犬がうなるのはいけないこと?
犬が遊んでいたおもちゃを取ろうとしたとき、嫌がる歯磨きをしようとしたとき、遊んでいるつもりで犬にちょっかいを出したとき、知らない犬に近づいていったとき、そんな場面で犬が「ウーッ」とうなり声をあげてきたという経験はないでしょうか?
うなったのが自分の犬ならば「ダメ」と叱る人も多いかと思います。けれども、うなるのはいけないことなのでしょうか?うなっているのは犬の意思表示ではないでしょうか?
アメリカの「獣医学行動学アメリカンカレッジ」で行動療法を学んだ獣医師の団体に属する行動療法獣医師が説明する「犬のうなり」への理解を紹介します。
犬が恐怖を感じているサインを読み落とす飼い主は多い
カーミングシグナルに代表される犬が出しているサインは、よく知られるようになってきました。けれども、犬が恐怖を感じているときのボディランゲージのサインを見逃してしまう飼い主さんは案外多いのだそうです。
このことをリサーチした研究はいくつかありますが、2012年にコロンビア大学の研究チームが次のような発表をしています。
犬に関する経験レベルが犬が出すボディランゲージを読み取る能力にどのように影響するかというもので、犬と接した経験が少ない人は犬が恐怖を感じているサインを30%程度しか読み取れず、平均的な犬の飼い主は60%程度の理解を示しました。
裏返せば、犬を飼っている人でも犬が発している恐怖のサインを40%程度も見落としているということです。
監修ドッグトレーナーによる補足
犬たちは言葉の代わりに体でメッセージを伝えてくれているのに、私たち人間がそれに気づけないのは悲しいすれ違いですね。
思い込みや間違った情報のままでも何を伝えてくれているのかに気がつくことができない原因の一つにもなるでしょう。しつけも犬だけがするのではなく、飼い主さんがしっかりと勉強することが大切です。
恐怖を感じ、避けようとする犬のサイン11段階
犬が感じる恐怖にはいろいろな種類や段階があります。知らない人や犬に対する恐怖、痛みに対する恐怖、大切なものを取られる恐怖など、それらを避けようとするときに犬は様々なサインを出します。
イギリス小動物獣医師協会の「犬と猫の行動療法マニュアル」では、この攻撃性の段階を次のような11段階に分類しています。段階が上がるほど攻撃性が高くなります。
- 1 あくび、まばたき、鼻を舐める
- 2 顔をそらす
- 3 体ごと横を向く、座りこむ、前足を上げる
- 4 立ち去る
- 5 伏せる、耳を倒す
- 6 うずくまる、尻尾を脚の間に入れる
- 7 横たわる、脚を上げる
- 8 体をこわばらせる、こちらをじっと見る
- 9 うなる
- 10 警告的に吠える
- 11 咬む
犬が咬むことを選ぶ前に出すサインを受け入れる
先に紹介した段階のうち、1〜4は見過ごしている飼い主さんも多いものです。犬がこれらのサインを出しているときは、恐怖とまでは行かなくても不快に感じており、「放っておいて」「あっちへ行って」というメッセージを送っています。
これらのサインに気づかなかったり無視したりしていると、犬が感じる恐怖も強くなり「もういい加減にして」と、うなり声をあげることへと繋がってしまいます。犬は、うなるという手段の前にいくつかのサインを出して、ストレスを感じていると伝えていたはずです。
初期の段階で犬がストレスに感じていることを止めていれば、犬も人もストレスから解放されていたわけです。人間に意図が伝わらないから、犬は不快感を伝える方法の段階を上げざるを得なかったのですね。
「犬がうなった」ということ点だけを見てうなっている理由を認識せず、その行動だけを止めようとするのは犬にとって大変理不尽な話です。まして、ここで罰を与えるなどすれば犬が咬むことにも繋がりかねません。
犬がうなるのは、咬むという最終段階の前に出してくれている「ストップサイン」だと言えます。できることなら、その前の段階で人間が犬の意図をくみ取ることが最善ですが、それでも犬がうなっている段階で人間が一歩引けば、双方のストレスを回避できるのです。
犬がうなるのは、「もう本当にやめて!それ以上構ってくると最終手段に出ないといけなくなるから」と伝えるコミュニケーションの手段だということです。
監修ドッグトレーナーによる補足
犬がうなる行為だけで悪いことだと片付けないことはとても大事です。
犬がうなるには必ず理由があります。飼い主さんでもうなられたら恐怖を感じてしまうかもしれませんが、そんな時こそ犬をよく観察し、気持ちを理解することで改善方法が見えてきますよ。
まとめ
犬がうなるのは、不快感や恐怖を感じていると相手に伝えるための手段。叱ったり罰したりするのではなく、犬の意図をくみ取って犬にストレスを与える行動を止めましょうという、動物行動療法の獣医師の説明をご紹介しました。
全ての犬が咬む前にうなる訳ではありません。攻撃性の11段階もその通りに進む訳ではありません。だからこそ、小さなサインを読み取ることが重要です。
たくさんサインを出し、ギリギリのところでうなって見せたら、叱られたり罰せられたりした!ということを繰り返していると、犬は不快を感じたときに予告なしに咬むようになってしまうこともあり得ます。
うなって警告を出してくれるのは、犬の親切心からとも言えます。そう考えると、犬とのつきあい方もおのずと変わっていきそうですね。
《参考》
https://www.psychologytoday.com/us/blog/decoding-your-pet/201805/growling-sign-post