犬の健康を傷付けない『犬種スタンダード』
2008年にイギリスのBBC局で放送され大きな波紋を呼んだ「ブリーディングが引き起こす遺伝病」というドキュメンタリー番組がありました。犬種スタンダードにこだわるあまりの無理な繁殖のせいで、純血種の犬の多くが障害や病気を持って生まれて来たり、体型など身体的特徴が犬の体に大きな負担をかけているということ伝えた番組です。
翌年には日本でもNHKが放送したので、ご覧になった方も多いかと思います。イギリスのケネルクラブはこの事態を重く受け止め、犬種スタンダードの規定の見直しや犬の健全性を重視した繁殖などに取り組んできました。ドッグショーでも従来とは一線を画す健全性に重きを置いた外見の犬が上位に入賞する傾向が強くなってきています。
現在もイギリスでは純血種の犬の健全性を高めるための運動が続けられています。その運動のひとつで今秋に開催される「犬のブリーディングのリフォーム」のシンポジウムのテーマが、紹介文を読むだけでも考えさせられることが多いので、ここで紹介させていただきます。
特定の姿かたちの追及と神経学的問題
その犬種特有の良しとされる姿かたち、それを代々残して固定化するために特定の形状の犬だけを選択繁殖していくことでリスクが高くなる神経系統の病気があります。
小型犬に多いと言われるキアリ様奇形、水頭症、脊髄空洞症、大型犬に多いと言われるウォブラー症候群などがそれに当たります。
シンポジウムでは、特定の形状を固定化していくことで、なぜ病気のリスクが高まるのか、どのように対処していけば良いのかが検討されるのだそうです。
病気を誘発するような身体の形状は本来は「悪いこと」のはずです。それが犬種スタンダードの名のもとに「普通のこと」にすり替えられていく怖さを、一般の飼い主たちも知っておくべきですね。
犬種の特徴とされる形状と眼の健康
「この犬種は目が飛び出しているので怪我や病気に注意」とか「しわの間が炎症を起こしやすいのでこまめに手入れを」といった感じで「この犬種はこういう特徴や注意点があるのが普通」という程度の認識が、特定の犬種の飼い主さんやブリーダーの間では一般的になっていますね。
けれど、犬の頭蓋骨の形やしわの多さも極端な選択繁殖の結果であることが多く、このシンポジウムでは頭蓋骨の形状のせいで眼球に負担がかかったり、過剰にだぶついた皮膚に眼が埋もれてしまって眼病を起こしやすくなるなどの影響が語られるそうです。
犬の繁殖と病気の関係
ある犬種に多いとされる遺伝性の病気の多くも、元々の犬種の特徴ではなく、特定の毛色や形状を固定化するために繰り返された繁殖のによって遺伝子プールが偏ってしまったり、免疫系統が影響を受けてしまった結果と言われています。
遺伝病とされている病気、ガンの好発犬種などに、健全性を管理した繁殖で対応する方法が語られるそうです。逆に言えば、科学的な知識を持たずに繁殖を行うことが、次世代以降の犬たちにとっても悪影響を及ぼすということです。これは一般の飼い主もしっかりと認識しておかなくてはいけませんね。
まとめ
イギリスで行われる犬のブリーディングを改善していくためのシンポジウムのテーマが考えさせられる内容だったので、たくさんの人が考えたり思い出したりするきっかけになればと紹介させていただきました。
『犬種スタンダード』というのは確かに大切で、犬種の歴史はそれぞれの国の文化でもありますから、不要なものとしたり軽んじたりすることは良くないと思います。けれど、そのために犬の健康が損なわれ生活の質が低下するようでは本末転倒です。
行き過ぎた犬種スタンダードを見直し改善していくことはケネルクラブやブリーダーの責任でもありますが、一般の飼い主も知識を持ち、健全性を損なう外見にNOと言えるようになることが不幸な犬を減らすことにつながるのではないでしょうか。
本来ならシンポジウムで議論された内容をお伝えできれば良いのですが、このようなテーマが取り上げられると知ることで「もっと知ろう」「ちょっと調べてみよう」と思われるきっかけになれば幸いです。
《参考》
http://www.dogbreedingreformgroup.uk/dbrg-symposium.html