分離不安気味の犬と問題のない犬、それぞれの飼い主を比べると?
メキシコのヌエボ・レオン・オートノマ大学の研究者によって、興味深いリサーチの結果が発表されました。
犬を飼っている人76人を対象に、アンケート調査を実施し、その結果を分析したものです。
回答者は皆犬を飼っている人たちですが、2つのグループに分かれています。
1つは「自分の犬には留守番中に分離不安に関連する問題行動がある」という36人。
もう1つのグループは「自分の犬は留守番中も問題なく行動することができる」という40人でした。
この2つのグループの回答者たちに、犬がどんな分離不安行動をするか、犬は訓練がしやすいかどうか、犬の飼い主に対する執着度、犬と飼い主の関係性、犬と飼い主の共通性、飼い主自身の幸福度とストレス度などの質問項目が与えられました。
2つのグループの回答を比較すると、留守番中も問題なく行動する犬の飼い主たちの方が幸福度が高く、ストレス度のレベルが低かったことがわかりました。
分離不安のある犬の飼い主は、幸福度が低くストレスレベルが高いということですね。
犬と飼い主のストレスの負のスパイラル
他の質問項目についても、2つのグループにはかなりはっきりした違いが見られました。
便宜上、留守番中も問題なく行動する犬のグループを「問題なし組」、分離不安気味で留守番中に問題行動が見られる犬のグループを「不安組」と呼んで、以下に違いの際立った回答を挙げていきます。
- 「問題なし組」の飼い主は「自分の犬は訓練しやすい」という回答がより多かった
- 「問題なし組」の犬と飼い主は「不安組」よりも家庭で一緒にいる時間が長かった
- 「不安組」の犬は飼い主への執着が強いという回答が多かった
- 「不安組」の犬と飼い主の関係性は「問題なし組」に比べて悪いという回答が多かった
これらの結果だけでも、「不安組」の犬がかわいそうで悲しくなってしまうのですが、研究者が他の回答結果も総合して分析したところによると、さらに悲しくなる仮説が立てられました。
ストレスを抱えている飼い主が、留守中の犬の問題行動を見てネガティブな反応をすることで、犬にさらなる不安感を与えてしまう。
それが次の問題行動につながり、犬の行動に悩む飼い主は犬と過ごす時間が減り、さらにストレスを抱える、というものです。
まさに、人にとっても犬にとっても負のスパイラルです。
犬は都合の良いストレス解消道具ではない
過去の様々な研究や、人々の一般的な認識の中では、「犬と暮らすことはストレスの軽減になる」「犬と暮らすことで健康状態が改善される」という説が支持されています。
このリサーチは規模の小さいものですが、「犬が飼い主の心身の健康増進に役立つ」という説に、一石を投じるものです。
犬と飼い主の関係性や行動によって、幸福度が下がり、ストレスレベルが高くなる例もあるからです。
リサーチの研究者たちは、「この結果は、犬の問題行動を改善するために、飼い主が何らかの行動を起こすならば、犬と飼い主の関係性が改善する可能性、そして犬と飼い主の幸福度が上がる可能性を示唆しています。」と述べています。
つまり、犬と暮らすことでストレスが解消され健康状態が改善されるのは、人間がきちんと犬に向き合い、犬の幸せを実現してこそ得られる結果だということです。
まとめ
メキシコの研究者が行ったリサーチから、留守番中に分離不安に関連する問題行動がある犬の飼い主は、問題のない犬の飼い主に比べて、幸福度が低くストレスレベルが高いという結果をご紹介しました。
科学的な因果関係を証明する研究ではないのですが、犬と暮らすことで心身の健康を期待するなら、まずは犬の幸せを考えて実現してからでなければ、犬も人も不幸になってしまうことを示す貴重なリサーチだと思います。
一緒に暮らす犬が幸せであって、初めて私たちも幸せになれるということを、心に刻んでおきたいと思います。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1558787818300728