麻酔からの回復が遅いと言われるサイトハウンド種
イタリアングレイハウンドやウィペット、ボルゾイなどのサイトハウンドは、手術などで麻酔をした場合に麻酔からの回復に時間がかかったり、術後に予期せぬ副作用が出やすかったりすることが知られています。
これは、サイトハウンド種の犬では特定の薬物を分解するための酵素が欠損している個体が多いためであることが、以前の研究から判っています。
アメリカのワシントン州立大学獣医学部の科学者は、最初にこの突然変異を発見し、サイトハウンドに麻酔を施す際の安全な手順も開発してきました。しかし、なぜこの酵素が欠損する突然変異が起こるのかというメカニズムは不明なままで、それを突き止めるための研究が続けられていました。
そしてこのたび、同大学の研究チームが、このメカニズムについての研究結果をサイエンティフィック・レポートに発表しました。
DNAリサーチから判った意外なこと
研究チームは同大学獣医学部の病院のDNAバンクから提供されたサンプルを使って、リサーチを実施しました。その結果、今まで知られていなかった遺伝子突然変異により、特定の薬物を分解する酵素であるCYP2B11が少なくなるメカニズムを発見しました。
しかし、発見はそれだけではありませんでした。同じくDNAバンクのサンプルから他の60種以上の犬種にリサーチを拡大した結果、ゴールデンレトリーバーやラブラドールなどの人気犬種でも、この遺伝子突然変異があることが判ったのだそうです。
この研究ではゴールデンレトリーバーの50匹に1匹、ラブラドールの300匹に1匹がCYP2B11酵素の量が少ない可能性があることがわかりました。サイトハウンド種に比べるとずっと低い割合ではありますが、人気犬種だけに該当する絶対数が多いことが考えられます。
この突然変異は、雑種犬にも見られました。発現する率は3000匹に1匹とはるかに低い数字ではありますが、無視できるものではありません。
今後の研究課題
前述の通り、ワシントン州立大学獣医学部はサイトハウンドに麻酔を施す際の特別な手順を開発した実績がありますが、全ての犬に対して同じ手順を踏むべきではないかという疑問が上がっているそうです。
現在、同研究チームは麻酔を施す前に頬の内側を綿棒で拭ってDNAを採取し、麻酔薬に対する個々の犬の感受性を判断する簡便なDNAテストを作成するために動いているとのことです。確かにこのようなテストがあれば、飼い主としてはとても有り難いですね。
この突然変異を持つ犬は、麻酔薬以外の薬物の分解にも問題がある可能性があると考えられ、研究をさらに継続するために、DNAの提供など研究に参加するボランティアのゴールデンレトリーバーとグレイハウンドが募集されているそうです。
研究チームの課題は、これに該当する犬にどのような薬剤をどれだけの用量使用するべきかについて、獣医師に正確なアドバイスを提供することだと述べています。
まとめ
サイトハウンド種の犬は他の犬種に比べて麻酔からの回復に時間がかかり、リスクが高いと言われていましたが、そのメカニズムは今まで知られていなかった遺伝子の突然変異に基づくと発見されたこと、そしてその突然変異はサイトハウンド以外の犬種にも発現することが判ったという研究結果をご紹介しました。
サイトハウンドの飼い主さんでなくても、麻酔をかけることに不安を感じる人は少なくありません。その結果、歯石除去など必要な処置を断ってしまったり、麻酔を避けて犬に余計な負担をかけてしまったりするということもあります。
しかし、こうしてリスクのメカニズムが明らかになり、明確な対策が立てられることで「分からないが故の不安」が解消され、犬が安全に処置を受けることができます。麻酔前のDNAテストや、安全な施術方法が1日も早く確立することを期待しています。
《参考URL》
https://news.wsu.edu/2020/01/13/wsu-study-aims-prevent-adverse-drug-reactions-dogs/
https://www.nature.com/articles/s41598-019-56660-z