大型犬に多い股関節形成不全と遺伝的要因
犬の股関節形成不全は大型犬や超大型犬に多く見られる疾患のひとつです。発育の段階で股関節に形態的な異常が起こった状態です。関節がうまくかみ合わなくなるため、動きがぎこちなくなったり、痛みや炎症を伴うことも少なくありません。
原因には遺伝的要因と環境的要因があると言われていますが、遺伝的な要因については多くの研究が行われているにも関わらず、明らかになっていない部分が多い状態です。
この度、ペットの遺伝子検査を実施しているアメリカの会社とフィンランドのヘルシンキ大学の獣医生物科学の研究チームが共同で行った、犬の股関節形成不全に関連する遺伝的リスク検証の結果が発表されました。
ヘルシンキ大学の同じ研究者は以前にジャーマンシェパードの股関節形成不全の遺伝子についての研究を発表しています。
股関節形成不全に関連する遺伝子の検証
股関節形成不全に関連する遺伝子の特定は未だできていませんが、遺伝子領域や遺伝子座(染色体やゲノム上での遺伝子の位置)は判って来ています。
しかし過去の研究ではサンプルサイズが十分でないなどの理由で、研究結果の検証が困難でした。
今回の共同研究にはペットの遺伝子検査を請け負う会社が携わっているため、様々な犬種にまたがる豊富な遺伝子サンプルを調査することができます。
ヘルシンキ大学と遺伝子検査の会社ウィズダムヘルスジェティクスの研究チームは、10犬種に渡る1607頭の観察集団の46の遺伝子マーカーを調査しました。
以前の研究によって特定された、犬の股関節形成不全に関連する14の染色体に渡る20以上の遺伝子領域が検証されました。その結果、20の遺伝子座が特定の犬種の同疾患に関連付けられ、1つの遺伝子座が10犬種全てに関連付けられました。
単独ではない複雑な遺伝的要因
上記検証の結果は、犬の股関節形成不全には複数の遺伝子座が関連していることを示しています。つまり同疾患には多くの遺伝子が関与しており、それらの遺伝子は犬種によって異なるということも示されています。
今回検証された遺伝子座をさらに調査して、疾患の原因となる遺伝子と変異体を特定することが重要であると研究者は述べています。これらが特定されることで科学者や獣医師の疾患への理解を助け、予防、診断、治療のより良い選択肢を導き出すことが期待されます。
まとめ
ペット遺伝子検査の企業と大学の共同研究によって可能になった広範囲な遺伝データの検証から、犬の股関節形成不全に関連する遺伝子は犬種に特有のものと犬種間に共通のものがあることが判ったという研究結果をご紹介しました。
遺伝子の研究というと一般の飼い主には難しくて分からないという印象がありますが、股関節形成不全という非常に一般的な疾患が遺伝的な要因から来るということは知っておきたい情報です。
この疾患を発症している犬を繁殖に使わないことで、遺伝的な要因を減少させていくことができるということです。ブリーダーが犬の疾患情報を把握して繁殖に使う個体を決めることの重要性、そのようなことができない繁殖業者や素人繁殖がいけない理由を一般の飼い主が広く理解することも、疾患に苦しむ犬を減らしていくために大切なことです。
《参考URL》
https://www.businesswire.com/news/home/20210209005384/en
https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-021-07375-x#Ack1