり、気管が扁平につぶれることで空気の通り道が狭くなる病気です。
ヨークシャーテリアをはじめとする小型犬で多くみられ、発症には複数の要因が関係すると考えられています。
代表的なのは乾いた咳で、「ガーガー」とガチョウが鳴くような咳にたとえられることがあります。興奮したときや運動したとき、暑い環境などで咳が出やすくなり、進行すると呼吸が苦しそうになることもあります。
診断ではレントゲン検査の一般撮影のほか、呼吸に合わせて動く気管の状態をリアルタイムで確認できる透視検査や内視鏡検査などが用いられることがあります。
治療は症状の程度に応じて、咳を抑える薬などによる内科的な治療を行います。内科治療で十分に症状を抑えられない重症例では、気管の内側に筒状の器具を入れて広げるステント治療などが検討されることもあります。
先天性門脈体循環シャント(門脈シャント)
先天性門脈体循環シャントは、消化管から肝臓へ血液を運ぶ「門脈」と全身の静脈との間に、本来存在しない血液の通り道が生まれつき形成されている病気です。ヨークシャーテリアは、この病気がみられやすい犬種のひとつです。
本来であれば消化管から吸収された栄養素は肝臓で代謝され、アンモニアなどの有害物質も肝臓で処理されます。
しかし、門脈シャントがあると血液の一部が肝臓を通らず全身へ流れるため、栄養素を十分に代謝できなかったり、有害物質が血液中に増えたりすることがあります。
子犬の頃から体が小さい、成長が遅い、食欲が安定しない、嘔吐や下痢を繰り返すといった変化がみられることがあります。
また、アンモニアなどが体内に蓄積すると、ぼんやりする、ふらつく、同じ場所を歩き回る、けいれんするといった神経症状が現れることもあります。
診断には血液検査や胆汁酸検査、アンモニアの測定、超音波検査やCT検査などが用いられます。
治療は状態に応じて食事や薬による内科的な管理を行い、可能な場合には手術が検討されます。
歯周病
歯周病は、歯の表面に付着した歯垢の中で細菌が増え、歯肉や歯を支えている組織に炎症や破壊が起こる病気です。小型犬は歯周病のリスクが高く、ヨークシャーテリアでも注意が必要です。
小さな顎に多くの歯が並ぶことで歯が密集しやすいことに加え、乳歯が抜けずに永久歯と一緒に残る「乳歯遺残」が起こると、歯と歯の間に汚れがたまりやすくなることがあります。
初期には口臭や歯肉の赤み、出血などがみられ、進行すると歯肉が下がる、歯がぐらつく、硬いものを食べにくそうにするといった変化が現れます。歯を支える骨まで失われると、抜歯が必要になることもあります。
進行した歯周病では、歯の表面だけでなく歯肉の内側や歯根周囲まで確認する必要があります。
動物病院では口腔内の検査や歯科レントゲン検査を行い、状態に応じて全身麻酔下での歯石除去や歯周治療、抜歯などが行われます。
乾性角結膜炎(ドライアイ)
乾性角結膜炎は、目の表面を保護する涙が不足し、角膜や結膜に炎症が起こる病気です。「ドライアイ」とも呼ばれ、ヨークシャーテリアでも注意したい眼疾患のひとつです。
涙が不足すると、粘り気のある白色や黄色っぽい目やにが増える、白目が赤くなる、目を細める、前足で目をこすろうとするといった変化がみられることがあります。
慢性化すると角膜に傷ができたり、色素が沈着して視界に影響したりすることもあります。
診断には「シルマー涙液試験」と呼ばれる検査がよく用いられます。細い検査紙をまぶたに挟み、一定時間にどの程度涙が分泌されたかを測定する検査です。
治療では、涙の分泌を促す点眼薬や目の表面を保護する点眼薬などを使用します。長期的な治療が必要になることもあるため、症状や涙の量を確認しながら治療を続けます。
膀胱結石などの尿路疾患
尿路とは、尿をつくる腎臓から尿管、膀胱、尿道までの通り道を指します。この尿路に結石ができる状態が尿石症で、膀胱にできたものは膀胱結石と呼ばれます。
ヨークシャーテリアでは膀胱結石などの尿路疾患にも注意が必要で、特にシュウ酸カルシウム結石がみられやすい犬種のひとつとして知られています。
トイレに何度も行く、排尿姿勢をとる時間が長くなる、少量ずつしか尿が出ない、尿に血が混じる、排尿時に痛そうな様子をみせるなどが主な変化です。
犬の尿路結石には、シュウ酸カルシウム結石やストルバイト結石など複数の種類があります。結石の種類によって、食事で溶解できるものとできないものがあり、治療方法も異なります。
そのため、尿検査や画像検査などで状態を確認し、結石の種類や位置、大きさに合わせて治療方針を決めます。
膿皮症(細菌性皮膚炎)
膿皮症は、皮膚で細菌が増殖して炎症を起こす病気で、「細菌性皮膚炎」とも呼ばれます。皮膚の表面近くに起こる表在性膿皮症と、より深い組織まで炎症が及ぶ深在性膿皮症などがあります。
皮膚に赤いポツポツとした発疹や膿を含んだ小さなできものができる、かさぶたやフケが増える、部分的に毛が抜けるといった症状が代表的です。かゆみを伴うこともあります。
膿皮症は単独で起こるだけでなく、アレルギー性皮膚炎や内分泌疾患などによって皮膚のバリア機能が低下し、二次的に発症することもあります。そのため、繰り返す場合には背景にある病気を調べることも重要です。
診断では、皮膚から採取した細胞を顕微鏡で調べる「細胞診」などによって細菌の関与を確認します。
表在性の場合は薬用シャンプーなどを用いた外用療法が中心となり、深在性の場合や外用治療だけでは対応が難しい場合には、必要に応じて細菌培養検査や薬剤感受性検査を行ったうえで、全身性の抗菌薬が検討されます。
動物病院を受診する目安と緊急性の高いサイン
ヨークシャーテリアの体調に異変がみられたときは、病名を自己判断するよりも、症状の程度や続き方を見ながら適切なタイミングで動物病院を受診することが大切です。
一見すると軽い症状でも、繰り返したり悪化したりしている場合には、病気が進行していることがあります。一方で、呼吸困難や排尿できない状態など、様子を見ずに対応すべきサインもあります。
早めに動物病院へ相談したいサイン
元気がある場合でも、普段と違う状態が続いているときは早めに動物病院へ相談しましょう。特に次のような変化には注意が必要です。
- 嘔吐を繰り返す
- 下痢や軟便が続く、または何度も繰り返す
- 食欲が低下している、体重が減っている
- 咳が繰り返し出る、呼吸の様子が普段と違う
- 足を浮かせる、歩き方がおかしい、痛がる様子が続く
- 目を細める、目やにや充血が増える
- 何度も排尿姿勢をとる、尿が少量しか出ない、血尿がみられる
- 皮膚の赤みや発疹、強いかゆみが続く
とくに嘔吐については、数日間様子を見るのではなく、何度も繰り返す、水を飲んでも吐く、血が混じる、元気や食欲の低下を伴うといった場合には早めの受診が必要です。
すぐに受診したい緊急性の高いサイン
次のような症状がみられる場合は、自宅で様子を見続けず、かかりつけの動物病院や夜間・救急対応の動物病院へ連絡し、速やかに受診してください。
- 呼吸が明らかに苦しそうで、横になれない
- 舌や歯ぐきが青紫色になっている
- 呼びかけへの反応が弱い、意識がもうろうとしている
- ぐったりして立ち上がれない、突然倒れた
- けいれんが5分以上続く、または短時間に何度も繰り返す
- 何度も排尿姿勢をとるのに尿がまったく出ない
とくに呼吸困難や意識障害、長く続くけいれん、排尿できない状態は、短時間で重症化する可能性があります。診療時間外であっても、対応できる動物病院へ連絡して指示を受けましょう。
ヨークシャーテリアの健康管理と病気の早期発見
ヨークシャーテリアの病気をすべて予防することはできませんが、日頃から体にかかる負担を減らし、健康なときの状態を把握しておくことは大切です。
普段との違いに早く気づければ、病気の早期発見や適切な受診にもつながります。
適正体重を保ち生活環境を整える
体重が増えすぎると、足腰や呼吸器などに余計な負担がかかります。体重だけで判断するのではなく、肋骨への触れやすさや腰のくびれなど、体型もあわせて確認しましょう。
体型を確認する方法のひとつに「BCS(ボディ・コンディション・スコア)」があります。肋骨の触れ方や腰のくびれ、お腹の引き締まり方などから、痩せすぎや肥満の程度を評価する方法です。
ヨークシャーテリアは体が小さいため、室内環境にも配慮しましょう。
フローリングなど滑りやすい床にはマットを敷き、ソファやベッドなど高い場所から頻繁に飛び降りないよう、必要に応じてステップを設置する方法があります。
こうした体重管理や環境整備は、膝や呼吸器などへの負担を減らすために役立ちます。ただし、膝蓋骨脱臼や気管虚脱などの発症を完全に防げるわけではありません。
日常的に体調の変化を確認する
病気の早期発見には、健康なときの愛犬の状態を知っておくことが重要です。毎日細かく記録する必要はありませんが、食事や排泄、歩き方などを普段から何気なく確認しておきましょう。
特に確認しておきたいのは、次のようなポイントです。
- 食欲や飲水量に大きな変化がないか
- 体重が急に増えたり減ったりしていないか
- 便の硬さや回数、尿の量や色に変化がないか
- 咳や呼吸の様子が普段と違わないか
- 歩き方や足の使い方に違和感がないか
- 目やに、充血、目を細める様子がないか
- 皮膚に赤みや発疹、脱毛がないか
- 口臭や歯肉の赤み、歯の汚れが増えていないか
体重や排泄の状態などは、変化に気づきにくいこともあります。気になる項目は定期的に記録しておくと、動物病院を受診した際にも経過を伝えやすくなります。
定期的に健康診断を受ける
見た目に異常がなく元気に過ごしていても、体の中で病気が進んでいることがあります。定期的に健康診断を受けることで、飼い主が気づきにくい変化を見つけるきっかけになります。
健康診断では、体重や体型、心音、呼吸音、口腔内、皮膚、関節などを確認する身体検査が基本です。年齢や健康状態、これまでの病歴などに応じて、血液検査や尿検査、便検査などを行うこともあります。
さらに、診察所見や検査結果によっては、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査が追加される場合もあります。
すべての犬に同じ検査が必要なわけではないため、その子の年齢や体調に合った検査内容を獣医師と相談しましょう。
健康な時期から定期的に診てもらうことで、その子にとって普段どのような状態なのかを把握しやすくなります。病気を完全に防ぐことはできませんが、異常の早期発見や適切な健康管理につなげることができます。
まとめ
ヨークシャーテリアは一概に病弱な犬種ではありませんが、体格や遺伝的な背景などから注意したい病気があります。
大切なのは、病名を過度に恐れるのではなく、愛犬の普段の状態を知り、小さな変化に気づけるようにしておくことです。
食欲や体重、排泄、歩き方、咳、目や皮膚、口の中などを日頃から確認し、いつもと違う状態が続く場合は早めに動物病院へ相談しましょう。
呼吸が苦しそう、意識がもうろうとしている、尿がまったく出ないなどの異常がみられる場合は、速やかな受診が必要です。
また、適正体重の維持や安全な生活環境づくり、定期的な健康診断を続けることも、健康状態を把握するうえで役立ちます。日々の観察と適切な受診を組み合わせながら、愛犬の健康を見守っていきましょう。



