犬に対して赤ん坊に話すような、いわゆる「赤ちゃん言葉」で話しかけている方は少なくないでしょう。私たち人間は可愛らしい対象に対して、自然とそのような言葉遣いをしがちです。そしてその相手は赤ん坊であったり、犬であったり猫であったりします。
ではこの話し方に対して、犬たちはどのように感じているのでしょうか。普通の話し方との違いを感じているのでしょうか。ここでは人間から犬に対する「赤ちゃん言葉」について、近年の研究でわかってきたことをご紹介いたします。
赤ちゃん言葉とは?
赤ちゃん言葉とは赤ん坊や幼児に対し、高いトーンや大げさな表現を用いて話す言葉遣いです。この言葉遣いは世界中のそれぞれの国の言語で存在します。
ただし人間の子供に対しては、母音を強調した話し方をするのに対し、動物に対してはそれを行いません。これは私たち人間が動物に対して、言葉を学んでほしいとは考えていないからだと思われます。
人間はなぜ赤ちゃん言葉を使うのか
人間は赤ん坊や動物に対して、なぜ赤ちゃん言葉を使うのでしょうか。そのような話しかけ方をする、ほとんどの人が無意識に行っているのですが、これは人間の持つ性質によるものであるとも言えます。
ある研究によると、人間は聞き手となる相手(オーディエンス)に合わせて、声の大きさやトーンといった話し方を自然に変えてしまう、「チューニング」という性質を持つことがわかっています。これは「オーディエンスチューニング効果」と呼ばれるものです。
またワシントン大学とコネチカット大学の共同研究では、人間の赤ん坊に対し、赤ちゃん言葉で話しかけた方が言葉を早く覚えることができるという研究結果が出されました。こういったことは人間の赤ん坊だけでなく、動物に対しても適用されます。
つまり私たちは犬に対して、話しかける内容を理解しやすいようにと、無意識に赤ちゃん言葉で話しかけていると考えられます。ただの甘い話し方ではなく、無意識ながらの理由があったのですね。
犬は赤ちゃん言葉をどう感じているのか
犬と赤ちゃん言葉に関するある実験
イギリスの研究者アレックス・ベンジャミンにより、犬と赤ちゃん言葉について、このような実験がなされました。
「ある室内で人間を2人、それぞれスピーカーを持たせた状態で椅子に座らせる。犬を室内に入れ、スピーカーから普通の話し方の声と、赤ちゃん言葉を使った声を、同時に、又は代わる代わるに流す。そうした後の犬の様子を観察する。」というもの。犬は37匹用意され、順に実験が行われました。
この結果として、犬は赤ちゃん言葉を流したスピーカーを持つ人間のことを長く見つめ、そしてより長い時間、ともに過ごすことを選んだのです。このことにより、犬が赤ちゃん言葉を好んでいることがわかります。
決まったワードの理解
犬にとっては「おやつ」や「お散歩」、「ごはん」といった自分の好むワードも有効です。
しかし別の実験では、普通言葉でワードを使って話しかけた場合と、赤ちゃん言葉でワードを使わずに話しかけた場合とでは、犬はどちらか一方、というふうには好みを示さなかったといいます。
研究者は、犬はまず話し方で相手に対する関心を示し、次にその内容となるワードを判断しているのではないかと述べています。
犬と人間のコミュニケーション
上記のことにより、私たちは犬と分かり合うために赤ちゃん言葉を用い、犬はその赤ちゃん言葉を好むということ、また決まった言葉について反応し、理解しているということがわかりました。共同生活を送るにつれ、自然と犬と人間は理解し合おうとしているのかもしれません。
種族を超えたコミュニケーションが可能であることは、不思議であり喜ばしいことでもありますね。犬に赤ちゃん言葉なんてと思っていた方も、一度そうした言葉でコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。愛犬と密なコミュニケーションを楽しめるかもしれませんよ。