「興奮」とは何か
興奮は生物学用語です。この生物学での興奮の意味は、刺激によって神経の働きが活発になることを言います。犬の場合で例えるのなら、散歩の支度をしていると犬がソワソワしている状態は興奮です。または、飼い主が帰宅して大喜びをして動きが活発になっているのも興奮です。この例えで言うと、散歩の支度が刺激となり、ソワソワしているのが興奮です。
もう一方では、飼い主の帰宅が刺激で、大喜びしているのが興奮となります。このように、休止状態から何らかの刺激を受けて活動状態になることを興奮と言います。この興奮が高まると声が伴ったり、活動過多になったりもします。
別の例で考えてみます。例えば、犬が嫌いな犬がいるとします。この犬は、他の犬を見ると吠え掛かり、襲おうとします。ここでは、他の犬が刺激となり、恐怖という感情と、襲うという行動が興奮となります。このようなケースでは、興奮が高く、吠えも伴います。こうした過剰な興奮は収まりにくく、制御が困難になります。
犬の興奮とストレス
興奮が高まり過ぎた状態は、生体にストレスを与えます。先の例のような他の犬に対しての興奮の場合では、高まった興奮がなかなか冷めないため、犬は多くのエネルギーを使うことになります。この例のようなケースでは、嫌悪感も伴っているために、ストレスは多大なものになります。
また、散歩前の興奮や、飼い主の帰宅時などで、犬が吠えていたり、動き回っていたり、飛びつきが激しいようであれば、興奮が過剰となっており、ストレスとなります。
このような幾つかの例での興奮は、それぞれに違った意味合いがあります。ここであげた例での、散歩前の興奮や、飼い主の帰宅時の興奮は「嬉しさ」からくる興奮です。このようなストレスを快ストレスと言います。この快ストレスは、やる気を出させたり、集中力を維持したりする働きを持ちます。
一方の、他の犬を襲おうとする場合でのストレスは不快ストレスと言います。これには「怒り、不安、恐怖」といった感情からくる興奮です。この不快ストレスが一般に言われるストレスに当たり、疲労や病気の元になることは広く知られています。
では快ストレスであれば、どんなに興奮しても良いのでしょうか。実はそうではありません。私の身近な例えでは、飼い主の帰宅時に犬の興奮が高まり過ぎて死亡したケースがあります。これは先天的に心臓が弱いなどの条件もあったかもしれません。
しかし、この場合のように快ストレスであっても、心拍数と血圧は上昇し、体に大きな負担がかかることは確かです。そしてこれらの興奮は、日常の中で飼い主の行動によって強化されたものであり、不自然な興奮なため、発散されにくく、興奮状態が長く続くことになります。
犬の興奮を抑えるトレーニング
それでは、快ストレスと不快ストレスのそれぞれで、興奮を抑えるトレーニングについて見ていきましょう。まずは、何が刺激になっているかを観察から得ます。刺激が特定できたらトレーニングが可能です。
快ストレスの場合
先の例から、散歩前の興奮を制御するとします。散歩の支度をしていると犬は散歩に行けることを感じて興奮します。なので、散歩の支度をして、犬が興奮し始めたら、すぐに支度を辞めます。犬は「あれ?散歩は?」とでも言うような感じになるかもしれません。そのままじっと待ち、犬が落ち着いたら支度を始めます。これを繰り返しているうちに、犬は興奮していると支度が進まないと学習します。
例えば、リードを持ったら犬が興奮する場合では、犬が興奮したらリードを置きます。そして、犬が落ち着くまで待ってからリードを持ちます。リードを持っても興奮しなくなったら、今度はリードを付けようとします。ここでも犬が興奮したら付けるのを辞めます。そしてリードが付いたら家から出ます。家から出るときも犬が興奮していたら、ドアを閉めて待ちます。
以下、これの繰り返しです。最初は時間がかかるので、じっくりと行います。
不快ストレスの場合
先の例から、他の犬への興奮を抑えるとします。この場合は、何かの不安や恐怖が絡んでいることが多く、簡単にはいきません。これらの反応は社会化が不足していることが原因であることが多く、制御は困難になります。実施する場合は、あらかじめ幾つかのトレーニングが必要です。
例えば、ネームエクササイズを行い、名前に対してポジティブな感情を引き出すようにします。犬が名前を呼ばれることで、嬉しい気持ちになれるようになっていることが必要です。
次に基本的な動作を教えておきます。スワレ、ツイテ、コイなどがこれに当たります。いずれも興奮時には指示が通らなくなりますが、興奮する前に指示を出すようにして使います。また、これらの動作を教えるときは決して罰を用いてはなりません。指示が出た時に、犬のポジティブな感情を引き出すことが大切だからです。
いよいよトレーニングに入ります。相手の犬と十分な距離をとります。距離は個体によって異なります。数メートルの場合もあれば、数百メートル必要なこともあります。犬が相手の犬を認識して興奮しない距離を取るようにします。
十分な距離が取れたら、犬の名前を呼びます。犬が飼い主を見たら、その直後に褒めて食べ物を与えます。そしてツイテやコイの指示を出して歩き出します。犬が相手の犬を見ずに、飼い主に注視している間は、ひたすら褒め続け、その行動が正解だということを伝えます。犬が相手の犬を見ても興奮していないようなら、すかさずに褒めて飼い主に意識を向けるように促します。そして飼い主に意識を向けたら褒めて正解だということを伝えます。
このように不快ストレスによる反応が起こらないようにしてトレーニングを行います。こうした動作を行いながら、機会を増やすたびに相手との距離を縮めます。これは、難しいこともあるので、上手くいかない時は、専門家に依頼してアドバイスを貰いましょう。
まとめ
興奮している犬を「元気だね!」と思う人も多いようです。しかし、過剰な興奮は生体に負担を与えます。日常の中では過剰な興奮は不要であり、リラックスしていることが望ましいと思います。散歩の支度をしている時や飼い主の帰宅時に喜んでいることは良いですが、興奮が高まり過ぎて吠えるや、飛び跳ねていては過剰です。
反対に、屋外でのランニングやボールでの遊び、他の犬との遊びには興奮がつきものですが、これは活動している中で発散されます。このような楽しく発散が可能な興奮は、過剰になることは少なく、多くは適度な興奮であり、しかもすぐに発散されるため、健康維持のためにも必要な興奮です。
しかし、日常生活での不要な興奮は、発散されにくく、生体に負荷を与えます。こうした興奮はトレーニングで抑制し、不要なストレスを与えないようにしたいものです。犬がリラックスし、喜んでいる状態は、犬の笑顔にも現れることでしょう。