犬の幼齢個体を親等から引き離す日齢が重要視される理由
動物は犬に限らず、母親から生まれ愛情を貰い、兄弟がいればその兄弟たちと共に遊びやケンカなどを通し、心を育んでいきます。これは犬においても全く同じで、幼い頃にどのような経験をしたかでその後の性格形成に大きな影響を与え、一定の日齢に達していない犬を親等から引き離してしまった場合、適切な社会化がなされずに、咬み、吠え等の問題行動を引き起こす可能性が高まるとされています。
将来の問題行動を極力発生させない為にも親等から引き離す日齢が重要視されているのです。
実際にアメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの多くの欧米先進国では生後56日齢未満の犬の流通、販売等が法律で禁止されています。
日本の現状
日本では、ペットショップやペットフード会社などが作る業界団体が目指す45日齢、ペンシルバニア大学のジェームズ・サーペル教授の研究結果に基づく、現状の49日齢、海外にも規制事例があり、多くの専門家が推奨する56日齢と3つの意見に分かれています。
ジェームズ・サーペル教授とは
動物行動学の世界的権威で、米ペンシルバニア大学獣医学部の教授。環境省主催のシンポジウムなどで、「子犬の分離時期は7~9週齢の間が最適で、6週齢では悪影響がある。10~12週齢は9週齢に比べてそれほど悪くない。8週齢と決めるなら素晴らしい事で、それはある種の安全な妥協点になる。」などと発言している。
※1週齢=7日齢
動物の愛護及び管理に関する法律
平成24年に行われた法改正以前は、「健全な育成及び社会化を推進するため、適切な期間、親兄弟とともに飼養・保管」と具体的な日齢は示されていませんでしたが、平成24年の法改正に伴い、平成25年9月1日より、「生後56日を経過しないものについて、販売のため、又は販売の用に供するために引き渡し又は展示してはならない」となりました。
しかし、これには附則があり、施工日から起算して3年を経過するまでの間は、「56日」とあるのは「45日」と読み替えるものとする。その後は別に法で定める日までの間は「49日」と読み替えるものとする。とされています。
その為、平成28年9月1日~現在に至るまでの間は「49日」となっています。
今年の法改正に向けた調査
環境省では、今年の法改正に向け平成25年度から、専門家、事業者、関係団体と共にデータを集め調査してきました。
調査方法は平成25~平成29年度の間に、ペットショップまたは繁殖業者が経営するペットショップを通じて販売された犬の飼い主を対象に、迎え入れた愛犬を約半年程度飼育した後、ジェームズ・サーペル博士が開発したC-BARQと呼ばれる犬の行動解析システムのアンケートに協力してもらい、回収されたアンケートの中から記載不備等のものを除いた、4033頭の犬を対象に調査は行われました。
また、補足調査として、ペットショップ、ブリーダーの飼育環境のアンケート調査も行われました。
調査結果
今回の調査結果では、親兄弟から引き離す日齢と問題行動の発生の関係性は証明されませんでした。
問題行動が起こる要因として、日齢による影響はほぼ無いに等しく、犬種、遺伝子、母体の状態、出生前後の飼育環境等が複合的に絡んだ結果であるとの意見も出ました。
まとめ
今回は環境省が行った調査を基に説明させていただきましたので、調査結果として親兄弟から引き離す日齢と問題行動の発生の関係性は証明されませんでしたが、幼齢個体の引き離し時期については様々な専門家の意見、将来的に発生する可能性のある問題行動の面を考えても56日齢の方が安全だという事は間違いはないと思います。
しかし、それには子犬が生後56日までを過ごす環境が整っていなければ全く意味がないどころか、かえって問題行動が生じるリスクが多くなることは言うまでもありません。
また、法改正により引き離し時期が56日齢になったとしても、生年月日の偽造などの新たな問題は確実に出てくるでしょう。
今年予定されている法改正でどのような結果になるかはさておき、飼い主の皆様は周りの情報に振り回されず「目の前の愛犬に対し適切な教育を行い育てる事」に専念してほしいと思います。
愛犬に対し適切な教育をしっかりと行う事が出来れば、問題行動の発生を抑える事は可能なのです。