犬のストレスを軽減すると言われる犬用フェロモン
留守番や来客時、大きな音への恐怖など、犬が感じるストレスへの対策として販売されている犬用フェロモン(DAP)の製品があります。産後の母犬から出るフェロモンを人工的に合成した物質で、スプレータイプやディフューザータイプ、首輪タイプなどがあります。
DAPは、子犬に快適で安全だと感じさせる効果を持つそうです。日本ではDAPの製品は発売されていないのですが、多くの国で広く販売されているDAP製品で、飼い主が不在の時の犬の分離不安が軽減されるかどうかのリサーチがイギリスのハートプリー大学などの研究者によって行われ、その結果が発表されました。
ディフューザータイプの製品で効果を検証
この研究ではディフューザータイプのDAP製品が使用されました。コンセントに挿したディフューザー(拡散器)から芳香剤のように室内に成分が漂うように設計された製品です。
リサーチに参加したのは10匹の飼い犬とその飼い主です。実験は全て実験室で行われました。フェロモンを使用した場合と使用しなかった場合、飼い主が一緒にいた場合と飼い主が不在の場合の全ての組み合わせで、犬のストレス反応と精神状態を表す項目が測定されました。
犬のストレス反応としては、吠え、引っ掻き、キュンキュン鳴く、起こっている出来事に対して状況を見極めようとする行動、探索行動などをビデオで記録し観察しました。
犬の精神状態を表す項目としては、心拍数、眼の温度、耳介の温度が記録されました。過去の研究で、犬はストレス下にある時に眼の深部の温度が上昇することが示されています。また別の研究で、孤りで過ごさせることが犬にとってストレスとなり、犬の耳介の温度を低下させることが示されています。
フェロモン有りの時、フェロモン無しの時、その差は?
フェロモン製品が有りと無しの時、それぞれの行動や生理学的な反応を比べるといくつかの注目すべき点がありました。
- フェロモンが有っても無くても、飼い主がいないと状況を見極めようとする行動が大幅に増加した(フェロモンの影響で状況を見極めようとする行動が増えることはなかったと考えられる)
- フェロモン無しで飼い主が不在になると眼の温度が上昇した
- フェロモン有りの状態の後に飼い主が一緒にいても、眼の温度は上昇した(眼の温度に影響しているのは飼い主と一緒にいるかどうかと犬の精神活動レベルであって、フェロモンが眼の温度に影響を与えているのではないと考えられる)
- 心拍数と耳介の温度には、フェロモンの影響は見られなかった
上記の4点に加えて他の記録も総合的に検証した結果、飼い主が不在になるという犬のストレスに対するDAP製品の効果は、今回測定した項目からは見られなかったということです。
まとめ
DAP(犬のフェロモン)製品が飼い主不在時のストレスを軽減するかどうか検証したところ、今回測定した項目では効果が見られなかったという研究結果をご紹介しました。
フェロモンを使った製品については、同じ2000年にイギリスのリンカーン大学の動物行動学者が、同じ家庭内で犬と猫が平和的に共存するためにディフューザータイプのフェロモン製品(犬用、猫用)に効果があったという研究結果を発表しています。
犬と猫が仲良く暮らすための鍵はフェロモンにあった【研究結果】
また、雷の音を聞かせる実験において犬用フェロモン製品の効果が見られたという研究や、花火を怖がる犬に対して自宅でフェロモン製品を使ってみたところ明らかな効果が見られたというリサーチ結果もあります。
今回紹介した研究では、飼い主の不在というストレスをフェロモンが軽減してくれるというデータは示されませんでしたが、分離不安や大きな音を怖がる場合にはフェロモン製品も問題を解決するための選択肢の一つとなるのではないでしょうか。もちろんフェロモン製品を使うこと以外にもとるべき対策はありますし、フェロモン製品に対しても過度に期待してはいけないでしょう。しかし適切に使ってフェロモン製品の効果が見られれば、犬も人も幸福度がアップすると言えそうです。
《紹介した論文》
Sienna Taylor, Lucy Webb, V. Tamara Montrose, Jane Williams. The behavioral and physiological effects of dog appeasing pheromone on canine behavior during separation from the owner. Journal of Veterinary Behavior. Volume 40. 2020. Pages 36-42.
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2020.08.001
雷の音を聞かせる実験でDAP製品の効果が見られたという論文
Landsberg, G. M., Beck, A., Lopez, A., Deniaud, M., Araujo, J. A., & Milgram, N. W. (2015). Dog-appeasing pheromone collars reduce sound-induced fear and anxiety in beagle dogs: a placebo-controlled study. The Veterinary record, 177(10), 260.
https://doi.org/10.1136/vr.152.14.432
DAP製品の効果については様々な論文が出ていて、今回紹介されている論文のように効果は見られなかったとする論文も、逆に効果が認められたとする論文もあります。例えば、雷や花火の音以外にも、授乳期の母犬のストレス軽減や入院中の犬の不安の軽減、保護施設での犬の恐怖心の軽減などに効果があったと報告している論文があります。
これらの研究で使われているDAP製品は日本では発売されていません(個人輸入をして使っている方はいるようです)。また、犬と猫が仲良く暮らすための鍵はフェロモンにあった【研究結果】の研究で使われている猫用フェロモン製品も、日本でビルバックより発売されているフェリウェイとは別の製品です(イギリスではFeliway Friends、アメリカではFeliway Multicat)。日本で販売されているフェリウェイは、イギリスやアメリカではFeliway Classic(フェリウェイ クラシック)として販売されています。