犬が咳をする原因
大切な愛犬が咳をすると、とても心配になりますよね。どこか悪いのかもしれないと考えがちですが、犬も人と同じように、咳が出るからといって必ず病気が原因とは限りません。
しかし、中には命にかかわる病気が関係している場合もあるので、たかが咳だと侮ってもいけません。では、咳が出るのはどのような原因があるのでしょうか。
ここでは、咳が出る際の考えられる原因や、咳が出た時の対処法について紹介します。
一時的な気道への刺激や異物混入
最初に考えられるのは、体の生理的な防御反応による咳です。喉に力が加わった時や、違和感を覚えた瞬間などに咳がでます。
以下のような場合に咳がでると考えられます。
- 勢いよく水を飲んだり、食べ物を食べたりすることで誤嚥した
- 散歩時にリードを引っ張りすぎて首輪で喉が圧迫された
- 興奮して吠え続けた
- ほこりを吸い込んだ
- 空気が乾燥していた
- 急に冷たい空気を吸った
勢いよく水を飲んだ後や、食べ物を食べた後に誤嚥してしまい、「カハッ」とえずくような咳をすることがあります。
また、散歩時にリードを強く引っ張り、喉に力が加わった場合にも「カハッ」という咳が出る場合があります。
これらは、刺激を受けた直後に出ることが多く、短時間で咳は止まります。興奮して吠えすぎた場合にも同じように短時間で止まる咳が出ます。
ほこりなどを吸い込んだ場合や、冬のお出かけの際に急に寒い外の冷たい空気を吸い込んだ、空気が乾燥している場合などに「コンコン」と乾いた咳がでます。
これらは、生理現象による咳なので病気ではありません。咳が出ても元気や食欲には影響しないことがほとんどです。
誤飲後の食道内異物による「喉」の違和感
食べ物やおもちゃなどを誤飲してしまった場合、喉の違和感から咳が出ることがあります。
食道に異物がある場合や気道が完全には閉塞していない場合に、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴が生じます。詰まる場所によっては、咳だけでなく呼吸困難に陥る場合があります。
心臓や呼吸器に関わる病気の発症
咳の原因として、病気が関わっている場合もあります。原因となる疾患は、呼吸器だけでなく心臓にある場合もあります。
呼吸器や心臓の咳が出る病気の例として、以下が挙げられます。
- 僧帽弁閉鎖不全症
- フィラリア症
- 気管虚脱
- ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)
- 気管支炎
- 肺がん
- 肺水腫
《僧帽弁閉鎖不全症》
僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓にある僧帽弁という血液の逆流を防ぐ弁がうまく閉じない病気です。中高齢の小型犬に多くみられ、好発犬種として、キャバリア・キングズ・チャールズ・スパニエルやマルチーズなどが挙げられます。
初期は無症状ですが、病状が進行すると、興奮時や夜間に「カーッ」という痰を吐くような咳をします。さらに悪化すると、咳を一日中するようになります。
《フィラリア症》
フィラリア症は、犬糸状虫という蚊によって媒介される寄生虫の感染症です。毎年5月~11月にかけて毎月1回、愛犬に薬を与えて予防する病気のため、ご存じの飼い主さんも多いと思います。
感染が長期に及んだり重度の場合は、咳や呼吸困難、頻呼吸などがみられます。初期の咳は「コフコフ」という音をしています。さらに病状が悪化すると、失神や腹水、時には喀血(咳とともに血液を喀出すること)する場合もあります。
《気管虚脱》
気管虚脱とは、空気を運ぶ気管という管が潰れてしまう病気です。小型犬に多くみられます。「ガーガー」とアヒルのような呼吸音が特徴的です。乾いた咳が出る場合もあります。好発犬種として、ヨークシャ・テリアやトイプードルなどが挙げられます。
《ケンネルコフ》
ケンネルコフは、ウイルスや細菌などが原因の感染症です。犬の代表的な風邪の一つで、「ケンケン」「コンコン」というような、なかなか止まらない頑固な空咳が特徴です。
膿性の鼻水や目やにが出る場合には、重症化している可能性が高いといわれています。子犬や高齢の犬では、重症化しやすいため特に注意が必要です。
しかし、発症しても食欲や元気はあり、興奮時や運動時以外は咳が出にくい場合もあります。
《気管支炎》
気管支炎は、空気の通り道である気管支に何らかの原因で炎症が起きた状態です。初期の症状として痛みを伴う乾いた咳がみられます。
《肺がん》
肺がんは、咳がもっとも一般的な症状です。特に末期になると、呼吸困難になるほど激しい咳が出ます。しかし肺がんは、犬では稀な病気ともいわれています。
《肺水腫》
肺水腫とは、肺に水がたまってしまう病気です。肺水腫の原因はさまざまなものが考えられ、心臓が原因の心原生肺水腫と、心臓以外が原因の非心原生肺水腫に大きく分かれます。
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった呼吸音が聞こえ、湿った咳が特徴的です。特に夜になると咳がひどくなり、苦しそうに歩き回る場合には肺水腫の可能性があります。
ここで紹介した以外にも、さまざまな病気が咳の原因として考えられます。特に急に咳をするようになったり一日中咳をしている場合には、病気が原因である可能性が高いと考えられます。
アレルギー症状の一つ
アレルギーの症状としてよく見られるのは皮膚炎ですが、場合によっては咳が出ることもあります。原因としては、ダニやハウスダストなどが考えられます。
アレルギーによる咳は、原因の物質(アレルゲン)を除去することで症状が改善します。
気道が狭くなっている
気道という空気の通り道が狭くなっていると、水や食べ物が食道を通る際に気道を刺激し、その刺激に誘発されて咳が出ます。
短頭種であるパグやフレンチブルドッグなどは、生まれつき気道が狭い傾向にあるといわれています。床に置いた器から水を飲んだ場合や、上を向いて飲んだ時などに咳がよくみられます。
犬の咳が止まらない時に注意すべき症状
咳が出る原因は、必ずしも病気が関係しているとは限りませんが、重大な病気が隠れている場合もあります。
飼い主さんは、愛犬の咳が様子をみても問題ないのか、すぐに獣医師に診てもらう必要があるのかを、見分けなければいけません。
咳が止まらない場合、どのような症状があると受診を急がなければならないのでしょうか。
ここでは、受診が必要と考えられる症状の例について紹介します。
呼吸困難を伴っている場合にみられる症状
以下の症状がみられる場合には、呼吸困難に陥っている可能性があります。
- ぐったりしている
- 動きたがらない
- 運動後のように呼吸が荒い
- 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と苦しそうな呼吸をしている
- お座りの姿勢で首を伸ばして呼吸している
- 舌の色が紫色になっている
- 横になることができない
- 失神して倒れる
これらの症状がある場合は、呼吸困難により酸欠状態となっていることが考えられます。命の危険もあるため、至急、動物病院を受診しましょう。
異物が詰まっている際にみられる症状
誤飲によって食べ物やおもちゃが詰まって咳が出ている場合には、以下のような症状がみられます。
- よだれが垂れている
- 口を開けたり閉じたりする
- 吐き出そうとえずいている
- 舌なめずりを繰り返している
- 咳と共に少量の血を吐く
- 前肢や床などで口を擦る仕草をする
誤飲した物が詰まる位置によっては、呼吸困難に陥る危険性があります。また、固いものや鋭利なものなど形状によっては、食道を傷づけている可能性もあります。早急に動物病院を受診しましょう。
動物病院への受診が必要と思われる条件
そのほかに、以下に示す条件に該当する場合には、動物病院を受診しましょう。
- 幼犬や老犬
- 一日中咳をしている
- 治らず、慢性的に咳をしている
- 最近咳をする頻度が増えた
- 鼻水やくしゃみも出る
- 熱がある
- 夜間に寝られず、日中ウトウトしている
- 痙攣や発作が起きる
免疫力の低い幼犬や老犬は、重症化するリスクが高いため、早期に治療が必要な場合が多くあります。そのため、症状自体はそれほどひどくなくても、獣医師に一度診てもらうと安心です。
慢性的な咳により、睡眠不足で日中ぐったりしている場合があります。元気がなく日中もウトウトと意識朦朧としている場合には、夜間に咳が止まらず、苦しい状態の可能性があります。
また、咳の頻度が急に増えた場合にも注意が必要です。病気によっては、病状の悪化に伴い咳の頻度が増加することがあります。
咳をすることで体力を消耗してしまい、より病状が悪化する場合もあるので、早めの受診をおすすめします。
犬が咳をしている時の対処法
咳で苦しむ愛犬のために、飼い主さんができることもあります。ここでは、咳が出ているときにすべきことについて紹介します。
犬が咳をする様子を動画で撮影しておく
動物病院を受診する際に役立つのが、咳をしている時の動画です。
咳が出るタイミングや、音などを獣医師に言葉で正確に伝えるのは難しいですが、動画があればどのような咳が出ているか、詳細に伝えることができます。
咳の様子を撮影しようと思うと顔だけを映しがちですが、姿勢や状況も分かるように、愛犬の体全体や周りの様子なども忘れずに撮影しましょう。
また咳の頻度や継続時間は、獣医師に伝えらえるようにしておきましょう。
動物病院を受診して診断・検査・治療を受ける
愛犬が苦しそうにしていなくても、不安なことが少しでもあれば動物病院を受診しましょう。
動物病院では、以下の検査を受ける可能性があります。
- 問診
- 身体検査
- 血液検査
- レントゲン検査
- 超音波検査
- CT検査
疑われる病気によって行う検査は多少違いますが、問診と身体検査は行われることが多い検査です。それらの結果から、どの検査が必要なのかを獣医師が判断し、疑われる原因にあった検査を行います。
CT検査は、検査機器を置いている動物病院が限られるため、獣医師の判断によってはより専門性の高い動物病院を受診する必要があります。検査により咳の原因を明らかにしてから、それぞれの原因にあった治療を行います。
例えば、ケンネルコフはネブライザーと呼ばれる機械を用いて薬剤をエアロゾル化し、吸入する治療を行います。使用される薬剤は、抗生物質や気管支拡張剤などが挙げられます。
異物を誤飲し詰まっている場合には、内視鏡を用いて異物の摘出を行います。異物の形状や詰まっている場所によっては、手術になる場合もあります。
僧帽弁閉鎖不全症は、利尿薬や強心剤など症状を和らげる治療を行います。手術を行う場合もありますが、高度な技術が必要となるため専門医のいる動物病院でしか手術ができません。
インターネットで検索すると、市販のサプリメントや病気に効くツボの位置など、さまざまな情報が溢れています。中には、根拠の乏しい対処法もありますので自己判断せず、必ず動物病院を受診して適切な治療を受けることをおすすめします。
咳が止まらない時は犬が楽な姿勢をとれるようにする
愛犬が苦しそうに咳をしている姿を見ると、つい抱っこしてあげたくなると思います。
しかし、犬は一番楽な姿勢を選んで咳をしている可能性があり、動かしてしまうと逆につらくなってしまうことも。また、姿勢を変えることが咳を誘発させてしまう場合もあります。
落ちたらケガをする危険な場所にいる時などを除いて、咳をしている最中に犬の姿勢を無理に変えるのは避けましょう。
床や地面などの安全な場所にいるなら、咳が収まるまで犬が自然にとる姿勢のまま見守りましょう。背中をさすってあげると楽になる場合があります。
異物の誤飲が原因の場合の対処法
直前に遊んでいたおもちゃがなくなっているなど、明らかに異物の誤飲が原因として疑われる時は、咳が落ち着いたタイミングを見計らって口の中の異物を確認しましょう。
見える範囲にある場合には、指やピンセットで取り除けることがありますが、無理に取ろうとすると押し込んでしまう危険性があることや、愛犬もパニックになっていて、誤って手を噛んでしまう危険性もあるため注意が必要です。
口の中を覗いても異物が確認できなかった場合には、気道や食道に入り込んでしまっています。その場合には、愛犬の後肢を持ち、逆さまに吊るして振る方法や、肩甲骨の間を勢いよく叩くことで異物が取れる場合があります。
取れた異物は、動物病院を受診する際に必ず持参しましょう。
感染症が疑われる際は、他の犬にうつさないよう配慮する
ケンネルコフなどの感染症が原因で咳が出ている時は、他の犬に感染する危険性があります。感染症への罹患が疑われる場合には、ドッグランなど不特定多数の犬が集まるところに行くのは避けましょう。
また、動物病院を受診する際にも注意が必要です。事前に電話にて感染症の症状があることを伝え、動物病院が感染対策を行えるようにしましょう。
適切な湿度を保ち、清潔な環境を心がける
乾燥やほこりは、咳を誘発させることがあります。
床に近い位置にいる犬は、人よりもほこりを吸い込みやすい環境で生活しています。こまめに掃除をしてほこりを吸い込まない環境を作りましょう。
また、適切な湿度になるように冬は加湿器を使用するなどの対策が必要です。少しでも咳の頻度が減るように生活環境を整えてあげましょう。
犬の咳を予防するために家庭でできる対策
咳の原因の中には、予防可能なものもあります。ここでは、飼い主さんができる予防法について紹介します。
室内の乾燥を防いで清潔さをキープする
室内の乾燥を防いで清潔に保つことは、咳を予防するうえでも非常に大切な方法です。乾燥やほこりは、咳を誘発してしまうので対策をしましょう。
外出時は首に負担がかかりにくいハーネスを利用する
愛犬がリードを引っ張りながら歩いてしまったり、人や他の犬に飛び掛かってしまう癖がある、咳が出る病気に罹患している場合などは、ハーネスの利用を検討したほう良いでしょう。
ハーネスは、胴体部分に着せるように装着するので首への負担を減らすことができます。さまざまな形やデザインのものが販売されていますので、愛犬の体に合ったものを探してみてはいかがでしょうか。
感染症予防の犬用ワクチンを接種しておく
感染症が原因の咳の場合には、ワクチン接種により予防することが可能です。
咳の原因の一つとして考えられるケンネルコフは、病原体の種類が多いのでワクチンで完全に防ぐことはできませんが、いくつかの病原体については、重症化を防止することができます。
混合ワクチンは、毎年接種する必要があります。獣医師と相談し定期的に接種しましょう。
早食い防止用の食器やコングを使う
ご飯を勢いよく食べることによりむせてしまう場合には、早食い防止用の食器に変更しましょう。
食器の内側に凹凸を作ることで食べづらくなり、早食いを防ぎます。
また、コングの中に食べ物を詰めて与える方法も有効です。前足や鼻で転がすと、中からフードが出てくる仕組みなので楽しみながらご飯の時間を長くすることができます。
食器の高さを高くする
床に器を置いてお水やご飯を与えていると、犬にとって不自然な姿勢で飲んだり食べたりしていることになります。その結果、誤飲しやすくなり咳が出ている場合があります。
脚のついている器に変えたり、器を台の上に置くなど、犬のサイズに合わせて食べやすい高さに調整することで、咳を予防することができます。
安静にさせる
興奮すると咳は出やすくなります。静かな環境を準備し、できる限り安静にさせることで咳を抑えることができます。
まとめ
咳と一言で言っても、原因はさまざまなものがあります。
誤飲や、喉への圧迫に対する生理現象によるものから、呼吸器や心臓の病気が関係しているものまで多岐にわたります。
原因によっては、少しの工夫で咳の頻度を抑えられるものもあります。大切なのは、何が原因で犬が咳をしているのかを明らからかにすること。
咳の特徴を知り異変に気付けるようになることは、病気の早期発見につながります。大切な愛犬の健康を守るのは飼い主の役目です。愛犬が咳をした時はよく観察してみてください。
中には、呼吸困難に陥る危険性のある咳もあるため早期に適切な治療を行うことが重要となります。少しでも不安がある場合には、自己判断せずに必ず動物病院を受診しましょう。