犬がいびきをかくメカニズム
人も犬も鼻や口から取り込まれた空気は、喉にある気管を通って肺に送り込まれます。ところが、上気道と呼ばれる鼻・咽頭・喉頭の空気の通り道を塞いだり狭くする原因があるために、犬のいびきは引き起こされます。
狭い通り道を空気が通過する時に粘膜に対して振動が発生し、「グーグー」「ブーブー」といった音が聞こえてくるわけです。
こういったいびきをかく犬は、寝ている時だけでなく起きている時にも、呼吸に合わせていびきと同じような音を発生させることもあります。
いびき自体がすぐに愛犬の不調を知らせる症状というわけではありません。しかし、いびきを発生させるような状態になってしまっているということは、犬の鼻から喉にかけて何らかの異変が体に起こっていると考える必要があります。
いびきをかきやすい犬種
いびきをかいているとは言っても、そのほとんどが飼い主さんが気にするほどの音量でなかったり、かいたりかかなかったりと間欠的なことから、動物病院で相談するほどには至らないことが多くあります。
しかし、あまりに大きな音を立てることが多かったり、普段の呼吸が苦しそうな状態になるこほどであれば、治療に進むケースも増えます。
動物病院でいびきに関わる相談をされる犬種で代表的なのは、鼻や喉の空気の通り道が極端に狭くなりがちな短頭犬種です。
- フレンチブルドッグ
- パグ
- ボストンテリア
- ブルドッグ
- ペキニーズ
いわゆる鼻ぺちゃ犬種ですね。頭のサイズに比べて、鼻をぎゅっと押しつぶしたように短く、それが鼻や喉の呼吸器のトラブルにつながっていることが多い犬種です。
犬のいびきの主な原因
いびきが起こること自体、愛犬の上気道が狭くなったり塞がっていたりする証拠でもあります。空気の通り道がしっかり確保されている健康な犬なら、普通はいびきは発生しません。
空気の通り道を狭めてしまうような鼻や喉の変化がどんな時に起こるのか、愛犬に当てはまるものがないかぜひチェックしてみましょう。
肥満体型
気道を圧迫してしまう大きな原因は肥満です。肥満はどんな犬種でも陥る可能性があり、体に余分な脂肪がついてしまっている状態です。
そしてこの脂肪は首周りにもみっちりとついてしまいます。そうなると脂肪が喉を圧迫してしまい、気道を狭めてしまうことで呼吸時に空気が通りにくくなります。
環境の変化
鼻の中にほこりや植物の欠片などの異物が入ったり、アレルゲンを取り込んでしまうと、体は外に異物を排出しようと反応し、鼻水やアレルギー症状を示してしまうことがあります。
また、たばこの煙を犬が吸うことで、鼻や気管支の粘膜を刺激したり、化学物質が発がん率をあげてしまう可能性も指摘されています。
お散歩やいつもの暮らしの中で吸い込む物質によって、鼻の中に鼻水が増えたり、鼻の中の粘膜が炎症で腫れぼったくなると、一時的に空気が通る隙間が減ってしまうことからいびきが増えます。
他にも、高温多湿な環境では、口を開けてパンティングする呼吸方法が増えるため、いびきをかきやすくなる傾向があります。
眠りの姿勢
愛犬が睡眠時にいびきをかく時とかかない時がわかれるようなら、もしかしたら眠る時の姿勢が関わっている可能性もあります。
病気ではなくても無理に首を折り曲げているような姿勢になっていると、一時的に空気の通り道を邪魔してしまい、いびきが出てしまいます。「なんだか変な姿勢で寝ているな」と気づくことが多いのであれば、いびきはここからきているかもしれません。
鼻から気管にかけての病気を抱えている
短頭犬種は、「短頭種気道症候群」によっていびきをかくことがとても多いです。
通常の鼻の長い犬種に比べて、鼻の穴や鼻腔が極端に狭くすぼまっている「鼻腔狭窄」、喉の奥にある軟口蓋が過剰に長く垂れさがっている「軟口蓋過長症」、気管が呼吸のたびにつぶれて狭まってしまう「気管虚脱」などの病気を抱えていることが多いからです。
こういった病気があると、ただのいびき症状だけでなく、状態が悪化するほどに呼吸困難に陥る危険もあります。
また、いびきの原因になる病気には、肥大化した鼻腔内腫瘍が関わって空気の通り道を塞いでいることもあり、もしそうであれば放置はできません。こういったいびきの原因になる病気については、後ほど詳しく解説します。
いびきの原因ごとの対処法
いびきが出る原因がわかったら、それぞれに合わせて対処法を探ってあげましょう。特に、病気が関わる肥満や鼻への刺激物は、早急に改善してあげたほうが愛犬のためになります。
肥満は食事と運動で体型コントロールを
肥満の原因は、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることです。
減量を目指すなら、
- 犬が口にするものすべての見直し(いつものごはん、おやつ、家族のおこぼれなど)
- 犬が楽しめる運動方法を取り入れる
といったことを行いましょう。
歯みがきガムや投薬のための食材なども、口に入れるものすべてがカロリーになります。基本的にメインとなるごはんが300kcal必要な子なら、あげるおやつはその10%以内=30kcal程度に抑えるようにしましょう。
食べる楽しみが少なくなると、なぜもらえないのかわからない犬にはストレスがかかるため、1日の食事回数を小分けにして「何度も食べられる喜び」に変えてみてください。
同時に、頭を使う遊びを利用して、愛犬の運動量の増加やストレス発散につなげてあげましょう。
- 大好きなおやつを探す宝探し
- おもちゃやロープを使った引っ張りっこ
- 室内でも屋外でもできるドッグエクササイズ(スクワットなど)
急にお散歩の量を増やそうとしても、動くのが辛い肥満犬にとっては嫌な時間になってしまいます。まずは楽しく動くことができる「遊び」などから始めてみましょう。
そして、こういった運動時に1日にあげるおやつを集約して、「食べたい!」という食への欲求と、犬の本能的な行動をつなげてあげることも必要です。
減量して首周りの脂肪が減るだけでも、喉への圧迫感がかなり薄れて、いびきの改善につながることも多いですよ。
鼻への刺激を減らすなら室内とお散歩ルートの見直しを
鼻や喉の粘膜を刺激したり、アレルゲンとなる物質をできるだけ排除するためには、愛犬が過ごす場所を整えてあげましょう。
室内のほこりや花粉が原因として考えられそうな時には、こまめな掃除や洗濯を行います。また、人の花粉症対策と同じく、外で着ていた衣類は玄関先で脱いだり、部屋干しを心がけましょう。
たばこは犬が過ごす部屋で吸うのは避け、花粉・ウイルス対策も兼ねた空気清浄機の活用も検討してみてください。
お散歩ルートで丈の長い草むらに顔を突っ込むことが多い子は、症状が酷くなる季節に合わせて、草むら以外のルートを多く取り入れましょう。匂いをかぐことは犬にとって本能を満たす楽しい行為ですが、草むらで行うと鼻の中に小さな異物を吸い込んでしまう確率が上がってしまいます。
芝生や土の上を歩くことを楽しむようにしてみたり、散歩中にトレーニングを取り入れて、飼い主さんとのコミュニケーションの時間を増やして意識をそらしてあげるのも良いですね。
無理な睡眠姿勢には飼い主さんがサポートを
愛犬にとってはリラックスしているのかもしれませんが、いびきが出るようならそっと体勢を変えてあげるのもいびき対策の1つです。特に、軟口蓋過長症があるような子だと、仰向けで寝ることで気道を塞ぎやすくなってしまうため、いびきの音が悪化しやすい傾向にあります。
体を丸めるような姿勢の方がいびきが出にくいとされているため、意識的にその体勢に持っていってあげましょう。
また、愛犬が普段使うベッドの形をラウンド型(円に近いもの)にしてみるなど、眠る体勢を自然と愛犬が変えるようサポートしてあげるのも1つの方法です。
犬のいびきがうるさい時に考えられる病気
愛犬のいびきが継続して起こる時には、一見ほほえましく思えるかもしれませんが、一度獣医師に相談してみることをおすすめします。
いびきが起きるほどの気道の狭さや閉塞があるなら、暑い時期の熱中症リスクを高めたり、ちょっと動いただけで呼吸困難になるリスクも抱えていることになります。
「いびきがうるさいな」と思うほどであれば、以下のような病気がからんでいることが多いため、治療方法を検討してみましょう。
短頭種気道症候群
犬は基本的に鼻呼吸をしていますが、短頭犬種では鼻の入り口部分や空気の通り道である鼻腔が狭くなりがちで、この状態を鼻腔狭窄と言います。鼻腔狭窄の子の中には、鼻の穴がほとんど閉じている子もいます。
そうなると鼻呼吸がほとんどできないため、口呼吸で何とか対応しなければいけません。しかし、よく併発する軟口蓋過長症に見られるように、喉の奥を軟口蓋が塞いでしまっているせいで口呼吸すらしにくいというパターンもあります。
気管虚脱がある時にはさらに気道を閉塞させるため、呼吸のしづらさは言わずもがなですね。
- 睡眠時だけでなく、起きている時からゼーゼー、ガーガーと音の鳴るような呼吸をする
- パンティング(速い口呼吸)が激しい
- 激しい呼吸を繰り返すことにより吐き気を催す
- いびきの音が大きい
- 呼吸の苦しさからくる元気食欲の喪失
- 呼吸困難による失神
こういった短頭種気道症候群がある場合、徐々に症状が悪化することも多くあります。鼻腔狭窄や軟口蓋過長症、気管虚脱などを完治させるには、外科治療しかありません。
鼻腔狭窄に対しては鼻の穴を広げ、軟口蓋過長症は長くなった軟口蓋を切除します。手術をしても軟口蓋過長が再発する可能性はありますが、放置して病気がどんどん複合化する前に手を打つことが理想的とされています。
気管虚脱に関しては、短頭種だけでなく、日本で人気の小型犬の多くでよく見られる病気でもあります。大型犬ならばラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーに多い病気です。
この病気を抱えている子は、呼吸時に気管がつぶれてしまうことで、呼吸困難だけでなく咳の症状も併せて発生します。
内科治療ではつぶれた気管を元に戻すことはできず、出る咳に対しての対症療法がメインになります。完治させるためには、こちらもやはりつぶれた気管を補強・押し広げる外科手術しかありません。
短頭種気道症候群では、複数の病気を同時に抱えていることがほとんどのため、一度に複数の治療法・手術法を取らなければいけないこともあります。
呼吸器に問題を抱えている子の手術では、麻酔導入時のリスクも上がるため、きちんと獣医師と相談・検討を重ねて治療方法を探りましょう。
鼻腔内腫瘍
いびきと同時に、
- 環境をどう変えても鼻づまりが取れない
- 鼻血が出る
- くしゃみが多い
という時には、鼻腔内腫瘍がないかも見ておかなければいけません。
鼻腔内腫瘍の発生は長頭種(マズルの長い犬)に多く、高齢の犬は注意が必要です。発生率は高くないものの悪性度が高く、また、早期発見がしづらい腫瘍です。片側だけ鼻水が出るような症状が続く時には要注意ですし、進行すると顔が変形する場合もあるため、その時点でやっと気づいたという例も少なくありません。
外からではなかなか見えない部分のため、動物病院での診断はレントゲン検査やCT検査が用いられますが、レントゲンではわかりにくいことがほとんどです。手術での切除・完治は発見されたころには進行していて難しいことが多く、放射線治療などを用いて対応することが多い腫瘍です。
鼻炎やアレルギーの治療をしてもなかなか鼻詰まりが治まらない時には、画像検査も早めに検討してみてくださいね。
病気が疑われるときのいびきサイン
いびきをかく原因になる病気は、慢性的に進行していくことも多いものです。
- いびきをかきながらも眠れていたが、途中で息苦しそうにして起きるようになった
- 今までいびきをかいたことがなかったのに突然うるさいいびきが始まった
- いびきの音が悪化して、ガーガー、ゴーゴーとうるさくなった
- 眠っている間絶え間なくいびきをかき、時にはゼーゼーと呼吸が苦しそうな様子を見せる
今あるいびきの音や頻度が悪化したり、飼い主さんがうるさく感じるほどの音量であれば、病気の存在を疑うべきです。また、眠りを阻害するほどの息苦しさが起きるような状態は、気道の閉塞も重度になってきている可能性があります。
眠っている時だけでなく、起きている時のいつもの呼吸状態まで一生懸命しているように見えたり、ちょっとした運動や気温の上昇に耐えられないほどであれば、急ぎ治療を検討してあげましょう。
最後に
いびきをかくことは、それだけでも愛犬の空気の通り道である呼吸器に何らかの支障があるということを示しています。それが眠る姿勢や一時的な鼻炎程度であればすぐに治りますが、慢性的に進行する病気を抱えている場合は、愛犬の生活を脅かします。
呼吸器系の異常を放っておくと、普段の生活をしているだけなのに呼吸が苦しくなってチアノーゼに陥ったり、重症の場合は突然死の原因になることもあります。
また、高温多湿な環境が気道に関わる病気を急激に悪化させることがあるため、暑い夏は外出を控えたり、興奮させないように注意しなければいけません。
愛犬のいびきは思わず笑ってしまったり、ついつい見守ってしまいがちです。しかし、「いつものいびきだし…」と放置せず、いびきをかく原因は何なのか、愛犬の呼吸状態に問題はないのか、ぜひ一度動物病院で確かめておくことをおすすめします。