犬はどうやって人間の言葉を理解するのか?
犬と日常的に関わっている人であれば、犬が私たち人間の言葉を理解するということを実感することが多いと思います。「おすわり」「待て」「おいで」などの言葉に従って行動することは多いと思いますし、教えていなくても「散歩に行くよ」「ご飯だよ」などの言葉に喜んで反応する犬も多いでしょう。
こうした犬の様子を見ると、理屈や実証など関係なく犬は人間の言葉を理解すると感じますよね。実際、様々な実験・検証から犬には2~3歳の幼児程度の知能があると考えられるようになっており、多いと200程度の言葉を覚えることもあるとされています。
犬が元々人間の言語を理解しているわけではなく、しつけや日々繰り返される生活、コミュニケーションの中で積み重ねられる経験から学習していきます。言葉の後にそれを意味する物・事が提示されることで、言葉の意味を理解して覚えるのです。
研究①犬の脳は言葉にも口調にも反応
言語理解に関する研究の中で、犬は言葉そのものだけでなく人間が話すときの口調やイントネーションにも反応しているということが明らかになりました。2016年に学術誌「サイエンス」に掲載された研究で、犬も人間と似た方法で情報を処理しているということが紹介されたのです。
研究を主導したのはハンガリーにあるエトベシュ・ロラーンド大学の動物行動学者、アッティラ・アンディクス氏。犬が好きで、哺乳類の脳が言語処理する方法を解明するために犬の研究を始めました。この研究では機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて犬の脳の変化を確認するため、装置の中で犬が動かないように何か月もかけてしつけを行い、実験の基準に達したボーダーコリーやゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパードなどを参加させることになりました。
これらの犬に対して、それぞれの飼い主が内容や言い方を変えて発した言葉を録音で聞かせ、脳の反応を確認。「ほめ言葉を賞賛の口調で」「中立的な言葉を中立的な口調で」「ほめ言葉を中立的な口調で」「中立的な言葉を賞賛の口調で」という4パターンを行い、その結果犬の脳画像では左半球が単語そのものに、右半球がイントネーションに反応しているということが示されました。
さらに、報酬の受容や期待に関係する領域が活発化するためには、「ほめ言葉を賞賛の口調で」聞く必要があり、単語の意味でだけでなく感情を伴ったほめ言葉でなければ喜ばないということもわかったのです。
研究②犬が単語で意思表示することに成功
犬が言葉を理解するということを、別の形で明らかにした研究もあります。アメリカ・カルフォルニア州在住の音声言語病理学者のクリスティーナ・ハンガー氏は、日頃小さな子供に言葉を教えるのと同様に犬にも人間の言語を教える訓練を行いました。
実験には「Good」「Want」などのシールが貼られた多数のボタンが備え付けられている装置を使用。ボタンを押すことでインプットされている言葉が発せられるようになっています。ハンガー氏の愛犬は幼い頃から人間の言葉を教えたことで、それぞれの意味と装置の仕組みを理解し、状況に合ったボタンを押すことができるようになりました。
そして、この装置を通して自らの意思を言語で表現することが可能になったのです。29種類の単語の意味を理解して扱えるようになり、5個の単語を組み合わせた文章を作成することもできるようになりました。これにより、犬と人間が共通の言語でコミュニケーションを取ることができるということが実証されたのです。
まとめ
犬が私たちの言葉を理解しているということは、多くの人が実感していることであり、世界各国の様々な研究でも明らかにされていることです。また、人間の言葉を理解するためには、犬が自ら「知りたい」と思う気持ちがなければならないということも考えられていることも非常に興味深いことです。
人間の言葉をしっかりと聞き取り、それに伴う物事を覚えることで学習を繰り返して理解を深めます。これは犬が人間に対して関心を持っていなければ不可能なこと。「理解したい」と思って接してくれる犬たちの気持ちに応えるためにも、私たち人間も犬がボディランゲージなどで発する感情や意思を読み取ってあげる努力をして、よりお互いへの理解を深めていきたいものです。