犬の「避妊・去勢手術」いつがベスト?最新研究からわかる健康への影響を獣医が徹底解説

犬の「避妊・去勢手術」いつがベスト?最新研究からわかる健康への影響を獣医が徹底解説

愛犬の避妊・去勢手術は、飼い主さんにとって大きな決断の一つです。いつ手術を受けさせるのが良いのか、健康への影響は?と悩む方も多いでしょう。この記事では、最新の研究結果に基づき、犬種ごとの避妊・去勢の最適な時期と、関節疾患やがん、尿失禁といった病気との関連性について、初心者の方にも分かりやすく解説します。

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記事の提供

東京大学動物医療センター内科研修過程修了。一般診療と皮膚科専門診療を行い、国内・国外での学会発表と論文執筆も行う。現在は製薬会社の学術担当を務めながら、犬猫について科学的に正しい情報発信を行っている。Syneos Health Commercial 所属MSL、サーカス動物病院 学術、アニー動物病院 非常勤獣医師。

避妊・去勢手術、なぜ必要?メリットとタイミングの重要性

処置台の上で寝転ぶ犬と支える獣医師の手

犬の避妊・去勢手術は、望まない妊娠を防ぐだけでなく、様々な病気のリスクを減らし、行動面を改善するためにも推奨されています。

しかし、いつ手術を受けさせるのが最も良いのか、という疑問を持つ飼い主さんは少なくありません。

これまでの一般的な認識としては、「生後6ヶ月齢前後」など、早い段階での手術が推奨されることが多かったのですが、近年、犬種や性別によって最適な時期が異なるという新しい研究結果が注目されています。

避妊・去勢手術のメリット

避妊・去勢手術の一般的なメリットは以下の通りです。

望まない妊娠の防止

野良犬の増加や殺処分される犬の数を減らすことに繋がります。

性ホルモン関連疾患のリスク低減

メスの場合…子宮蓄膿症、卵巣腫瘍、子宮腫瘍などのリスクがほぼなくなります。乳腺腫瘍(乳がん)の発生リスクも大幅に下げられます。

オスの場合…精巣腫瘍のリスクがなくなり、前立腺肥大や肛門周囲腺腫瘍のリスクも低減できます。

行動問題の改善

発情期のストレス(鳴き声、落ち着きのなさ)や性的欲求による徘徊、マーキング、攻撃性などが減少する傾向があります。

避妊・去勢手術のタイミング

このように多くのメリットがある避妊・去勢手術ですが、問題となるのはその「タイミング」です。

これまで早期の手術が推奨されてきましたが、近年、性ホルモンが骨格の発達や免疫機能、特定の疾患の発症に影響を与える可能性が示唆され、特に大型犬や特定の犬種においては、早期の避妊・去勢が関節疾患や特定のがんのリスクを高める可能性があるという研究結果が出てきています。

今回参照する論文(Hart et al., 2024)も、まさにこの「犬種ごとの避妊・去勢の時期と健康への影響」に焦点を当てた最新の研究の一つです。これにより、これまで一律に推奨されてきた「早期の手術」が、全ての犬種に当てはまるわけではないという認識が広まりつつあります。

最新研究が示す、犬種・性別ごとの最適な手術時期と病気のリスク

横一列に並ぶさまざまな犬種の子犬たち

Hart et al. (2024)の論文は、特定の犬種を対象に、避妊・去勢の年齢と、関節疾患、がん、尿失禁などの関連性を調査しています。この研究は、個々の犬種において、それぞれの性別で避妊・去勢の最適な時期があることを示唆しており、単一の推奨時期が全ての犬に当てはまらないことを強調しています。

論文の内容から読み取れる、各犬種と性別における特徴的な傾向と、そこから導かれる注意点は以下の通りです。

大型犬における関節疾患のリスク

ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、マスティフ、ニューファンドランドなどの大型犬種では、性成熟前(特に生後6ヶ月齢未満)の早期避妊・去勢が、股関節形成不全や肘関節形成不全などの関節疾患のリスクを高める可能性が示唆されています。

これは、性ホルモンが骨の成長板の閉鎖に関与しており、早期に性ホルモンがなくなることで、骨の成長が不自然に長く続き、関節の形成に影響を与えるためと考えられています。

これらの犬種では、骨格の成長が完全に終わるまで、つまり性成熟を過ぎてから手術を検討することが、関節疾患のリスクを低減する上で有効である可能性があります。論文では、特にオス犬で関節疾患のリスクが増加することが示唆されています。

特定のがんのリスク

特定の犬種においては、避妊・去勢手術のタイミングが、リンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫などの特定の「がん」の発症リスクと関連する可能性が示されています。

例えば、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのオスでは、特定の年齢で去勢した場合に、特定の腫瘍のリスクが増加する可能性が示唆されています。

ただし、この関連性は犬種やがんの種類によって異なり、一概に「避妊・去勢ががんのリスクを高める」と言い切れるものではありません。乳腺腫瘍のように、避妊手術によってリスクが大幅に低下するがんも存在します。

尿失禁のリスク(メスの場合)

メス犬の場合、早期の避妊手術が、後年の尿失禁のリスクを高める可能性があることが、他の研究でも指摘されています。これは、性ホルモンが尿道の括約筋の機能に関与しているためと考えられています。論文においても、一部の犬種でこの傾向が示唆されています。

獣医師と十分に相談することが重要

これらの結果は、獣医療において「画一的な推奨」ではなく、個々の犬種や性別、さらには個体の特性を考慮した「個別化された判断」が重要であることを強く示唆しています。

飼い主さんは、自分の愛犬の犬種や性別を踏まえ、獣医師と十分に相談し、メリットとデメリットを総合的に判断して最適な時期を決定することが求められます。

愛犬にとっての「ベスト」を見つけるために:獣医師との相談が不可欠

診察台の上の犬を挟んで会話する獣医師と飼い主

最新の研究結果は、避妊・去勢手術のタイミングについて、これまでの一律な見方を再考するきっかけを与えてくれます。しかし、これらの情報だけで飼い主さんが独断で判断するのは危険です。愛犬にとっての「ベスト」な選択をするためには、必ずかかりつけの獣医師との綿密な相談が不可欠です。

獣医師は、あなたの愛犬の個体差(現在の健康状態、遺伝的な背景、行動特性など)を理解した上で、最新の科学的根拠に基づいた最適なアドバイスをしてくれます。

また、もし早期の避妊・去勢手術を選択した場合でも、その後の健康管理において、関節疾患の早期発見や予防のための工夫(適切な体重管理、運動量、サプリメントの利用など)を獣医師からアドバイスしてもらうことも可能です。

避妊・去勢手術は、愛犬の生涯にわたる健康と生活の質に大きな影響を与える重要な医療行為です。インターネットの情報だけに頼らず、信頼できる獣医師と共に、愛犬の未来のために最善の選択をすることが、飼い主さんの大切な役割と言えるでしょう。

まとめ

穏やかな顔で眠っている術後服を着た犬

犬の避妊・去勢手術の最適な時期は、最新研究により犬種や性別で異なることが示されています。早期手術はメリットも多い一方で、関節疾患や特定のがん、尿失禁のリスクを高める可能性も。

愛犬にとっての「ベスト」を見つけるため、必ずかかりつけの獣医師と相談し、個々の状況に合わせた最適な時期を決定することが重要です。

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