犬にとっての仰向け姿勢の意味
犬は人間のように言葉を話せない分、たくさんのボディランゲージを利用して仲間とコミュニケーションをとります。耳や尻尾を立てたり伏せたりする感情表現もあれば、一瞬鼻をなめる、ふいっと目線をそらす、あくびをするなどといった、一見わかりにくいボディランゲージも駆使して他者へ自分の気持ちを表現するのです。
敵意がないサイン
その中でも犬同士の関係を円滑に保つために重要視されているのが、敵意がないことを示すポーズです。視線を逸らしたり、姿勢を低くしたりするのは、犬同士で「あなたに敵意はないので攻撃しないでください」という状態であるといわれています。
中でもひっくり返っておなかを見せるポーズは無防備極まりないポーズで、無条件降伏のような状態となります。なにせ腹部という極めて柔らかく弱い部分をさらすわけですから、犬にとってこのポーズはよほどのことがなければ、したくないポーズでしょう。
リラックスしている
人に飼われている犬の場合、信頼している飼い主さんの前ではだらりと仰向けになることがありますが、これは服従というよりリラックスした状態を表します。子犬などは特にリラックスしすぎておなかを丸出しにした「へそ天」状態で寝てしまうこともありますね。これは警戒心を解いてとても安心して熟睡している、信頼の証でもあります。
しかし、信頼関係がない人の前だったり、警戒心が強かったりして、決しておなかを上にしたがらない子もいます。自分が信用できない限り弱みは見せない、ということなのでしょう。
仰向けにするしつけ
一部のしつけ教室などで行われているパピークラスでは、子犬のうちから仰向けに転がしておとなしくさせるというトレーニングをします。人間が足を延ばした長座の姿勢になり、少し開いた足の間に犬を挟んで仰向けのポーズにするのです。
このとき、犬の頭は人間のおなか側になります。犬は人の足の間にすっぽりはまり、身動きができなくなるのでそのままじっとしていられたら、たくさんほめながらおなかや手足を自由に触らせるように待たせるしつけです。
パピークラスで行われているため、対象は1歳未満の子犬であることが多く、よほど警戒心の強い子でなければ比較的簡単にひっくり返しておとなしくさせることができます。もし暴れたり抵抗しようとしたりした場合、マテなどの指示とともに手足を使って起き上がるのを防いで、おとなしくさせます。万が一かみつこうと暴れた場合は、マズルをつかんでマテの指示などでおとなしくさせます。
仰向けのポーズのトレーニングをする意味
この仰向けのポーズのトレーニングは、犬に主従関係を認めさせて「人に抵抗しても無駄だ」と思わせるのです。ひっくり返しておなかから尻尾、手足などまんべんなく触らせることを犬に覚えさせることで、体の不調を見つけやすかったり、爪切りや歯磨きなどのグルーミングを容易にさせてくれるようになったりといったメリットがあります。
仰向けにすることのメリット・デメリット
しかし、この「仰向けポーズ」のしつけですが、近年ではその効果が否定されてきています。メリットとして挙げられていたのが、
- 主従関係を認めさせる
- 体中を触られ慣れる
- 腹部や手足の異常を発見しやすくなる
などといった点です。
しかし近年では、犬の主従関係や上下関係の認識について学術的に否定されており、いわゆるアルファシンドローム(権勢症候群)というものもないといわれています。そのため、犬に上下関係を教えるといった名目で行われていたしつけ方法は、犬に対して不要な恐怖心や不安感を植え付けるだけという見方が強まってきているのです。
つまり、子犬のうちから無理やり仰向けにするトレーニングをすることで、犬にとっては押さえつけられる恐怖感・不安感が強まり攻撃性が高まっていったり情緒不安定で問題行動を起こしやすくなったりといった、デメリットの方が大きいため、避けた方が良いといえるでしょう。
これは「叱る」という行為の場合も同様です。仰向けにして人間の方が上だとアピールする意味もなく、いたずらに恐怖心と屈辱感を与えることで、犬の警戒心を煽ってしまう危険が大きいのです。
監修ドッグトレーナーによる補足
まとめ
いかがでしょうか。犬を叱るときは仰向けにして、というのは一昔前のしつけ方法のようです。起こってしまったことを叱るより、問題行動を起こさせない事前の対処や良い行動を伸ばすしつけが近年では有効といわれています。信頼関係を結べたら、犬たちはリラックスして自分かおなかを見せてくるようになるので、そのときは、めいいっぱい褒めてあげてくださいね。