下痢が出ていないのに腸が悪いことがある?!犬のタンパク喪失性腸症(PLE)について【獣医が解説】

下痢が出ていないのに腸が悪いことがある?!犬のタンパク喪失性腸症(PLE)について【獣医が解説】

犬の健康問題の中で、腸に関する疾患は多く見られますが、下痢が出ないのに腸の異常が進行することがあります。その一例が「タンパク喪失性腸症(PLE)」です。PLEは腸でのタンパク質の喪失が引き起こす病気で、消化器の問題が進行しても、必ずしも下痢や明確な症状が現れるわけではありません。この記事では、PLEの原因、症状、治療法についてわかりやすく解説します。

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記事の提供

東京大学動物医療センター内科研修過程修了。一般診療と皮膚科専門診療を行い、国内・国外での学会発表と論文執筆も行う。現在は製薬会社の学術担当を務めながら、犬猫について科学的に正しい情報発信を行っている。Syneos Health Commercial 所属MSL、サーカス動物病院 学術、アニー動物病院 非常勤獣医師。

タンパク喪失性腸症(PLE)とは?

元気のない犬

タンパク喪失性腸症(PLE)は、腸内で異常に大量のタンパク質が失われる病気です。この病気は主に、リンパ管の拡張(リンパ管拡張症)や、慢性炎症が原因で発症します。

PLEでは、腸内で十分に吸収されるべき栄養素が血流に戻らず、結果として血液中のタンパク質が低下してしまいます。これにより、犬は栄養不良や免疫機能の低下に苦しむことになります。

PLEの病気の進行は非常に遅いことがあり、初期段階では症状が軽微で、下痢が出ないことも少なくないため、飼い主が気づくのが遅れることがあります。しかし、進行すると、体重減少、腹囲膨満(腹水)、食欲不振、元気の低下といった深刻な症状が現れます。

PLEは免疫系の異常が関与していることが多く、食事療法と免疫抑制剤を使用した治療が行われることが一般的です。特に、犬では薬としてはステロイドなどの薬剤が使われることがありますが、治療法は依然として試行錯誤の段階にあります。

PLEの原因と症状

寝込んでいる犬

タンパク喪失性腸症は、主に次のような要因によって引き起こされます。

リンパ管拡張症

リンパ液が腸内で適切に排出されず、腸のリンパ管が拡張することで、腸壁が障害を受け、タンパク質が過剰に喪失することになります。

慢性炎症(IBD)

慢性的な腸の炎症は、PLEの引き金になることがあります。この炎症が腸内でのタンパク質の吸収を妨げ、血液中に吸収されるべきタンパク質が漏れ出してしまいます。

主な症状

  • 体重減少:腸内からの栄養吸収が妨げられ、犬が徐々に〜時には急速に体重を減らします
  • 食欲不振:腸内の炎症や不調が原因で、犬が食欲を失うことがあります
  • 腹水(腹囲膨満):タンパク質が不足すると、血液中のアルブミンが低下し、体内に水分が溜まりやすくなります。その結果、腹部が膨らむことがあります
  • 元気喪失と虚弱:栄養不足や免疫系の低下が進行すると、犬は元気を失い、虚弱になります

PLEの症状は非常に多様で、他の疾患と混同されることもあります。下痢が出ないこともあるため、飼い主が気づくのは難しいこともありますが、体重減少や腹部の膨満が目立ってきたら、早期に獣医師に相談することが大切です。

PLEの治療法と予後

診察を受ける犬

PLEの治療は、原因に対するアプローチと、犬の症状を緩和することを目的としています。治療法にはいくつかの方法がありますが、必ずしもそれぞれの治療がすべての犬に効果があるわけではありません。

1. 免疫抑制剤の使用

PLEの治療において、免疫抑制剤が使用されることが一般的です。特に、ステロイド(プレドニゾロン、プレドニンなど)が使用されます。これらの薬剤は、免疫系の異常反応を抑えることを目的としていますが、その効果には個体差があり、副作用も考慮して慎重に使用する必要があります。

2. 食事療法

タンパク喪失性腸症の犬には、特別な食事が必要です。低脂肪、高消化性のフードや、アレルゲンが限られたフードが推奨されます。また、必要に応じて手作り食やミネラルの調整が行われることもあります。食事療法は長期間にわたって行う必要があり、犬の状態に合わせた調整が求められます。

3. 抗菌薬の使用

炎症が感染症や異常な腸内細菌の増殖と関連している場合、抗菌薬(メトロニダゾールなど)が使用されることがあります。これにより、腸内の感染を抑制し、症状の緩和を図ります。

予後

PLEの予後は、早期発見と治療が重要です。治療によって一部の犬は症状が改善し、長期間生きることができますが、重症の場合や他の基礎疾患が絡んでいる場合、治療が難しくなることもあります。

研究によると、PLEに関連した死亡率は50%以上とも報告されています。そのため、飼い主のサポートと獣医師との密な連携が重要です。

まとめ

獣医師と飼い主

犬のタンパク喪失性腸症(PLE)は、腸内で過剰なタンパク質が失われる病気で、進行するまで症状が分かりづらいことがあります。原因には免疫系の異常やリンパ管拡張症が関与しており、治療には食事療法や免疫抑制剤が含まれます。

早期の診断と治療が予後を大きく左右するため、異常を感じたら早めに獣医師に相談しましょう。

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