「生食」は本当に犬に必要?科学的に見た「メリット・デメリット」を獣医が徹底比較

「生食」は本当に犬に必要?科学的に見た「メリット・デメリット」を獣医が徹底比較

健康志向の高まりから、犬にも“生食(BARF)”を取り入れる飼い主が増えています。しかし、「自然=安全」とは限りません。本記事では、生食のメリット・デメリットを科学的に解説し、取り入れる際の注意点をお伝えします。

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東京大学動物医療センター内科研修過程修了。一般診療と皮膚科専門診療を行い、国内・国外での学会発表と論文執筆も行う。現在は製薬会社の学術担当を務めながら、犬猫について科学的に正しい情報発信を行っている。Syneos Health Commercial 所属MSL、サーカス動物病院 学術、アニー動物病院 非常勤獣医師。

生食(BARF)とは?どんな種類があるの?

食器に入った生食用フードと上を見上げる犬

生食(BARF:Biologically Appropriate Raw Food)は、犬本来の食性に近づけることを目的に、加熱や加工をしていない肉や骨、内臓、野菜などを組み合わせた食事スタイルです。

市販されている冷凍タイプの生食には、必要なビタミンやミネラルが添加されているものも多く、栄養面のサポートがなされています。一方で、飼い主自身がレシピを考えて与える「手作り生食」では、栄養バランスが崩れるリスクが高まりやすく、特にビタミンやミネラルの不足には注意が必要です。

生食を選ぶ際には、犬の年齢、品種、体格、活動量、繁殖の有無など、個々の状態に応じた設計が求められます。ところが実際には、栄養士や獣医師に相談せずに生食を始める飼い主が多く、ある調査では相談した人はわずか14%にとどまるという結果も報告されています。

自己流の食事で「自然な食事」を目指しても、栄養素が欠乏したり過剰になったりするリスクがあることは、あらかじめ理解しておく必要があります。

生食のメリット:「自然」に近い食事がもたらす効果とは?

生食用フードとドライフードを比較する犬

生食の大きな魅力の一つは、消化の良さにあります。加熱されたドライフードでは、加工工程における高温処理によってタンパク質の構造が変性し、消化吸収が低下することがありますが、生の肉ではこうした影響が少ないと考えられています。これにより、腸内に残る未消化物が減り、便の量や臭いが軽減されるという報告もあります。

また、加熱調理によって生成される「ヘテロサイクリックアミン」などの発がん物質は、生食ではほとんど発生しません。これらの化合物はごく微量でもDNAに影響を及ぼす可能性があるため、少しでもリスクを避けたいと考える飼い主には、生食が魅力的に映るのかもしれません。

さらに、生食が免疫機能に良い影響を与える可能性も指摘されています。ある研究では、生食を与えた犬の血液中で、慢性炎症に関与するサイトカインの発現が減少し、免疫の調整が期待できるという結果が得られました。

実際に生食へ切り替えた飼い主の多くは、皮膚トラブルや消化不良といった慢性的な症状の改善を感じたと報告しており、毛並みの良さや活力の向上、体重管理のしやすさといった効果も実感しているようです。

ただし、こうした改善の多くは主観的な評価であり、科学的な因果関係が明確に証明されているわけではありません。その点を踏まえた上で、生食のメリットを正しく理解することが大切です。

生食のデメリット|「自然」に潜む危険性も知っておこう

診察台の上でうなだれている犬

生食には魅力だけでなく、明確なリスクも存在します。最も大きな懸念の一つは、食材に含まれる病原菌や寄生虫です。例えば、サルモネラ菌やカンピロバクターなどの細菌は、加熱せずに肉を与えることで犬の体内に入り込み、まれに食中毒を引き起こすことがあります。さらに、これらの菌は調理中に人間へも感染する可能性があるため、特に小さな子どもや高齢者がいる家庭では注意が必要です。

また、冷凍保存や流水洗浄によって取り除けない寄生虫が潜んでいることもあります。特に牛肉や鶏肉では、ネオスポラやトキソプラズマなどが検出されることもあり、免疫力の低い犬や成長期の子犬に与えるには慎重な判断が求められます。

栄養バランスの崩れも深刻な問題です。とくに子犬や大型犬の成長期では、カルシウムとリンの比率が適切でないと、骨の発育に異常が生じ、変形や軟化が起こる可能性があります。肉のみに偏った食事ではリンが過剰になりがちであり、カルシウム不足を引き起こします。必要に応じて、炭酸カルシウムなどを加えて補正する必要があります。

また、ビタミンAやE、セレンの欠乏は、特にオス犬の精子の質や、メス犬の発情周期、妊娠の継続に影響を与えることがあります。たとえば、首回りの肉や内臓には甲状腺ホルモンが多く含まれており、過剰に摂取すると甲状腺機能亢進症(いわゆる“バセドウ病”に類似した状態)を引き起こすことが報告されています。この状態になると、体重減少や興奮、呼吸の速まり、食欲増進などの症状が現れることがあり、メス犬の場合は発情周期が停止してしまうこともあります。

さらに、骨を含んだ食事では、硬すぎる骨が歯を折ったり、腸に刺さって穿孔を引き起こしたりするリスクもあります。安全性を考慮するならば、柔らかく加工した骨や適切な補助サプリの活用が求められる場面もあるでしょう。

まとめ

食器からフードを食べている犬

犬の健康を支えるうえで、生食は魅力的な選択肢の一つとなり得ます。しかし、その効果を安全に引き出すには、正しい知識と専門家の助言が不可欠です。

自然であることと、健康に良いことは必ずしも同義ではありません。生食を検討する際は、愛犬にとって本当に必要な栄養が何かを見極め、信頼できる情報源とともに慎重に取り入れていくことが大切です。

参考文献:Główny D et al, Pol J Vet Sci. 2024 Mar 20;27(1):151-159.

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