セラピードッグが病院に細菌を持ち込んでしまう?
病院で治療を受けている患者を、訓練を受けたセラピードッグが訪問するプログラムは、多くの国で実施され、その効果も実証されています。
セラピードッグは、患者の治療によるストレスを和らげるという精神的な面と、血圧や心拍数などを安定させるという身体的な面の両方でメリットをもたらします。
しかし、一方で犬が細菌を持ち込んでしまったり、移動の際に細菌を運搬してしまったりするリスクも懸念されています。
中でも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が広がった場合、ガン治療などで免疫力が低下している患者の健康を、さらに脅かす危険があります。
このようなリスクを回避するための除菌の手順が研究され、発表されました。
セラピードッグとMRSA除菌の研究
セラピードッグが、MRSAが広がる原因になることを防ぐ除菌手順の研究をしたのは、アメリカのメリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ小児病院の研究者です。
同病院でガン治療を受けている2歳〜20歳の患者45人と、4匹のセラピードッグが研究の対象となりました。
除菌を行わない状態でセラピードッグと患者がセッションを行った場合、患者がMRSA保菌者になった割合は15.4%、犬がMRSA保菌者になった割合は42.9%でした。
またセラピードッグの訪問を受けた患者のうち、積極的に犬を撫でたり、抱きしめたりするなど、犬と密接に接触した患者は、そうでない患者に比べてMRSA保菌者になる割合は、約6倍であることがわかりました。
セラピードッグは病棟間、時には他の病院へも移動して患者とのグループセッションを行うので、保菌者になってしまうと、MRSAを拡散することになるので、除菌の重要性が改めて認識されました。
セラピードッグの除菌の手順
さて、有り難いことに、シンプルで簡単な除菌の手順が効果的であることがわかりました。
犬たちは病院を訪問する前に、抗菌薬クロルヘキシジン入りのシャンプーで体を洗います。病院を訪問中は5〜10分ごとに、クロルヘキシジンのウェットティッシュでコートを拭きました。
その結果、患者がMRSA保菌者になった割合が15.4%から4.5%に低下しました。犬がMRSA保菌者になった割合は、42.9%から33.3%に低下しました。また犬と密接に交流した患者と、そうでない患者のMRSA保菌リスクも、同じ程度の割合になりました。
今後の課題としては、抗菌薬を頻繁に使用すると細菌に耐性ができて、効果が低くなる懸念があります。このため研究者は、耐性に関連する最近の遺伝子の研究も行っています。
まとめ
病院の患者さんを訪問するセラピードッグが、MRSAなどの細菌を拡げることを防ぐための研究をご紹介しました。
闘病中に犬と触れ合うことが、どれほど大きな心の支えになるかは想像に難くありません。そして、また衛生面での配慮の重要性もよく理解できます。
けれど、人間を癒すために働いてくれる犬たちが、抗菌薬で洗われたり拭かれたりするのは、犬に対して申し訳ない気持ちにもなりますね。犬への感謝と、尊敬の気持ちを改めて感じさせられる話題でした。