心的外傷後ストレス障害と介助犬
心的外傷後ストレス障害、英語の頭文字を取ってPTSDと呼ばれることもあり、耳にしたことがあるという方も多いかと思います。
強いストレスを感じる出来事を体験したり目撃した後に、恐怖感や悪夢、フラッシュバック、頭痛やめまいなどの症状が長期に渡って続き、社会生活に支障を来すような状態を指します。自然災害、犯罪被害、事故などの経験が原因になっていることが多いものです。
アメリカではPTSDの代表的な患者は戦地から帰ってきた退役軍人で、彼らの日常生活を助けるための介助犬の訓練も幅広く行われています。
この度アメリカのパーデュー大学獣医学部が主導する研究で、PTSD を抱えた人にとって最も役立ち、最も頻繁に実行される介助犬のタスクは何であるのかが調査され、その結果が発表されました。
介助犬のタスクとは
目の不自由な方を助ける盲導犬や、車椅子の方を助ける介助犬と違って、身体的なハンディキャップは無いPTSD患者を助ける介助犬の仕事とは何なのでしょうか?
よく誤解されがちなのは、ただ側にいて気持ちを癒すのが仕事なのでは?というものですが、それでは介助犬ではなく普通のペットと変わりません。
介助犬が訓練を受けるタスクの1つに、介助を受けるハンドラーが精神的な苦痛や不安を経験した時にその様子を察知して、ハンドラーの気持ちを苦痛や不安の対象から逸らすために鼻先でつつく、お手をする、舐めるなどの行動を起こすというものがあります。
またハンドラーが睡眠中に悪夢にうなされている時には、それに気づいて起こしに行くことも訓練されているそうです。
PTSD介助犬のタスクで最も利用されているものは?
この度の研究は、次のことを調べるため行われました。
- 介助犬の行動のうち、訓練行動と非訓練行動の重要性、使用方法
- PTSDの重症度、介助犬の使用期間、ハンドラーと犬の関係が影響するか
調査に参加したのは911後のPTSD症状のある退役軍人217人で、アンケート形式で回答が集められました。
最も多くの人がPTSDにとって最も重要で一番頻繁に使用されると答えたタスクは、苦痛や不安を感じた時に犬が察知して気持ちを逸らしに来てくれるというものでした。このタスクは平均して1日に約3回使用されていました。
他にも訓練による介助犬の行動は全てがPTSDの症状に効果があると認識されていました。一方、訓練されたのではない介助犬の自然な行動はPTSDにとってより重要であると多くの人が評価していました。
興味深いことに、介助犬との関係がより親密であると答えたハンドラーは訓練されたタスクをより頻繁に使用し、介助犬の使用歴が長いハンドラーは訓練されたタスクをあまり使用していませんでした。介助犬の訓練されたタスクは記憶喪失、危険行動などの症状には効果を示しませんでした。
これらの結果は、介助犬は単独でPTSDの治療法となるものではないことを示していますが、エビデンスに基づく他の治療方法の補完的役割を果たすことができると、介助犬の臨床的な価値を示唆しています。
まとめ
介助犬のタスクに関して、最も頻繁に使用されるもの、ハンドラーが感じていること、治療方法としての可能性などを調査した研究についてご紹介しました。
日本ではまだPTSDの介助犬というのは一般的ではありませんが、働く犬の可能性の大きさを感じさせますね。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01638/full