歯のエナメル質が正常に形成されない遺伝性の疾患
歯の表面を覆うエナメル質は、全身の中で最も硬い部分です。けれども、遺伝性疾患のエナメル質形成不全症では、歯の表面のエナメル質の量が少なかったり、ほとんど存在しなかったりという状態になります。これは当然、歯が構造的に弱いことにつながり、虫歯になりやすかったり歯が欠けやすかったりという歯の健康はもちろんのこと、全身の健康にも悪い影響を及ぼします。ヒトの場合は、この遺伝性疾患に関連する10以上の遺伝子が報告されています。
一方、犬にも同じような遺伝性のエナメル質形成不全症があります。放っておくと健康に重大な影響を及ぼすのですが、この疾患自体があまり知られていないために、診断されないままになっている例がたくさんあります。これは犬の生活の質に直接に関わることですので、歯が小さくすり減ったようになっていたり、欠けが見られたりする場合には、早めに獣医さんに相談することをお勧めします。
犬のエナメル質形成不全症に関連する2つの遺伝子
このたびフィンランドのヘルシンキ大学の研究者によって、この遺伝性疾患に関連する2つの遺伝子が発見されました。それは、ENAM遺伝子およびACP4遺伝子の変異型で、特定されたこの2つの遺伝子はヒトの遺伝性エナメル質形成不全症とも関連しているものでした。
研究チームは、いくつかの犬種においてエナメル質の欠損を観察しました。今回の研究では、パーソンラッセルテリアのENAM遺伝子と、秋田犬およびアメリカンアキタのACP4遺伝子が発見されました。
ENAM遺伝子は、歯の発達中にエナメル質が適切な厚さに達するために重要なタンパク質に関連しています。ASP4遺伝子は、エナメル質の発達についての特定の役割は今のところまだ不明ですが、細胞の分化と石灰化に影響を与える可能性があります。ASP4遺伝子が変異型になっている犬ではエナメル質が薄く、わずかな石灰化障害が確認されました。
ヒトと犬の歯の病気の研究
このように、ヒトと犬の歯の遺伝性疾患に共通点があることがわかったのは大きな収穫です。以前は、このような疾患の研究を行う場合にはマウスが使われていました。けれどもマウスと違って、犬は人間と同じように乳歯と永久歯を持ち、歯の数もほぼ同じですので、犬と人間はお互いの歯の疾患研究の優れたモデルになります。
今回の研究で、ヒトと犬のエナメル質形成不全症に共通する遺伝子が明らかになったことで、獣医師が診断する際のツール、エナメル質形成不全の原因とメカニズム、遺伝的な性質、新しく改善された治療法の開発に期待が寄せられます。また、遺伝子検査を通じて、ブリーダーが繁殖に使う個体の選別材料とすることで、この遺伝性疾患をなくしていくことも重要です。
まとめ
犬の遺伝性エナメル質形成不全症に関連する2つの遺伝子がヒトの同じ疾患に共通していることが分かったという研究をご紹介しました。ヘルシンキ大学の研究チームは、この研究の他にもいろいろな犬種のさまざまな歯科疾患についての研究を継続していくとのことです。ヒトと犬に共通する病気の治療の研究が広い範囲で行われているのは、犬のためにも人間のためにも心強いことですね。
《参考》 https://www.sciencedaily.com/releases/2019/03/190329130228.htm