帰ってきた飼い主を嬉しそうに出迎える犬、久しぶりに会った家族や親戚に飛びつく犬、犬は知っている人に会うと、親しい振る舞いをします。その姿に人間は癒され、犬を賢く愛おしいと思うもの。
また、「待て」や「おすわり」などといったコマンドを実行したり、おやつの入った棚の場所を的確に覚えていたりすることもあり、その能力には驚かされるばかり。しかし、犬は本当に人間のことを覚えているのでしょうか。我々が勝手に能力が高いと思っている犬の記憶力とは、どのような程度なのでしょうか。
ここからは、犬の記憶力について述べて参ります。
犬の記憶のシステム
人間も犬も猫も、脳の基本となる構造は似ています。また、脳内の海馬という部分で記憶を司り、その管理を行うという面でも、人間と動物は同じであり、このシステムは古くから変わっていないと言われています。記憶は海馬の周りの大脳皮質にも貯蔵され、これらが犬の古く長い記憶と関わっているようです。
犬の長期記憶と短期記憶
記憶は長期記憶と短期記憶の2種類に分かれます。文字通り、長期記憶とは長時間覚えていられる記憶、短期記憶とは短時間しか覚えていられない記憶のこと。犬にもこの2種の記憶があります。
犬の長期記憶
数日〜数年に渡って、脳内で保持される長期記憶。犬の場合、10年以上記憶として残ることもあります。
何度も繰り返した事象や、激しい感情を伴った事象に関しては、長期記憶になりやすいと言われています。躾の際に、何度も繰り返すのはそのためですね。
離れて暮らしていた飼い主や母犬、昔の習慣を覚えているという場合も、この長期記憶にあたります。
犬の短期記憶
非常に不安定ですぐに消えてしまうとされる短期記憶。犬の場合は、個体によって差はあるものの、2,3秒〜数分ほどであると言われています。数秒でついさっきの物事を忘れてしまうのです。また、数十秒前の物事よりも、2,3秒前の物事の方が早く思い出せることもわかっています。
この記憶時間は短いように思われますが、動物全体で見ると、短期記憶とはいえかなり長く記憶を保つことができると言えます。ちなみに人間は、数十秒〜数か月保てるという言われています。
犬の記憶の関連性
人間にとっては当たり前のことなので理解しにくいですが、犬は過去に起こった出来事の記憶と、現在起こっている状況を関連付けて考えるということができません。悪いことをしたら、その場ですぐに注意を行うといった躾ルールがあるのは、そのためですね。
数時間前にしたいたずらに対して飼い主が叱ると、さも反省しているような反応を示す犬がいますが、それは反省ではなく恐れによるもの。いたずらとは関係なく、現在の飼い主が怒っている状況に対して、反応を示していると言えます。
犬の感情と記憶
犬は出来事をそのときの感情によって、記憶することが多いと言われます。
お手をしたら飼い主に褒められたとか、動物病院で注射をしたのが痛かったとか、そういったものが本能的に記憶と結びつき、お手をしたらいいことがある、この道は病院に行くから嫌だなどという考えに至り、行動に示すのです。
前述の、「過去の出来事と現状を結びつけて考えることができない」という結果とは、矛盾に感じることもありますが、こういった感情や経験と直接的に関係する事柄に関しては、長期記憶に分類され、理解し、強い記憶となり残るようです。身を守るための本能であり、記憶というよりも学習といえるかもしれません。
また特徴として、洋犬はポジティブな感情を伴った出来事をよく記憶し、和犬はネガティブな感情を伴った出来事をよりよく記憶すると言われています。
犬の心理を考えて生活をしよう
犬の記憶力は高く、しかし脳による事象の関連付けは、苦手であるということがわかりました。人間とは考え方の構造がそもそも違っているのですね。犬とともに暮らすためには、これらのことをよく理解しておく必要があります。
脳の構造上理解できないやり方で、いつまでも叱ったり文句を言ったりしていては、犬にストレスを与えるだけ。犬の考え方に沿って適切な躾を行い、覚えてほしいこと、してほしくないことを理解させることが大切なのです。また、その場合はできるだけポジティブな感情と関連付けて記憶させてあげたいですね。
人間の身体や脳の仕組みをベースにするのではなく、犬の立場に立って考え、いつまでも大切な人として犬が覚えていてくれるような関係を築いていきたいですね。