犬の門脈シャントとは?
門脈シャントは、肝臓へ流れるはずの血液が異常な血管を通って迂回する病気です。これにより解毒機能が低下し、発育不良や神経症状を引き起こします。犬では先天性と後天性があり、さらに肝内型と肝外型に分類されます。
本記事では、その病態や診断、治療について詳しく解説します。
病態と症状
門脈は腸から吸収された栄養や毒素を肝臓に運び、解毒や代謝を行う重要な血管です。しかし、門脈シャントという病気では異常な血管(シャント血管)が存在し、栄養や毒素を多く含んだ血液が肝臓を通らずに全身の循環へ流れ込んでしまいます。これにより、肝臓の機能が低下し、以下のような症状が現れます。
- 発育不良:栄養が適切に代謝されず、体重が増えにくい
- 神経症状:アンモニアなどの毒素が脳に影響を与え、ぼんやりする、ふらつく、発作を起こす
- 消化器症状:嘔吐や下痢
- 多飲多尿
特に、食後に神経症状が悪化するのが特徴的です。これは、食事で吸収されたアンモニアが肝臓で処理されず、そのまま脳に影響を及ぼすためです。
門脈シャントの分類
門脈シャントは、発生の仕方とシャント血管の位置によって分類されます。
1. 先天性シャントと後天性シャント
- 先天性シャント:生まれつき異常な血管が存在し、若齢期から症状が出る
- 後天性シャント:肝硬変などが原因で発症する。肝硬変のように硬くなった肝臓には血液が流れ込みにくくなり、門脈(流入血管)にかかる圧が上昇する。この圧を逃すために、新たに比較的細い異常血管が複数形成される
2. 肝内シャントと肝外シャント
- 肝内シャント:異常血管が肝臓内にあり、主に大型犬(ラブラドールレトリバーなど)で多い
- 肝外シャント:異常血管が肝臓の外にあり、小型犬(ヨークシャーテリア、マルチーズなど)で多い
特に小型犬では肝外シャント、大型犬では肝内シャントが多いため、犬種によって診断の可能性を考慮することが重要です。
診断方法
門脈シャントを診断するためには、いくつかの検査を組み合わせて評価します。
1.血液検査
- 総胆汁酸(TBA):食後に大幅に上昇することが多い。通常、食前と、食事を少し与えてから2時間後の食後の2回に分けて採血を行う
- アンモニア値:高値を示すことが一般的
2.画像診断
- 超音波検査(エコー):門脈の血流異常や異常血管を評価する
- 造影CT検査:シャント血管の正確な位置や構造を把握するために必要で、エコーで見つけられない血管もほとんどの場合検出が可能
門脈シャントの診断には造影CTが非常に有用であり、手術の適応を決める上でも欠かせません。
また、門脈シャントと似た病気に門脈低形成があります。これは門脈の発育が不十分で肝臓への血流が不足する病気で、症状が似ているため診断が難しいです。確定診断には肝生検(肝臓の組織を採取して調べる)が必要になります。最近では、犬でも腹腔鏡手術による肝生検が可能な施設が増えてきており、開腹手術よりも傷口が小さく、低侵襲で診断ができるようになっています。
治療法
門脈シャントの治療には内科治療と外科手術の2つの選択肢があります。
1. 内科治療
手術が適さない場合や、すぐに手術ができない場合に行われる対症療法です。
- 低タンパク食:アンモニアの産生を抑える
- ラクツロース:シロップの飲み薬で、腸内でのアンモニアの吸収を抑える。飲ませすぎると便がゆるくなるため注意が必要
- 抗生剤:腸内細菌の調整によるアンモニア産生の抑制
内科治療のみで長期間の管理が可能なケースも中にはありますが、根治はできません。
2. 外科手術(根治療法)
門脈シャントの根本的な治療には手術が必要です。
- 徐々にシャント血管を閉塞させるデバイスを使用する術式
- 結紮手術:シャント血管を縛って閉じる術式
ただし、すべての犬が手術適応となるわけではなく、シャントのタイプによっては手術が不要な場合もあるため、慎重な診断と治療計画が必要です。
まとめ
犬の門脈シャントは、肝臓の血流異常によって発育不良や神経症状を引き起こす病気です。小型犬では肝外シャント、大型犬では肝内シャントが多く、診断には血液検査や造影CTが重要です。
根治には手術が必要な場合もありますが、シャントのタイプによっては内科管理が可能なこともあります。適切な診断と治療選択が、犬の健康を守る鍵となります。