犬の胆泥症と胆嚢粘液嚢腫
犬の胆嚢疾患には、無症状で経過する「胆泥症」と、深刻な病態に進行する可能性がある「胆嚢粘液嚢腫」があります。
この記事では、これらの病気の違いや診断方法、治療方針について、初心者にもわかりやすく解説します。
胆泥症とは?よく見られるが治療不要のケースが多い
胆泥症とは、胆嚢内に泥状の胆汁成分(胆泥)が蓄積する状態を指します。これは犬ではよく見られるもので、多くの場合、特に症状は現れません。
胆泥症はどのように見つかるのか?
胆泥症は、定期健康診断の一環として行われる腹部超音波検査で偶然発見されることがほとんどです。胆泥が胆嚢内に沈殿している様子が超音波画像で確認されます。しかし、胆泥自体が必ずしも異常とは限らず、多くの犬で加齢とともに見られる生理的な変化と考えられています。
治療は必要?
基本的に、胆泥症は治療の必要がないことが多いです。ただし、胆嚢炎や胆嚢粘液嚢腫に進行するリスクがある場合、または粘性が高い胆泥が溜まり胆汁の流れを妨げることで消化不良や肝機能異常を引き起こす場合は、薬物療法(ウルソデオキシコール酸など)が検討されることもあります。
胆嚢粘液嚢腫とは?胆泥症とは異なる深刻な病態
胆嚢粘液嚢腫は、胆泥症とは全く異なる病気です。胆嚢の上皮細胞が異常に粘液を分泌しすぎることで、胆嚢内にゼリー状の物質が蓄積し、胆汁の流れを妨げる状態を指します。
なぜ粘液が異常に溜まるのか?
この病気の原因はまだ完全には解明されていません。
一部の研究では、培養検査では検出することができない細菌が関与している可能性が示唆されていますが、2023年に発表された研究によると、健康な犬と胆嚢粘液嚢腫の犬の胆汁や粘液には、特定の細菌叢が存在するという証拠は見つかりませんでした。そのため、細菌感染が病因として大きな役割を果たしているとは断定できない状況です。
胆嚢粘液嚢腫の危険性
粘液が過剰に蓄積すると、以下のような問題が生じます。
- 胆汁の流れが滞る(胆管閉塞) → 肝機能障害や黄疸の原因になる
- 胆嚢の破裂 → 胆汁が腹腔内に漏れ、胆汁性腹膜炎を引き起こす
胆嚢が破裂すると、緊急手術が必要になり、治療の成功率も低下してしまいます。
また、胆嚢内の胆汁や粘液を培養すると、約13%の症例で大腸菌や腸球菌属などの胆道系病原菌が検出されることが報告されています。感染を伴う場合はさらにリスクが高まるため、慎重な診断と治療が求められます。
胆嚢粘液嚢腫の治療:胆嚢摘出が最善の選択肢
胆嚢粘液嚢腫が診断された場合、胆嚢摘出手術(胆嚢摘出術)が最も推奨される治療法です。
無症状の犬でも手術すべき?
症状がない場合でも、将来的な胆嚢破裂のリスクを考えると、手術を検討するのが理想的です。なぜなら、破裂後の緊急手術では合併症のリスクが高まり、手術成功率が下がるためです。
手術時のポイント
手術中には、胆汁の細菌感染を確認するために細菌培養を行うことが重要です。これは、細菌感染を認めた場合に有効で適切な抗生剤の選択に役立ちます。
まとめ
犬の胆泥症は一般的に無症状で、治療が不要なことが多い一方、胆嚢粘液嚢腫は進行すると胆嚢破裂のリスクがあり、手術が推奨される病気です。定期的な健康診断を行い、胆嚢の状態を早期にチェックすることが、愛犬の健康を守る鍵となります。