短頭種の犬の飼い主に関する研究
イギリスの王立獣医科大学が主導しエジンバラ大学とノッティンガムトレント大学が共同で、ブルドッグなど短頭種の犬の飼い主に関するリサーチ研究が行われ、その結果が発表されました。
短頭種の犬はとても人気があり、中でもフレンチブルはイギリスで最も人気の犬種です。しかし一方で現在イギリスではアニマルシェルターやレスキューセンターに短頭種の犬が連れてこられる件数がとても増えているのだそうです。
短頭種の犬は、その頭の形や体型に関する健康上の問題が多いのが常です。そのような健康上の問題のリスクがあるのにもかかわらず、これらの犬種は過去10年間で劇的に人気が上昇しており、その理由は分かっていません。この理由を探り問題を解決する糸口として、これらの犬種と飼い主との関係を明らかにするために調査研究が行われました。
多くの飼い主が愛犬の健康問題を過小評価している
調査は2,000人以上のパグ、フレンチブルドッグ、イングリッシュブルドッグの所有者を対象にアンケート形式で行われました。回答者の愛犬の平均年齢は2.17歳でした。
まず、調査結果からは飼い主とそれぞれの愛犬との強い絆が確認されました。とりわけ「パグと飼い主」「女性の飼い主とそれぞれの犬」「子供のいない飼い主と犬」の組み合わせは人と犬との密接な結びつきが顕著でした。
犬の健康に関する回答では、アレルギー27%、角膜潰瘍15.4%、皮膚の感染症15%、気道閉塞11.8%が挙げられていました。飼い主たちはこれらのような個々の健康上の問題をある程度認識しており、17.9%が犬の呼吸器系の問題を、36.5%がオーバーヒートを報告しています。回答者たちの愛犬の5分の1が少なくとも一回の矯正手術を受けています。
しかしそれにもかかわらず、自分の犬が平均的な状態よりも悪い健康状態にあると考えている飼い主はたった6.8%でした。
70.9%の飼い主は自分の犬は「非常に健康」または「可能な限りで最高の状態」にあると答えています。
研究者はこれについて、飼い主は短頭種の犬の重大な問題を認識してはいるが、自分の犬の場合は違うと問題を合理化しようとしていると指摘しています。この歪んだ認識が、短頭種の犬の人気を後押ししている可能性があります。
捨てられる短頭種の犬たち
リサーチはまた、犬を迎える前の期待と現実のギャップが大きかった場合、犬と飼い主の関係に影響を及ぼすことにも触れています。
犬を迎える前に期待が大きく健康問題などについての知識が少なかった場合、犬の行動、維持管理費、医療費などが予想よりも大きいと、飼い主が犬の存在を負担に感じていることも報告されています。これは短頭種の犬の健康問題やそこから派生する行動について周知することが、放棄される犬を少なくするために必要であることを示しています。
飼い主たちは明らかに健康上の問題がある犬を「この犬種にとってはふつうのこと」と考えている傾向もわかっています。
犬の健康問題は年齢とともに頻度も上がり症状も重くなるのが普通なので、飼い主が正しい認識を持つ教育を拡げることが、飼い主の心理的および経済的負担と犬の健康リスクを救うために必要です。
しかし問題の根っこはそれだけでは解決しません。このリサーチによって明らかになったように、一般の人たちの多くは犬の姿形が健康に及ぼす影響や、現在の健康状態について理解していません。そのことが、犬の健康を無視した極端な「可愛らしさ」を追求したり、無秩序な繁殖につながっています。
ケンネルクラブの保健福祉部長はこのリサーチを受けて、犬の福祉を気にかける全ての人々が短頭種の健康に関連した状態について意識を高め、徹底的な調査を行い、健康を優先する責任あるブリーダーから犬を迎えることを奨励する作業を続けることがいかに重要かを強調しています。
まとめ
イギリスで短頭種の犬の飼い主を対象に行われたリサーチの結果をご紹介しました。イギリスと言えば動物福祉に関して先進的というイメージがありますが、特定の犬種が人気になって、犬の健康を無視した繁殖が行われ一般の人はその実情を知らないというのは、日本とあまり変わらない現象も起こっているのだなという印象です。
一方でそのことに関する本格的な調査研究が行われ、対策が練られるというのは素晴らしいことだと感じました。これらの問題は短頭種の犬に限ったことではないのですが、健康上の問題が深刻なのにも関わらず、それが無視されたり見落とされたりするという点は日本でも他の国でも認識されて欲しいと思います。