母犬の行動が盲導犬としての将来を左右する?
「子供を成功に導くためにはどうすればいい?」「何もかも親が先回りするのではなくて、自分で考えるように導くことが大切なのでは?」
そんな子育ての課題に対する答えの一つが、盲導犬候補の子犬たちと母犬によって示されたようです。
アメリカのアリゾナ大学の研究チームが長期に渡って多数の母犬と子犬を追跡リサーチした興味深い内容をご紹介します。
盲導犬育成施設で母犬と子犬の関係を研究観察
研究の舞台となったのはアメリカのニュージャージー州にある盲導犬育成のための施設です。繁殖〜母犬と子犬の飼育〜盲導犬としての訓練までを行っているところです。
盲導犬が研究対象に選ばれた理由は3つです。
- 理想的に管理された同じ環境で多数の母犬と子犬を一度に観察できること
- 適性のない犬は訓練から外されていき最終的に盲導犬になることができる犬は少数という明確な成功の基準があること
- 盲導犬になるということは従順で注意深く、いろいろな環境で複雑な問題を処理しなくてはいけないという高い能力が必要なこと
研究チームは子犬の飼育スペースにビデオカメラを取り付け、子犬が生まれてから5週間の様子を観察記録しました。記録したデータは母犬23匹と子犬98匹分。母犬がどんな姿勢で過ごしていたか、子犬から離れて過ごしていた時間、子犬のすぐ側で過ごしていた時間、子犬を舐めたりグルーミングしていた時間などを記録しデータ化しました。
これらの時間は母犬によってかなりの違いがあることがわかりました。
研究者が2年後にそれぞれの子犬の追跡調査を行ったところ、子犬の側で過ごしていた時間や舐めていた時間の長かった母犬の子供たちは盲導犬の訓練プログラムを完了できない率が高かったそうです。
また横になっている時間が長かった母犬の子犬は、しょっちゅう座ったり立ったりしてよく動く母犬の子犬に比べて、プログラムを完了できない率が高かったというデータはとりわけ特徴的だったそうです。
母犬が横たわっている時間が長いと子犬たちはいつでも簡単に母乳を飲むことができますが、母犬が立っていれば子犬はお腹が空いた時にどうやって母乳を飲むか頭を使って考えなくてはなりません。このようなちょっとした困難を乗り越えるためのチャレンジが後の成功につながるため、親は全てを簡単に与えるのではなく、自分で克服できる程度の小さい困難を与えることが大切と研究者の一人が述べています。
人も犬も子育ての基本は同じなんだ!と驚きますね。
子犬たちが母犬と過ごす時間は、パピーウォーカーの家族の元で暮らし始める前の5週間だけなのですが、その短い時間が2年後の訓練の結果にも影響を与えているそうです。
もちろん持って生まれた能力や気質も大切
パピーウォーカーの家庭で14~17ヶ月齢になるまで過ごした若犬たちは再び施設に戻って盲導犬になるための訓練を始めます。この時点で研究チームは犬たちにいくつかのテストを行いました。
複数の課題を解くとトリーツにたどり着けるパズル、開いた傘を見せられて吠え始めるまでにどのくらいの時間がかかったか、見慣れない猫のロボットを見た時にどんな反応をしたか、などです。
これらのテストの結果は言うまでもなく、パズルを解決する能力が有り、見慣れないものを見ても吠えたり怖がったりしない犬が、盲導犬としての訓練を完全に終える可能性が高くなります。
盲導犬になることができるかというのは、決してひとつの要因だけで決まるわけではないのですが、面白くて色んなことを考えさせられる結果ですね。
まとめ
盲導犬候補の子犬たちのうち訓練の途中で脱落してしまった犬は、母犬が用心深すぎたり、何もかも準備して与えていたりという傾向があったことがわかりました。盲導犬になるためには持って生まれた資質も重要なのですが、母犬の対応も子犬の一生に大きな影響を与えるというのは興味深いですね。
このリサーチは盲導犬という明確なゴールが定められている犬たちを対象に行われましたが、犬が自分で考えて克服できるような小さな困難を積極的に与えるというのは、家庭にいる成犬にとっても大切なことです。飼い主は犬にとっての母犬に当たる面もありますね。愛犬の安全は確保しつつ、心配し過ぎや過保護になることなく、犬にとっての最善を考えてやりたいと改めて思いました。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2017/08/170807151706.htm