メイン州の地方紙に掲載された犬のニュース
2019年2月、米国メイン州のバンガーという街の地方新聞に、犬の研究者やシリアスブリーダーにとっては、たまらなく魅力的なニュースが報じられました。
それは、メイン大学の海洋科学のローリー・コネル教授の1年間にわたる努力と情熱の末に、世界最大の犬の血統台帳のコレクションが同大学の図書館の蔵書となり、公の利用が可能になったというものでした。
コネル教授が、この書物のコレクションと出会ったのは偶然でした。
約2年前にニューヨークに研究旅行に出かけた際、アメリカンケネルクラブ図書館を訪問し、そこで蔵書目録に載っていない本の大規模なコレクションを見つけました。
19世紀からの犬種別の血統系統の記録
そのコレクションとは、1860年から何十年分もの純血種の犬の血統台帳および犬種レジストリーでした。アメリカのケネルクラブのものだけでなく、北米、ヨーロッパ、アジア、南米など、世界各地のケネルクラブの犬種別の血統台帳で、膨大な数の犬種の系統の記録でした。
コレクションの所有者であるアメリカンケネルクラブは、これらの本をどうするか決めようとしているところでした。コネル教授は犬を専門に研究している人ではありませんが、研究者としてこのコレクションが世界の犬の遺伝的多様性を改善するために、どれほど貴重なものかを理解していました。
コネル教授はメイン大学の図書館司書に連絡を取り、その膨大なコレクションを収容できるかどうか確認を取りました。その後メイン大学とアメリカンケネルクラブの1年近くの交渉の末、コレクションは2018年夏にメイン大学にやって来ました。
その後、図書館職員が数か月かかって蔵書を目録化し、公の利用が可能になりました。
犬種の遺伝的多様性の重要性
この貴重な血統台帳のコレクションが、公に利用可能であることの大きな意味があります。
それは世界の多くの地で犬種の遺伝的多様性の低さが原因のひとつである遺伝疾患や特定の異常な形質に苦しむ犬が生まれることを防ぐために、誰もが利用できるということです。
ブリーダーや研究者が、この血統台帳から目的とする犬種の何十年も遡る血統系統を調べ、互いに離れた系統から犬を繁殖させることで、遺伝的多様性を向上させ、その結果として犬種に受け継がれている疾患や障害を減らしていくことにつながるからです。
コネル教授はご自身が飼っているチェスキー・フォーセクというチェス原産の猟犬を飼っていて、この犬種の季節性脱毛症など脱毛を引き起こす遺伝疾患を研究しています。
血統を無視したり、近親交配を繰り返したりする乱繁殖のために、遺伝子プールが危険な状態になっている犬種は数多く存在します。
若年齢からガンが多発するゴールデンレトリーバー、拡張型心筋症の有病率が高いドーベルマンピンシャーなどはほんの一例です。
メイン大学では、アイリッシュウルフハウンドのグループから犬種の遺伝的多様性を修復するための繁殖可能な血統を特定するために、コレクションを利用したいという依頼を受けているそうです。このような世界的に登録数の少ない犬種の遺伝的多様性を高めることは、犬種の健全性を保つために大変重要です。
この犬種血統台帳のコレクションが世界各地の犬の健全性を高めるために利用されると思うと、大きな希望を感じます。
まとめ
アメリカのメイン大学の図書館に、世界最大にして貴重な犬種の血統系統台帳が公に利用可能な蔵書として納められたというニュースをご紹介しました。
日本の純血種の犬は、質の低い繁殖業者や素人繁殖のために遺伝的多様性という面では多くの問題を抱えています。このニュースから一般の飼い主さんたちも、犬種の保存や健全な繁殖の奥の深さを感じ取っていただければ幸いです。