飼い主の性格や心理状態と犬の行動の関連についての研究
アメリカのケーナイン行動学研究所の研究者によって興味深いリサーチ結果が発表されました。
飼い主の性格や心理状態、飼い主が行っている犬への訓練方法、犬の問題行動の3つの項目の関連性を探るというものです。
以前の研究では、飼い主の性格や心理状態と犬の問題行動の間に関連があることが分かっています。
また他の研究では、体罰や大きな音などの嫌悪刺激を与える方法で訓練されている犬には、問題行動が多く見られる傾向も明らかになっています。
今回の研究では、飼い主の性格や心理状態が訓練方法の選択と関連しているか?そしてその場合犬の問題行動との間にも関連があるか?ということがリサーチされました。
リサーチの方法は?
リサーチは犬の飼い主1564人に対してオンラインのアンケート方式で行われました。アンケートの項目に含まれていたのは以下です。
- 飼い主の性格を測定する質問
- 飼い主のうつ傾向の有無や程度
- 犬のトレーニング方法に関する質問
- CBARQという測定テンプレートに沿った犬の行動に関する質問
犬のトレーニング方法に関する質問では、犬に対して嫌悪刺激を使う訓練を行っているかどうかが大きなポイントになっています。例えば、チョークチェーンやプロングカラーを使っている、犬に対して怒鳴る、などが含まれます。陽性強化の方法については質問項目がありませんでした。
リサーチの結果から興味深い相関関係が見えてきた
さてリサーチの結果をまとめて分析してみると、嫌悪刺激を使う懲罰的な訓練を行っている場合、犬の問題行動のうち「人間への攻撃性(対飼い主含)」「分離不安」「追いかけ行動」「吠え行動」「留守番時の粗相」が、懲罰的な訓練を行っていない場合に比べて多いという相関関係があることが見えてきました。
このことは以前に行われた別の研究結果とも一致しています。
また、飼い主の性格と犬の行動の間にも関連性があることもわかりました。
質問への答えから測定された飼い主の性格はいくつかの項目がスコアで示されます。その中で「協調性」「外向性」「情緒的安定性」「誠実性」のスコアが低い飼い主の犬は「飼い主への攻撃性」「見知らぬ人に対する恐怖」「留守番時の粗相」という問題行動が多く見られるということでした。
飼い主のうつ傾向と犬の行動
興味深いことに飼い主のうつ傾向が犬の特定の問題行動との関連が強いという発見もありました。
中程度以上のうつ傾向があると答えた男性飼い主は、うつ傾向が無いと答えた女性飼い主に比べて、嫌悪刺激を使う懲罰的な訓練方法を行う率が5倍も高いということです。
そして、中程度以上のうつ傾向がある男性飼い主の犬は、他の犬への攻撃性や留守番時の粗相といった問題行動の率も高かったのです。
最近の研究では、男性と女性ではうつ病を患った時の症状の出方が異なり、男性の方が怒りや攻撃性が強くなる傾向が示されています。つまりうつ傾向の男性は犬が何か問題行動を起こした時に、攻撃的かつ懲罰的な行動を取る可能性が高いと言えます。
今後の課題
このように飼い主の性格や心理状態と訓練方法、犬の行動の間の相関関係が見出されました。けれども相関関係は因果関係ではありません。アンケート調査からは犬の行動の原因まではわからないので、今回こうして相関関係があることが示された課題から仮説を立て、犬の問題行動の原因となる人間の行動を科学的に突き止めていく必要があります。
また、今回の質問項目に含まれなかった『陽性強化の訓練方法』と犬の行動との間の関連も同研究チームの今後の研究課題とされています。
まとめ
飼い主の性格や心理状態、彼らの選ぶ訓練方法が犬の問題行動と相関関係があることがわかったというリサーチ結果をご紹介しました。
犬に嫌悪刺激を与えるタイプの懲罰的な訓練を行っている場合、犬に攻撃性や分離不安と関連する問題行動が多く見られることがわかりました。
また性格的に「協調性」「外向性」「情緒的安定性」「誠実性」のスコアが低い飼い主の場合にも、犬は攻撃性や恐怖が強く留守番中の粗相が多い傾向があるとのことでした。これは飼い主の心理状態が不安定だと、犬の心理も不安定になりやすく問題行動に繋がりやすいと考えられます。
またうつ傾向のある男性は懲罰的な訓練方法を選ぶ率が高く、この場合も犬に攻撃性や分離不安が多く見られます。
この結果はアンケート調査からの統計を分析したもので、原因まではまだわからないものの、罰を与える訓練方法が犬の心理を不安定にし問題行動を生み出すことに繋がっていることは容易に想像がつきます。
犬が問題を起こすことなく行動するように訓練をするのに、これでは本末転倒です。
罰を与える訓練は動物の福祉を損なう恐れもあるため、このような研究の結果が広く知られて、犬を肯定する訓練方法がより普及して欲しいと思います。
《参考》
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0192846#abstract0