豪の獣医師が訴えた「短頭種の犬のためにもっと獣医師ができること」

豪の獣医師が訴えた「短頭種の犬のためにもっと獣医師ができること」

オーストラリアの獣医師が、短頭種の犬の健康問題について科学誌に論文を発表しました。多くの人に知ってもらいたいその内容をご紹介します。

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鼻ペチャ犬たちの健康問題

首をかしげてこちらを見つめるバグ

パグ、フレンチブルなど鼻ペチャ犬たちは愛嬌があって可愛らしいですね。一方で彼らの健康問題は長年に渡って指摘され続けています。

2019年初頭に、科学誌『アニマルズ』に9名のオーストラリアの獣医師が論文を発表しました。
論文の内容は、パグ、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、キャバリアキングチャールズスパニエルなどの短頭種の犬が直面している深刻な健康の問題、そしてそこに獣医師が果たす役割についてでした。

論文の著者に名を連ねた獣医師たちは、獣医師の役目は動物を苦しみから救うことであるという職業上の倫理に基づいて、声をあげることにしたと述べています。

そしてこの問題は専門的な科学誌を読む層だけでなく、一般の飼い主そして将来飼い主になる可能性のある人々も広く知るべきであると考え、一般向けにまとめた記事を発表しています。
この記事は世界中の犬やペットのサイト、雑誌などに掲載されています。ここではその内容をご紹介します。

短頭種の犬たちの現実

フレンチブルとラブラドールの子犬

論文と記事を発表した獣医師たちは、「動物の福祉を深刻に損なうことが明らかに分かっている条件での繁殖を阻止するため、獣医師はもっと努力しなくてはならない」と主張しています。

短頭種の犬の短い頭蓋骨は1870年代から定着し始めたそうです。それでも20世紀初頭のパグやボストンテリアの姿は、現在よりもずっとマズルが長いものでした。

この頭蓋骨の形状のせいで、ボストンテリア、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグの’80%以上が出産の際、帝王切開が必要になっています。

また、短頭種の犬の最も顕著な健康問題は呼吸に関するものです。
「短頭種気道症候群」または「短頭種気道閉塞症候群」というもので、鼻・舌・軟口蓋・歯が通常のマズルの長い犬よりもずっと狭いスペースに詰め込まれる形になるため、気道が狭くなり呼吸に様々な障害が起きます。気道が狭いため、短頭種の犬は日常的に酸欠状態を経験していると考えられます。

特に気温が高くなると、犬は舌を出してハアハアすることで体温を調整しますが、短頭種の犬ではハアハアすることで上気道が膨張してさらに気道が狭くなり、最悪の場合は気道閉塞を引き起こして命を脅かすことになります。

気道の狭さは犬が眠る姿勢にも影響を与えます。短頭種の犬は顎を上げて眠ったり、おもちゃなどをくわえたまま眠ったりする場合もあります。気道を確保するために座ったまま眠る犬もいます。

眠るという生き物として最も大切で安らぐはずの時間を、このように苦労して呼吸を確保しなくてはならないことの悲劇を知って欲しいと思います。

短い頭蓋骨は他に、血液中の過剰な二酸化炭素濃度、神経学的障害、皮膚病、眼病、行動障害などに関連しています。これらの問題は治療のために手術が必要になることも多いのですが、短頭種の犬は手術時の麻酔のリスクも高くなります。

該当する記事では頭蓋骨に関連する問題が主に取り上げられていますが、ブルドッグやボストンテリアには背骨の奇形問題、パグでは歩行障害なども大きな問題です。

「可愛いから」は動物の福祉を損なう免罪符にはならない

芝生の上を歩くブルドッグ

上に挙げた問題は目新しい情報ではありません。一般向けにも、2008年イギリスのテレビ番組が純血種の犬の極端な形状が健康に深刻な影響を与えていることを取り上げて、世論を大きく動かしました。それから10年以上が経ったわけですが、短頭種の犬たちの人気はさらに上昇しています。

例えば、過去10年間でフレンチブルドッグの登録数は約3000%増加しているのだそうです。
短頭種の犬の購入者は、より鼻ペチャで体の小さい犬を好む傾向があり、悪質な繁殖業者がつけ込む原因にもなっています。

健康問題に苦しむ1番の被害者は言うまでもなく犬たちですが、この問題は飼い主にとっても大きな負担を強いることは知っておかなくてはなりません。

様々な疾患や障害は高額な医療費につながります。苦しむ愛犬を見守る精神的な負担も小さいものではありません。短頭種犬の平均寿命は非短頭種の犬に比べて短いものです。

短頭種の犬の健康問題は、これらの犬の愛好家が可愛いと感じる、まさにその特徴に起因しています。ですからこの問題を語ることは、短頭種の犬そのものを批判して否定していると感じる人もいるかもしれず、声をあげることをためらう獣医師もいます。

けれども多くの人が現実を知らなくては、苦しむ犬たちの需要は続き繁殖も続いていきます。人間が「可愛い」と思うから、苦しむ動物を作り出してもいいと言うことは決してないのです。

まとめ

舌を出したボストンテリア

短頭種の犬の健康問題について、多くの人に知ってもらいたいと論文と記事を発表したオーストラリアの獣医師、そしてその内容をご紹介しました。

英国獣医師協会は、広告などに短頭種の犬を使用することを止めるよう呼びかけ、功を奏しています。各ケネルクラブも犬種スタンダードの見直しを実施しています。短頭種の犬を巡る環境を変えようとする動きは少しずつ高まっています。

私たち一般の人間ができる一番最初の一歩は「知ること」です。一見可愛く見える短頭種の犬の行動や特徴の裏には、彼らの苦しみがあることを多くの人に知ってほしいと思います。

《参考》
https://www.mdpi.com/2076-2615/9/1/3/htm
https://theconversation.com/vets-can-do-more-to-reduce-the-suffering-of-flat-faced-dog-breeds-110702

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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    30代 女性 匿名

    犬の健康問題は何も短頭種に限ったものではない。犬種ごとになりやすい病気や疾患はある。

    散歩はカートで歩きもしない、社会化もできていない犬の方がよっぽど不健康だと言える。我が家にはパグがいるが、体重管理をしっかりし、適度な運動、良質な食事、たっぷりの睡眠ですこぶる健康である。悪戯に短頭種だけ標的にあげ健康問題をとりあげるのはいかがなものかと思う。健康問題をとりあげるのであれば、対処法、病気予防なども併せて記事にして欲しいと思う。
  • 投稿者

    女性 匿名

    短頭種に限らず、純血種は人の好みで改良されてきているから、本来の生物としての健全性は低い。
    小型サイズにすることで生まれる弊害や、大型犬の関節の問題や胃捻転の多さ、ダルメシアンやドゴの難聴、様々な犬種で悪性腫瘍や代謝性疾患が多いことなど、あげればキリがないくらい、人間は犬に対して大きな負担を強いてきている。
    その中で、際立って不健康な体を与えられているのが短頭種だろう。
    もっともっと、多くの飼い主にこの事実を認識してほしい。
    知れば、純血種を欲しがる人はもっと減るのでは。
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