ミックス犬の犬種を見た目で判断する難しさ
このところアメリカの犬情報サイトや、犬専門誌でよく取り上げられている話題のひとつに、「あなたはこの犬が何と何のミックスだかわかりますか?」というものがあります。
よくあるパターンでは、ミックス犬の写真に「この犬が持っている犬種のDNAの組合せを選んでください」という文章が添えられ、3〜4つ示された様々な犬種の組合せパターンから、正解と思うものを選ぶクイズ形式のものです。
私も時々挑戦してみるのですが、大抵の場合「え!?」と思う組合せが正解で、ピタリと当てるのはなかなか難しいのです。「絶対ゴールデンレトリーバーが入ってるよね」と思ったら、全然入っていなかったり、ボクサーミックスだと思ったら、ブルドッグのミックスだったりということがよくあります。
このように、ミックス犬の犬種を見た目で判断することの不正確さを、データで証明する研究が発表されました。
シェルターの保護犬を正しく理解するためのDNA検査
アメリカのアリゾナ州立大学のケーナイン科学の研究者が、アニマルシェルターにいる900匹以上の犬のDNA検査を行い、その結果を発表しました。このような研究では過去最大の規模のもので、検査の結果125種類の犬種のDNAが見いだされ、犬1匹あたり平均して3つの犬種のDNAが確認されました。
この結果を、シェルターの中で譲渡のために掲示している犬のプロフィールと比べた結果、合っていた率はわずか10%でした。毎日、たくさんの犬を見て経験のあるシェルタースタッフでも、身体的な外観だけで犬種を識別することは大変難しいということです。
保護犬DNA検査の概要
研究者は、アリゾナ動物虐待防止協会とカリフォルニア州のサンディエゴ動物保護協会のシェルターで保護されている犬たちを対象に検査を行いました。犬の頬の内側と、歯茎を小さいブラシで擦ったものからDNAを抽出し、犬種ごとのイヌゲノムと比較するという方法です。
その結果、アリゾナとカリフォルニア2つのシェルターで最も多く見られた犬種のDNAは、アメリカンスタフォードシャーテリア、チワワ、プードルでした。しかし、2つのシェルターでそれらの犬種名が含まれる識別をされている犬は、全部合わせても全体の半分以下でした。
検査からわかった犬種の数は前述した通り125種にものぼり、研究者の当初の予想をはるかに上回る多様性が見いだされました。従来は、アニマルシェルターにいる保護犬の約4分の1は純血種であると考えられていましたが、この検査から、純血種の割合は約5%だったこともわかりました。
シェルターが判定した犬種の正解率は?
アニマルシェルターでは、引取り希望者のために犬のプロフィールカードが犬舎に掲示されています。年齢や体重、健康状態とともに「ラブラドール×ジャーマンシェパードミックス」とか、「チワワ×ポメラニアンミックス」などのように、シェルタースタッフが判断した犬種が示されています。
今回の検査結果と、対象になったアニマルシェルターのプロフィールカードに書かれた犬種名を比べてみた結果、単に「ラブラドールミックス」などのように1つの犬種名だけが書かれていて、そのDNAを持っている、または「ラブラドール×シェパード」のように書かれていて、そのうちのどちらかのDNAを持っている確率は67%でした。しかし、カードに書かれた2つ以上の犬種名がどちらも正しかった確率は10%まで低下しました。
つまりシェルターのプロフィールカードに書かれているミックス犬の犬種の組合せは、かなり精度が低いということになります。
犬種名を示すことへの疑問
このように、シェルターで示されている犬種名は精度が低いものです。人々は犬種名を聞いて、その犬がどんな犬なのか判断の基準にしようとします。けれども、純血種の同犬種の中でも、犬の性格や行動は必ずしも一般的な認識と一致しません。ましてや2種類以上の犬種のミックスである場合、その犬を判断するのに犬種名に頼るのはもっと大きな賭けになります。
また以前の研究では、犬種名にピットブルという名が入った場合、その犬に新しい飼い主が見つかるまでの時間が、平均の3倍以上になることも発表されています。精度の低い情報のせいで、新しい家族が見つからないというのはフェアではないですね。
この研究に協力したアリゾナ動物虐待防止協会のシェルターでは、犬種名の表示を取りやめました。(引取り希望者から尋ねられた場合には、分かっている犬種名を伝えることが可能です。)
このシェルターの責任者は、保護犬を家族に迎えようとする人に対して、「その犬が保護される前はどんな環境にいてどんな経験をしてきたか、医学上の履歴はどのようなものかという情報は、犬の先祖の犬種よりも重要なことです。それぞれの犬そのものに注目して、家族に迎えてください」と述べています。
まとめ
アリゾナ州立大学が、アリゾナとカリフォルニアのシェルターにいる保護犬のDNA検査を行った結果をご紹介しました。
犬たちが持っていたDNAは、予想されていたよりもずっと複雑で、見た目から判断されるものとはかなり違っていたことが分かりました。犬を見た目だけで判断することはできないということが、データとして示された結果でした。また、犬を家族に迎える場合に、犬に付けられているラベルよりも、その犬そのものを見ることの大切さが分かる結果でもあります。
ただ、犬が持っているDNAの種類が分かれば、遺伝病や罹りやすい疾病を予測するという意味はあります。
科学の発達とともに、身近になっていく様々な技術が、犬との生活にうまく生かされていくといいですね。
《参考》
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0202633