もしも愛犬から拒絶されたら?
現代社会の人間関係は以前に比べると「拒絶」ということがずっとカジュアルになった感じがします。
SNSや携帯電話の機能を使って拒絶したい人をブロックすることは目の前にいる人を拒絶するよりもずっと簡単です。とは言ってもブロックされた方は気分を害したり傷ついたりするでしょう。ましてや面と向かって拒絶されたりしたら、相手に対して否定や攻撃の感情が生まれることもあり得ます。
では拒絶がペットの愛犬からだった場合はどうでしょうか(想像しただけで辛くなるような仮定ですね)
アメリカのボールドウィン・ウォレス大学の心理学者がこの件について、興味深い研究を発表しました。
犬から拒絶されたと感じるための実験
研究者は人々が犬から拒絶されたと感じた気持ちを作り出すために、ある実験をデザインしました。
「犬と交流する機会がある実験の参加者」として88人の学生を募集しました。集まった学生たちは「犬にあらかじめあなた方の匂いに馴染んでおいてもらうため着用した衣類を持ってきてください」と言われていました。また学生たちは2つのグループに分けられていました。
1つ目のグループが集まったところで、実験者は学生の衣服を持って犬のところに行くと言って部屋を出ました。しばらくして戻った時に「申し訳ないけれど実験はできなくなりました」と告げます。その理由として学生たちにビデオを見せます。
ビデオに映っているのは本当は事前に録画して作っておいた映像なのですが、学生たちの衣類が入ったバッグを犬が嫌がり近寄って来ないというものです。犬が匂いの持ち主たちを拒絶したというシナリオを作ったわけですね。
2つ目のグループでも同じように衣類の入ったバッグを持って実験者が部屋を出た後に戻って来るのですが、その時の台詞が「実験に参加する犬と飼い主の急用で実験ができなくなりました。けれど犬はあなたたちの匂いを気に入っていたようでした」と告げ、やはりあらかじめ録画してあったビデオを見せます。ビデオにはバッグの匂いを熱心に嗅ぎ尻尾を振る犬が映っています。
2つのグループの学生たちに、実験が出来なくなったと言われた時の感情を、心理学のアンケートを使って答えてもらいました。
この擬似的な犬からの拒絶は確実に実験参加者の心理状態に影響を及ぼしました。
拒絶された学生たちは否定的な感情が強くなり、現状に対する満足度が低下したということです。しかし犬に対して攻撃的な気持ちが増加するというようなことはありませんでした。
この実験とは別に246人を対象にしたオンラインアンケート調査も実施されました。この調査ではペットから拒絶された経験または人間から拒絶された経験について詳細を書いてもらい、それぞれの心理状態の比較分析が行われました。
犬と暮らすことは利点ばかりではないという視点
研究者は、ペットを飼うことは心理的にも身体的にも健康を改善すると示唆する研究は数多くあるが、この実験で示されているようにペットとの関係が心理的な状態を悪くする可能性もあることを指摘しています。
しかし人間から拒絶された場合には相手に対して攻撃的な感情が増加するのに対して、ペットからの拒絶では攻撃性は増加していませんでした。
ペットからの拒絶で心理状態が悪化するということは、ペットの存在がそれだけ社会的に重要な意味があることを示していると研究者は指摘しています。
まとめ
人はペットから拒絶されたと感じると心理状態が悪化すること、しかし人間からの拒絶と違って相手に対する攻撃性は増加しないという研究結果をご紹介しました。
確かに犬をはじめとしてペットとの暮らしは楽しいことばかりではなくて、時に腹立たしかったり辛かったりという感情も起きるものです。
一見当たり前のことですが、このようにリサーチとして明確にすることで社会全体の認識に影響することを期待したいと思います。
《参考URL》
https://guilfordjournals.com/doi/abs/10.1521/jscp.2020.39.6.498