トラウマを作ってしまった2つの出来事
人に対する恐怖の誕生(チワワ生後12ヶ月目のある日の出来事)
お散歩が上手に楽しめるようになり、いつもの住宅街のコースに加え、土や石の感触も味わえるコースとしてお城の公園へも時々連れて行くようになっていました。人とすれ違っても我関せずで、お散歩中に気になる問題は特にありませんでした。
その時までは…
お城の石段の登り口付近に差し掛かった時、その出来事は起きました。
それまで私達の後ろを歩いていた1人の見知らぬ中年男性が、犬の横を追い越す瞬間に猛ダッシュでそのまま石段を駆け上がって行きました。
男性の突然の行動に驚きましたが、それ以上に驚いたのは犬がとっさにその男性を追ってすごい勢いで走り出したことでした。普段感じたことのない瞬発力で首輪が抜け、私が後を追う間もなく男性の姿と共に犬の姿も見えなくなりました。「このままいなくなるか、怪我をするかのどちらかだ」と思いながらとにかく犬の名前を呼び続けました。
すると、犬だけがその石段をすごい勢いで一気に駆け下りて来ました。そして、そのまま石段の下にいた私の胸に飛び込みました。
私の死角で何が起きていたかは分からずじまいですが、犬に怪我はありませんでした。その間1分程だったのかもしれませんが、とても長く感じました。
人にとっても段差の大きな石段を、チワワの小さな体で一瞬にして猛ダッシュで駆け上がり、駆け下りて来たのです。とても怖い体験だったと想像します。
犬に対する恐怖の誕生(チワワ生後1年6ヶ月目のある日の出来事)
半年前の恐怖から少しずつ解放され、再びお城の公園にも立ち寄るようになっていました。人に対する恐怖心を学んでしまってはいたものの、他の犬とはすれ違ってもまだ我関せずでしたので、気になる問題は人の気配に対してだけでした。
その時までは…
石段を登りきり上段の公園を歩き始めた時、その出来事は起きました。
50m程前方に1頭の大きなスタンダードプードルとその周りを囲むように数人の中高年の男性の姿がありました。
私は人が苦手になってしまった犬に「大丈夫、怖くないからね、大丈夫よ」と声を掛けながら、その集まりに近づかないように意識してその方向へ進もうとしていました。
その時、話に夢中の男性達が私の犬に気付いていたかどうかは定かではありませんが、大きなスタンダードプードルは小さなチワワにすぐに気付きました。
最初は目で追っているだけでしたが、少しずつ私達の方に近づき始めると、徐々にスピードを上げ、私の犬に向かって真っ直ぐに駆け寄って来ました。周りで談笑している男性達は誰もその様子に気付いていませんでした。
プードルがあまりにも大きかった為に、私の犬は遠目に人だと勘違いしていたのだと思います。「人ではない!」と気付いた時、大きな犬が不意に目の前に現れた錯覚に襲われたのではないでしょうか。
プードルは遊びの誘いだったと思いますが、私の犬は襲われると感じたのでしょう。とっさに逃げようとすごい力で暴れました。今度は直ぐに首輪が外れる事はありませんでしたが、暴れ回る力は非常に強くやはり再び首輪が抜けてしまいました。
その時、やっとプードルの飼い主らしき人が気付き、プードルを呼び戻してくれました。
しかし、私の犬はそのまますごい勢いで石段を駆け下りて行きました。あっという間に犬の姿が見えなくなり、半年前と全く同じ状況でした。
すると、間もなくしてその石段をすごい勢いで駆け上がって来ました。そして、そのまま石段の上にいた私の胸に飛び込みました。
今回も犬に怪我はありませんでしたが、あの猛スピードであの段差の大きな石段を駆け下り、駆け上がって来た姿を思い出すと、今でも背筋が寒くなります。
この2つの出来事は怖がりな気質の犬にとって、人と犬に対する恐怖心を呼び起こす事となり、私はその公園に犬を連れて行くことに対する恐怖心でその公園へはすっかり足が遠のいてしまいました。
それぞれの出来事が起こってしまった原因
狩猟本能の目覚め
犬は素早く動くものを見ると、獲物と勘違いし猛スピードで走り出すことがあります。この行動は野性のなごりで狩猟本能によるものです。
パニックの誘発
犬は驚いた拍子に恐怖心からパニックを引き起こし、急に走り出すことがあります。突発的な不安や恐怖により脳の処理能力を超える状況に陥ってしまうと、走り回って暴れたり、その場から逃げ出したり、混乱した心理や錯乱した行動を落ち着かせようと狭くて暗い所に隠れる本能があります。
トラウマの恐ろしい影響力
この2つの出来事は、私と犬共々の楽しかったお散歩の時間を心臓ドキドキの緊張の時間に変えてしまいました。元々怖がりな性格だったことも影響し、お散歩中は歩きながら前後左右を執拗に確認し、常にオドオドした様子のお散歩に変貌しました。
後方に人の気配を感じると後ろをずっと振り向きながらでないと、怖くて歩けなくなりました。後ろから来た人が通り過ぎるとやっとホッとした様子で前を見て歩くようになります。だから、常に最後尾を歩かなければならなくなり、前を歩いている人を抜かすことは至難の業となりました。
更に、少しの物音にも敏感に反応するようになりました。
歩道の垣根の向こう側で子供の声が急に聞こえた時、飛び上がって驚きとっさに車道に飛び出してしまいました。この時は既に胴輪を利用しており、首輪が抜ける事はありませんでしたが、車が来ていたら跳ねられるか轢かれていたと思います。
偶然?必然的な結果です!
2つの出来事は偶然ではありません。どちらも必然的に起こった結果だったのです。
起こるべくして起こった出来事は、未然に防止することができたはずです。
起こる可能性を考慮し、それに伴う対策を心掛けなければならなかったのです。
飼い主の心構え
- 迷惑や苦情の原因になることはできる限り防止する。
- どの犬もリードでつながれていると思い込まない。
- 全ての飼い主が犬を制御してくれると信じ込まない。
- 人の行動は常に予測不能だと意識する。
犬に施す対策(飛びつき防止)
- 犬が急に飛び出さないようにリードをしっかりと短めに持つ。
- 自転車やバイクなど犬が興奮する対象を見つけたら、声を掛けたりおやつを使って犬の意識を飼い主に向けさせる。
- 胴輪を利用する。(パニックを起こしやすい犬は首輪と胴輪のダブルリードを活用)
ノーリードの危険性
- 他の人や犬などに無用の恐怖心や警戒心を与える。
- 他の人や犬などに飛びついたり、咬んだりする事故が起こり得る。
- 交通事故を引き起こす。
- 疾走して迷子になる。
- 犬が盗まれる。
リードでつないでいても犬を制御できず結果的に放してしまえば、ノーリードの飼い主と同じです。
私はこの経験を通じて「飼い主は被害者にも加害者にもなり得る」という当たり前のことを今更のように心に刻みました。
まとめ
今までに6匹の犬達と係わってきた私に、自分が情けない飼い主であることを気付かせてくれたきっかけは、今回登場したとても怖がりな犬との出会いにありました。
他の犬達とのお散歩でも危険な出来事に遭遇することは多少ありますが、この犬はまるで怖がりの性格が次々と危険を呼び寄せているように、他の犬達と比べ、何故か飛び抜けて様々な危険な出来事に遭遇してしまうのです。
初めの頃は運の悪い犬だと可哀相に思っていましたが、度々危険に出くわす内に「これは偶然ではなく必然的な結果であり回避する方法がきっとあったはずだ」と自己を反省するようになりました。新たな問題点を見つける度に一つ一つ解決していこうとする心掛けが、結果的に犬との信頼関係を堅実に構築しているように思います。
こうして、この怖がりな犬と共に苦悩の日々を丸2年費やし、やっと水を得た魚のように犬が物事の意味を理解するようになりました。すると、それと並行して恐怖心に打ち勝てる場面も少しずつ増え始めました。今では怖がりで一番問題を抱えていた犬が、忠実な犬の素質を最も感じさせてくれています。
しかし、危険な体験によって生じた恐怖心を取り除くことは本当に難しいです。
「一瞬の出来事が犬との生活を一変してしまう危険をはらんでいる」ということを伝えたいと思い、このような体験談を紹介しました。