犬の寿命に影響する様々な要因
犬と暮らしている人にとって、愛犬の寿命は常に気になるトピックですね。犬の平均寿命は犬種によって変わりますが、10〜15歳、全犬種を平均すると13歳くらいというのが一般的です。
犬の寿命に影響する要因は、サイズ(一般的にサイズが大きい犬の方が平均寿命が短い)、犬種、生活環境などがありますが、遺伝的な要因が大きいこともわかっています。時折見聞きする20年を超えて長生きする犬は、平均的な寿命の犬とは具体的にどんな点が違うのでしょうか?
DNA配列研究対象の超長生きの犬2匹
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者は、飛び抜けて長寿の2匹の犬のDNAを完全配列決定し、長寿の要因となる遺伝的な特徴を探る研究をしています。このたびその予備的な研究結果が発表されました。
遺伝子配列の研究対象となった犬は、22歳のメスの雑種犬(避妊手術済み、体重16〜18kg)のケドヴェスと、27歳のオスの雑種犬(未去勢、体重13〜14kg)のブクシです。2匹の犬が住んでいる地域は180km離れているので、地域的な特性は共通していません。
どちらの犬も自然の多い田舎に住んでおり、放し飼いのような自由な環境で飼われています。そのため、どちらの犬も与えられる食事の他にネズミなどを獲物として捕らえ食べています。
どちらの犬も定期的に狂犬病のワクチン接種をしており、分析のためのサンプルを採取したときの健康状態は良好でした。22歳のケドヴェスは市販のドッグフードを与えられています。飼い主はアニマルシェルターの管理者で、ケドヴェスは飼い主の職場にも行くため、多くの人間や犬とのコンタクトがあります。
27歳のブクシは生涯を通じて生の鶏肉と人間の食事の残り物を与えられています。ブクシは乗馬センターで飼われているためセンターを訪れる多くの人間とのコンタクトがあります。また近隣の農場の他の犬との交流も多く持っています。
この2匹のDNA配列からどのようなことが分かったのでしょうか。
平均寿命の犬との違いとは?
ケドヴェスとブクシの遺伝子を分析することで、犬の寿命に関連している可能性のある変異を検出し特定しました。これらの遺伝子は、遺伝子の転写と翻訳、免疫応答、神経系に関連していました。
遺伝子の転写というのは、生き物の体が成長して自分自身を修復するときに新しい細胞に遺伝物質を転写することです。転写を繰り返すうちに精度が低くなってくると、新しい細胞の機能が悪くなり(つまり老化する)寿命が短くなる可能性があります。
研究チームは今回の研究から、飛び抜けた長寿と遺伝子の転写及び翻訳の間に関連があると仮説を立てています。全く関係のない2匹の長寿犬の両方から検出された遺伝子の変異は、比較対象となった850匹の犬のデータベースからは見つかりませんでした。この変異は、今後の加齢や寿命に関連する研究のターゲットになる可能性があります。
まとめ
2匹の飛び抜けて長生きの犬のDNA配列を分析した結果、平均寿命の犬では発見されなかった遺伝子の変異が共通して発見されたという研究結果をご紹介しました。この研究はまだ予備的なもので、今後この遺伝子の変異をターゲットとして犬の寿命や加齢に関するさらに深い研究が行われていく予定です。
研究はどうすれば愛犬の寿命を長くすることができるかには言及していませんが、さらに研究が進んでいけば長寿犬を多く輩出するブリーディングなどに生かされていくかもしれません。また、人間の寿命の理解にも応用されていくと考えられます。今後の「長寿遺伝子の研究」に引き続き注目したいと思います。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fgene.2020.00315/full