毎年何千頭もの犬が“大好きな”飼い主に捨てられている
平成28年度に全国の動物愛護センターや保健所で引き取られた犬は41,175頭。そのうち飼い主からの引き取りは4,663頭とされ全体の約11%に相当します。飼い主による持ち込み、つまり飼育放棄が約11%ということと同年度の殺処分数が10,424頭であるということを単純に考えると1,200頭近くの犬が飼い主の都合で「殺された」ということになります。また、この数字からはわかりませんが、所有者不明で「迷子」として収容された犬の中にも飼い主がわからないように捨てられた犬も多くいると思います。
先進国から「一桁間違っているのでは!?」と驚かれたこともある日本国内での犬の殺処分数。日本の犬を取り巻くあまりにもひどい環境を打破するべく、各地の行政やボランティアによって動物愛護の啓蒙や譲渡活動などが行われ、メディアでもさまざまな情報が取り上げられるようになるなど徐々に犬や猫などペット業界の実情に注目が集まるようになってきました。
事実、それらの努力のおかげで年々殺処分数は減少してきています。10年前と比較して引き取り数は1/3以下、殺処分数は1/10以下となっていますが、それでもなお年間に4,500頭以上の犬が飼い主によって捨てられ、10,000頭以上の犬が人間の手で殺処分されています。今、この時間にも不条理な死を待っている犬が何頭もいるのです。
飼い主が犬を捨てる身勝手な理由
飼い主がそれまで一緒に暮らしてきた愛犬を手放す、捨てる原因はさまざまですが、そのどれもが納得できるものではなく人間の勝手な都合に過ぎないと思います。捨てる側の人間にも言い分はあるでしょうし、悩んで迷って手放すこともあると思います。それでも捨てるという最終手段を取る前にできること、事前に対策しておくべきことがあると思います。その努力をせず「仕方ない」と愛犬の命をあきらめるのはあまりにも身勝手ではないでしょうか。
筆者が実際に動物愛護センターに見学に行った際や動物保護のボランティア団体で活動している時に聞いたことのある理由は以下のようなものでした。
- 引っ越し先が社宅などペット禁止
- 高齢の飼い主が入院、他界してしまった
- 言うことを聞かず困っている
- 飼い主を噛んでケガをさせる
- 犬が思っていたよりも大きくなってしまった
- 子供の出産に伴い犬がいると困る
- 子供が犬アレルギーになってしまった
- 子犬を産ませたが貰い手が足りない
- 犬が大きくなって可愛くなくなったから
- 病気になってしまい経済的な負担が大きい
- 老犬になり介護がつらい
このほかにもブリーダーをしていたが廃業したという場合や個人のボランティアとして保護していたが増えすぎて手に負えなくなってしまった場合などもありました。
犬は昔の飼い主を覚えているのか?
大好きだった飼い主に捨てられてしまった犬は飼い主のことをいつまでも覚えているのでしょうか?犬は“今を生きる動物”と言われ、数十秒前に起きたこともあっさり忘れてしまうこともありますが飼い主や深く関わった人間のことは忘れないと言われています。
少しむずかしい話になりますが、犬は短期記憶が苦手ですが長期記憶は得意だと考えられています。10秒前にトイレを失敗したことなどはすぐに忘れてしまいますが、くり返し教わったことや日々の習慣、においや声で連想できる人間などについては数年~生涯忘れないそうです。
今を生きる動物である反面、特に人間への愛着が強いため「3日飼えば3年恩を忘れない」などと言われることも。人間のように「あの時は幸せだったなぁ」などと思い出を振り返って感傷に浸ることはないとされていますが、たとえ捨てられても一度一緒に暮らした飼い主のことは決して忘れないのです。
犬を飼ったら一生一緒にいる覚悟が必要
太古の昔から人と犬は一緒に生きてきました。犬は“人に付く”動物とも言われるだけあって、過去に出会った犬よりも人間の方が覚えているとも言われています。飼い主はもちろん、一緒に何かを経験してそこで感情が動いた場合は特に忘れにくいそうです。
そしてまた、犬は傷ついたことも忘れません。怖いこと、嫌なことへの記憶力がすさまじく、それを呼び起こされるようなことがあると極端な反応を見せます。いわゆるトラウマと言うもので、過去に虐待にあった犬や食事を与えられずつらい思いをした犬はそれらの経験をいつまでも忘れられず一生心の傷を引きずってしまうことも少なくありません。そのため、虐待された犬は人間に対して強い恐怖心や警戒心を持つのでなかなか新しい飼い主になつくことができなかったり、譲渡自体が不可能になってしまうこともあります。
犬を飼ったら何があろうと絶対に一緒にいることが鉄則。犬は平均15年前後生きるため、その間に飼い主自身の環境が変わることも大いに想定できます。引っ越しや入院、ライフスタイルの変化などさまざまな事態を想定して、まわりへの協力を依頼するなどいざという時のために事前に対策を考えておくことが必要です。犬を捨てないこと、これは飼い主として最低限であり最高の愛情でもあると思います。どうかこれ以上悲しい思いをする犬たちが増えないことを切に願います。