イエイヌに特有の「垂れ耳」
ビーグルやラブラドールなどの垂れた耳は可愛らしいですよね。
このような垂れた耳は、自然界では大変珍しく、垂れた耳を持つ野生動物は象だけとも言われています。
イヌ科の動物の中でも耳が垂れているのは、現在私たちが一緒に暮らしている様々な犬種の、イエイヌだけです。垂れ耳の背景にはどんな歴史があるのでしょうか?
オオカミの選択育種と犬
前述したように、垂れ耳を持つオオカミは存在しません。
現在の何百種もの犬種の犬たちの多くは、耳も含めて、外見がオオカミとは大きく異なっています。
何万年も前に、人間がオオカミと交流を持ち始めたときに、選択的な育種が少しずつ始まりました。
人間は自分たちにとって都合の良い外見、運動能力、性質などいくつかの要因を持つ個体を選択して繁殖させ、牧畜や狩猟を手伝うのに優れた犬種を作ってきました。
育種の技術が進むにつれ、犬の背を高くしたり低くしたり、マズルを短くしたり、筋肉を太くしたりと、様々な変化を持つ犬が作られました。
犬と「家畜化症候群」
人間は、意図や目的を持って犬を選択育種し、外見や身体的機能を変化させてきました。
しかし犬たちが遂げた変化の中には、意図したのとは違う、予期していなかったことも起こりました。
小型化した犬歯、細くなったアゴ、小さい脳、アドレナリン分泌の少なさ、そして垂れ耳などはその一例です。
このような変化は、元々の野生イヌ科動物にとっては機能的な不全を表します。
ダーウィンはそれを、「家畜化症候群」と呼びました。
科学的な面から見れば、イヌの細胞がこのように変化したことは、機能不全だと言えます。
しかし垂れ耳について言えば、人間と一緒に暮らす犬にとっては、マイナス面はほとんどありません。
立ち耳に比べて、清潔に保つことに気を配らなくてはならない程度のことです。
むしろ垂れ耳の可愛らしさは、その犬種が愛される理由になっていることも少なくありません。
犬を愛するなら知っておきたいこと
垂れ耳の場合は、大きな弊害はありませんが、選択育種の繁殖の結果として、予期せぬ機能不全が起こる可能性があるということを、人間は知っておかなくてはなりません。
最近の研究の、パグの歩行障害などは繁殖に関連する、明らかな機能不全の一例です。
▶「パグの3匹に1匹が歩行になんらかの異常がある」という研究結果
他にも、犬種特有の好発疾患などは、長年の人間本位の選択育種の結果であるとして、10年くらい前から注目され始めています。
▶ドッグブリーディングと犬の健全性、ちょっと考えてみてください
人間から見た可愛らしさや便利さだけを追求した結果、その重荷を背負わされるのは犬たちです。
犬への愛を自認する人は、そのようなことを知っておきたいですね。
まとめ
犬の垂れ耳は、人間が行って来た選択育種の長い歴史の中で、予期せぬ変化として起きたもののひとつであることをご紹介しました。
最初の変化は予期せぬものであったのでしょうが、その可愛らしさから垂れ耳を固定するための選択育種もまた、行われてきたでしょう。
犬の垂れ耳自体は、大きなマイナス面が少ないものですが、私たちはこのように人間の都合で犬の選択繁殖をすることで、重大な健康上の問題を生み出していることも、知っておかなくてはなりません。
無理な変化を作り出す原因は、人間がそれを求めるからです。
犬の垂れ耳を見るとき、心の隅っこで、このようなことを思い出していただけたら幸いです。
《参考》
https://www.vet-organics.com/blogs/news/ever-wonder-why-dogs-have-floppy-ears
https://abcnews.go.com/Technology/dogs-floppy-ears/story?id=24635908