はじめに
僕は訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリスト。
犬のしつけはもちろん、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※1)や、飼い主さんに犬の本質や知識と愛犬との関わり方をレクチャーするお仕事をしています。
愛犬家のお悩みには色々なものがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、様々なご依頼を賜ります。
その中から特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
あなたの、幸せなドッグライフのヒントになりますように。
※1:サイコロジーリハビリテーションとは
犬が本来持つ、穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと。
ドーベルマンコンビボブ&ロブ+気弱な飼い主さん
僕は、飼い主さんが悩むことが何より犬を混乱させてしまうと考えます。
もともとの性格もあるでしょうが、犬のしつけがうまく行かず、自信をなくされた飼い主の方もいらっしゃいます。
今回は、ちょっと気弱な飼い主と、勇敢なドーベルマンコンビのお話。
いつものように、一本の電話からお話は始まります。
「はい!もしもし♪」
「すみません。わんぱぱさんよろしいですか?」
(元気のない声だなぁ)
「はい!どうかしましたか?」
「もう、どうして良いか判らないんです~。助けて下さぃ…」
電話の相手は、今にも泣きそうな声で、そう訴えてきました。
「犬は私の言う事聞いてくれないし、トレーナーの先生には怒られてばかり。もう苦痛なんですぅ(涙)」
「犬種は?」
「ドーベルマン2匹です」
「おー!良いですねぇ~♪」
「良いことありませんよ!!」
(えっ?怒られた?!)その後も延々と愚痴が出ます。
「、、、それは本当にお困りですねぇ。明日にでもお伺いしますので詳しい事はその時にお聞きしますね。ワンコの様子も拝見したいので」
僕がそう言うと、飼い主さんは少し落ち着いたのか、「分かりました。よろしくお願い致します」と言って、電話を終えました。
僕はこんな電話のやり取りの中でも、飼い主さんの性格分析をしています。
『これはかなり、あれこれやり過ぎのパターンだなぁ。それに飼い主さんが心配性でやや神経質。犬が嫌うエネルギーだ。ましてやドーベルマンとなると余計に…。こりゃ先に飼い主さんをなんとかしないと』率直にそう思いました。
そして翌日ご自宅にお伺いし、すぐにカウンセリングの開始です。
迎えてくれたのは、虚ろな表情の小柄な女性でした。
ガレージにクレートを設置し、半室内飼いのボブとロブのドーベルマン男子コンビを飼われています。
ボブは推定年齢6歳の保護犬で、過去に小型犬数匹に大怪我をさせた経歴があり、今は落ち着いてはいるが上目づかいで相手を観察する老獪な雰囲気。
ロブは2歳で、まだ無邪気さが残る青年犬。もともと飼っていた知人がギブアッブしたために譲り受けたとのことでした。
飼い主さんも犬の飼育歴は有りましたが、大型犬は初めてだったそうです。
しつけ本を読み漁り、ご近所のトレーナーさんにもお願いしていたらしいのですが、そのトレーナーさんがとても飼い主さんに厳しい方だったらしく、口を開けば、
「ドーベルマンを飼っているのだから、、、」
と難しい事ばかり求め、飼い主さんのやる事なす事全部にダメ出しするらしいのです。
そんな毎日の中で、自信を無くしてしまったのでしょう、
「解りました。今この瞬間から全て忘れて下さい。リセットしましょう。あなたの考えや違和感は間違っていません。あなたの思うようにやりましょう。僕がサポートしますから!」
と言うと、少しですが飼い主さんの目に輝きが戻ってきました。
カウンセリングサマリー | |
症状 |
犬が人を軽視する。小動物に過剰反応する。飼い主さんが自信喪失。 |
原因 |
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対策 |
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さぁレスキューです!
僕はどんなケースでも先ず、レッスンの初回に飼い主さんと犬の散歩状況を離れて観察させて頂きます。
それによって、犬と飼い主さんとのベーシックトラストが如実に表れるからです。
「では始めましょうか!いつものルーティーンで散歩に出て下さい。僕がいる事は忘れて下さいね♪」
外に出て、ボブとロブと飼い主さんの後方からついて行きます。
飼い主さんは右手にボブのリード、左手にロブのリードを持ち緊張し背中が丸まり肩に力が入り、腕にも力みが見られました。
その緊張エネルギーのせいでペースも乱れハンドリングもぎこちない。
そうこうしているとタイミング良く前方から小型犬が歩いて来ました。
これは、ボブの反応を見るチャンスです。
『さぁどうする、ボブ?』
僕が目を凝らして見ていると、飼い主さんは慌てた様子でリードを引きます。
ボブは立ち止まり前のめりで「キューン!キューン!」と甲高く鼻鳴きしだします。
まさに一触即発!
『なるほど。これはヤバイな!』
僕は飼い主さんに駆け寄り、「お疲れでした。僕が変わりましょう。後ろに付いて見ていて下さい」と、リードを預り歩き始めました。
先ほどボブが鼻鳴きしたのは、狩猟を開始する合図だったのです。
相手に危害を及ぼす恐れがあった為、ハンドリングを変わりました。
こういう場合、犬が騒ぎだし慌てて回避する飼い主さんが多いですね。
それは人間側の解決策であって、犬には何の解決にもなっていない、逆にストレスを与えているだけなんです。
正解は、その場でオスワリさせて、相手が通り過ぎるまで待つ事を教える。
それが犬同士の礼儀であり、自信ある犬の行動なのです。
これはある意味、飼い主さんの方が試練かもしれませんが、そこは冷静に、「それはお行儀が悪い!座って相手に譲ってあげようね」と教える方が、犬も納得してくれるんです。
僕はボブとロブを抑え、歩道の脇に待機します。
「こんにちは。どうぞ♪」と小型犬を通過させ、そのまま何事も無かったかのように歩き出します。
「このまま暫く歩きますから見てて下さい。」そう告げてお散歩を続行です。
ボブとロブは順調に歩を進め、ペースが掴めた頃「変わりましょう♪」と飼い主さんにリードをお返ししました。
ここから二人で世間話をしながら30分程歩いたでしょうか。
「どうですか?ご気分は?」
「えっ?なんか楽しいですね♪」
「それは良かった♪」
「ボブもロブも凄くリラックスしてるでしょ♪」
「そう言えば、ここまですんなり歩いてくれましたね♪」
「あなたがリラックスしているからですよ♪」
そうなんです。他愛もない話で飼い主さんをリラックスさせる事で、その気持ちが犬にも伝わるのです。
僕が飼い主さんにお願いした事
今後の事について飼い主さんとお話ししました。
「あなたの理想とするドッグライフを想い描いて、チャレンジして下さい。型に囚われてはダメです。そして犬から感じる事を信じる事。後は活動欲求を満たす様、”体力の発散”、”ルールの順守”、”愛情を注ぐ”、の順序で接してあげてることで信頼関係は改善されます。自信を持って実践です!」
その後、月2回のレッスンにお伺いし、今ではすっかり自信を取り戻され、ドーベルマン2匹を両脇に従え、颯爽と散歩する姿はカッコいい~ですよ♪
それにトレッドミルを購入され、毎日室内で2匹の体力発散も行っておられます。
すっかりリーダーの風格をまとっておられました。
散歩をするその後ろ姿は、あの堂々たるドーベルマンコンビが、ミニチュアピンシャーに見えたとか見えなかったとか♪
最後に
人が犬を「こいつはダメだ」と見限る事はご存知だと思いますが、犬も人を見限る事があります。
しかし、飼われた犬には何の選択肢も決定権もないので、ストレスを抱えたまま不安な毎日を過ごし、そして犬も人も苦しむのです。
だから忌わしい「処分」という言葉が今も使われるのでしょうね。
世の愛犬家が自信を持って、穏やかに毅然とした態度で犬と暮らせれば、そんな言葉を使う必要が無くなると僕は信じます。
微力ながら、一人でも幸せな飼い主さんを、一匹でも幸せな犬を増やすために頑張りますよ!
わんぱぱ 《今日の格言》
あなたの愛犬の、最良のトレーナーは誰だと思います?そうです!あなたです。
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ドーベルマンの性格について