犬は「痛み」を感じると攻撃的になる
犬が攻撃的になる要因
毎年犬による咬傷事件が起きており、大きな怪我を伴うものから公にならないような小さな事件も多発しています。
犬が人や他の犬を咬んでしまったり攻撃的になってしまうのにはいくつかの理由があります。
- 元々の犬の生まれ持った性格や犬種の気質によるもの
- 社会化期に十分なしつけや経験がされてこなかった
- 過去に辛い経験をしていて、あるひとつの出来事に対して異常に攻撃的である
- 飼育放棄された
- 体罰を与えられるような過度なトレーニングを継続的に受けていた
- 遺伝的な脳内活動の異常
などが挙げられます。
しかし、これらのどれも当てはまらず、性格や犬種の気質も穏やかで幸せに暮らしていたのに突然攻撃的になってしまうケースもあるのです。
一体どうして穏やかだった愛犬が突然攻撃的になってしまうのでしょうか?
飼い主は知るべき!犬が突然攻撃的になってしまうのには「痛み」が関連していた!
今まで穏やかに暮らしてきた愛犬が突然攻撃的になると、どうしたら良いのかわからなくなってしまいますよね。
小さなお子さん、高齢者がいるお宅やご近所の人に可愛がられてる犬ならばなおのこと信じられないことでしょう。
しかし、この突然の攻撃にはある理由が原因である可能性が高いのです。
それは「痛み」です。
穏やかだった犬がある日突然攻撃的になってしまった時、どの犬にも共通して見られているのが”痛みの部分をかばうような態勢”をとるという行動です。
このことが突然攻撃的になる理由のすべてではありませんが、可能性としては高いかもしれません。
このように「痛み」が原因となっていることを飼い主がしっかり把握してないと咬傷事件に発展しかねませんので、普段から注意深く犬を観察する必要があります。
3分の2が「股関節形成不全」
前述で犬の突発的な攻撃性は「痛み」によるものが原因であることがあるとお話ししましたが、今回その原因を立証するためにスペインのAutonomous University of Barcelona大学の研究者による実験が行われました。
実験内容
大学の動物病院に来院する犬種の違う犬12頭にアンケート調査しました。
アンケート調査内容は以下の通りです。
- 攻撃的になる前や後の出来事
- 攻撃中の姿勢
- 犬がどこか痛がる前の攻撃的な行動
原因は股関節形成不全症
これらを元に犬の問題行動を分析した結果、あることがわかりました。
それは「犬種の違う12頭の犬すべてに”痛みが原因の攻撃性”が出現する」ということが分かったのです。そしてなんと12頭のうちの8頭が「股関節形成不全症」だという診断が下されたのです。
これだけの犬が痛みを抱えて尚且つ3分の2が股関節形成不全症であったということは驚くべき結果ですね。現代の犬が抱える実情が浮き彫りになったとも言えます。
さらに、こんなこともアンケート調査結果から判明しました。
犬が痛みを抱える前から攻撃的になっていた犬は痛み出した後も攻撃性を見せること、その間食餌を取り上げたり休んでいるところを邪魔した場合でも変化はないものの、攻撃性の頻度や強度は増していることが分かりました。
また、痛みが出る前には攻撃性を見せなかった犬の場合は痛みが出だしてから突発的に攻撃行動をとったという結果が出ています。これは恐怖や怒りを感じた時などの威嚇行動のように初めは唸って相手に「近づくな」というシグナルを出すというものではなく、いきなり攻撃的になるという行動を起こしているのです。
そして痛むことにより防御する態勢をとっている犬が多く見られました。
この研究結果から犬の突発的な攻撃性は「痛み」による苦痛が関連しているということ、また股関節形成不全症を発症している犬が多くいて、それにより犬の攻撃性を生んでいることが原因であることが判明しました。
そして、それらの犬が攻撃性を出現させる時期は痛みが出始めた頃とその後に起こること、つまり痛みが最高潮の時に攻撃性が一番出るのではなく、痛みがまだ僅かな時に攻撃性を見せているというのが分かったのです。
愛犬が攻撃的になった理由が分からなければ…
突然の犬の攻撃性行動は確かに人からすれば「問題行動」であり、「危険な行動」ということになってしまいます。
しかし、このような突発的な攻撃性を見せてしまうのには犬が痛みを抱えているということ、そして股関節形成不全症などの病気を患っていることにより大きな苦痛を感じてしまっているということが隠されているのです。
股関節不全症をはじめとして、痛みがいつから犬の身に起こっているのか、いつからこの疾患を患ってしまっているのか見極め判断するのは容易なことではありません。しかし、それにいち早く気づいてあげれるのは飼い主しかいないのです。
飼い主が気づかぬうちに犬の痛みや苦痛は進行し、いつの間にか痛みを我慢させてしまっている可能性もあります。
人もそうですが、肉体の痛みと苦痛は精神とは絶対に切り離すことができないものです。
この肉体の痛みや苦痛、精神の苦痛をどれだけ早くどれだけより理解して取り除いてやれるかが重要であり、犬の突発的な攻撃性を軽減できる手立てであることは言うまでもありませんね。
犬と暮らすということはただ可愛がればいいのではなく、これらのことにも気を配り、配慮してあげなければならないのです。
それが犬を”最後まで飼う”という責任です。
まとめ
今回の研究結果は「なるほどな」とただ思うような内容ではなく、私たち犬オーナーが重く受け止めなければならない、とても深刻な問題と言えるものではないでしょうか。
もしも愛犬が股関節形成不全症などの痛みを伴う疾患を抱えているのにも関わらず、飼い主がそれにずっと気づかずにいたとしたらどんな咬傷事件が起こり得るか分かりません。実際このような疾患を抱えている犬が道行く人に突発的な攻撃行動をとったことにより咬みつかれたということもあるのです。それが小さな子供や高齢者だったとしたら……。あなたはその責任を取ることができますか?
攻撃してしまったのはもちろん犬ですが、ここまで放って置いて気づかずにいたのは誰なのか・・・それは紛れもなく飼い主なのです。
この研究結果は私たち犬オーナーがいかに犬の日常を観察し把握することが大事なのかを教えてくれたものではないでしょうか。
股関節形成不全症は進行性のある疾患であり、早期発見が重要であるものですが、それに気づけるのは容易なことではありません。大変な日々の努力と犬との触れ合いの時間が必要となってきますし、それを発見できるだけの知識も必要です。
大変なこととは思いますが、先程も申し上げた通り気づいてあげれるのは飼い主であるあなただけなのです。犬と人との関係を良好に保つのは飼い主であるあなた次第と言っても過言ではありません。
そして犬を守ってやれるのも飼い主しかいないのです。
今回は突然攻撃性が出るようになった犬の中には痛みが原因であるケースがあるということを取り上げましたが、すべての犬の攻撃性の原因がいつも痛みだというわけではありません。いつもと様子が違う、おかしいなと思った場合には動物病院で獣医師の診察を受けるようにしてください。