治療の難しい重症のうつ病とペット
うつ病の中に『治療抵抗性大うつ病性障害』という、抗うつ薬が効きにくく難治性のタイプがあります。このたびポルトガルの、オルデム精神医学クリニックの研究者2人によって、犬や猫をペットとして迎えることで、このような重度のうつ病の患者の症状を、緩和することができるという研究の結果が発表されました。
その研究の内容とともに、この結果に疑問を呈している他の声もご紹介したいと思います。
うつ病患者への『ペット療法』の研究の概要
研究に当たって、研究者は治療抵抗性の重度のうつ病を患っている80人の患者を募集しました。
80人の人々に、ペットとうつ病治療への影響に関する研究のために、犬または猫を迎えることが提案されました。
参加者のうち33人がペットを迎えることに同意し、最終的に20人が犬を、7人が’猫を引き取りました。
ペットを迎えることを断った人々は、比較対照のためのグループとして、モニターされることになりました。
全ての参加者は、モニター開始時にうつ病の症状と、全身機能について測定評価され、その後4週、8週、12週の時点で再度測定評価されました。
12週後の研究終了の時点で、ペットを迎えたグループの3分の1以上の人の症状が緩和されていました。
ハミルトンうつ病評価スケール、及び全身機能評価スケールで、うつ病の症状が「軽度」と診断できるほどに改善していました。
反対に、比較対照グループの人々はいずれも症状に何も変化が見られませんでした。
この結果から、研究者の2人は、
と述べています。
でも改善結果は本当にペットのおかげなのか?
この研究結果を受けて、英国心理学会リサーチダイジェストのライター、クリスチャン・ジャレッド氏は、「患者の症状を緩和させた『有効成分』は、ペットそのものではない可能性もあるのではないか?」と書いています。
この研究では、患者が自主的に「ペットを迎える」と決めた人が対象になっています。この時点で、ペットを迎えようという意欲や、余裕がある患者自身の人格や社会的状況が、結果に影響を及ぼした可能性は、大いに考えられるというのがジャレッド氏の意見です。
筆者個人としては、犬や猫は研究期間の12週間だけでなく、その後十数年に渡って責任を持たなくてはならない存在なので、「治療の強化策として使用できる」などと言ってほしくないなあと不快に感じました。
アメリカのケーナイン行動学研究所による、2018年のリサーチでは、
という結果も発表(https://wanchan.jp/osusume/detail/11056)されています。
今回のポルトガルの研究でも、ペットを迎えた参加者の3分の1には良い影響があったものの、3分の2には効果がなかったと考えられますし、研究の中で動物への視点が全く欠けているのが気になります。
まとめ
ポルトガルの研究者による、ペットを迎えることで重度のうつ病患者の症状が緩和されたという研究の結果をご紹介しました。研究自体は問題を指摘する声もあり、今後さらなるリサーチが必要と思われます。
日本でもうつ病の患者さんに対して医師が、「犬でも飼ってはどうですか」と言ったというお話は時折耳にすることがあります。けれども、犬や猫は人間のための治療道具ではありません。
犬や猫と暮らしていくうちに、結果として何か良い作用を得ることはあっても、それ自体を目的にしては、長期的には人にも動物にも悲劇が起こる可能性が高いのではないでしょうか。動物と暮らすということは、もちろん楽しいことや心和むことがたくさんありますが、それ以上に悩んだり我慢したりすることもたくさんあるからです。
人間が動物によって幸せを得ようとするなら、動物も同じように幸せでなくてはならない。
そのことを多くの方に知っていただきたいと思います。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002239561830164X#mmc1
https://digest.bps.org.uk/2018/11/26/for-these-people-with-depression-all-treatment-approaches-had-failed-but-then-they-adopted-a-pet/
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30代 女性 ユーミン