研究や実験に参加する犬の権利
科学雑誌や心理学のサイトなどを見ていると、実に多くの「犬に関する研究」が行われていることがわかります。それらの研究に関する論文や記事を読むとよく「実験に参加したのは50匹の家庭犬」などと記されています。
科学的な研究に参加する犬はオンラインなどで募集されていて、希望した飼い主が応募してきて採用されています。
飼い主は研究についての説明を受けリスクを理解した上で、いつでも参加を終了する権利も持っています。
しかし飼い主と言えども、常に犬の気持ちを100%代弁できるわけではありません。そのため犬や猫が参加する研究では、その過程で動物が自分で選択する権利も与えられています。
犬は立ち去る権利を持っている
研究結果を紹介する記事などではサラリと書かれている実験の内容ですが、実際には細心の注意を払った上で試行錯誤が繰り返されています。その中には「犬が嫌だと感じてその場を去ろうとした時には、犬の意思を受け入れなくてはならない」という倫理基準が含まれています。
例えば「犬は撫でられることと言葉で褒められることのどちらを好むか?」という研究では、「犬を撫でる人」と「犬を褒める人」が実験の中に含まれていました。
犬が初めての場所に来て知らない人から撫でられたり声をかけられたりするということを考慮して、実験開始前には場所や人間に犬が馴染める時間が十分に取られていました。しかし実験に参加した犬の中には、それでもやはり撫でる係の人にも褒める係の人にも近づきたくないという数匹がいて、その犬たちの意思は尊重され実験からは外されました。
また実験の最中に犬を撫でる時にも犬の体を手で抱いて固定したりせず、犬がその場を去りたいと思えばいつでも立ち去れるように配慮されていました。
研究の際に動物自身が何かを選択する権利が認められているのは例に挙げたものだけでなく、一般的なことです。
犬が選択することの大切さ
このように動物が嫌がっている時やストレスを感じている時に、動物の行動を人間が強制するのではなく動物の意思に任せることは、倫理的な問題だけでなく、安全の面や人間と動物の関係性の面でもとても大切なことです。
犬が過度のストレスを感じている時には学習能力や判断力も低下するので実験のデータにも影響します。
そしてもちろん、嫌がる犬にかまわず人間の都合を優先しようとすれば犬は防御のつもりで攻撃に転じる可能性もあります。
このことは研究の場面だけに限らず、日常生活の中でも同じです。
犬が「今はやりたくない」という態度を示した時に犬の行動を人間が強制することは、危険を作り出し関係性を悪くするだけです。
犬が何かを怖がって隠れたい時は隠れさせてやり、落ち着いてからやり直せばよいのです。
なにか訓練をしなくてはいけない時には、犬が喜べるような動機を作ってやります。犬が「何かをやりたい!」という動機づけに最高なのは食べ物であることは、過去の研究からも明らかになっています。
まとめ
犬や他の動物に関する研究の場面で、動物が嫌がった時には「立ち去る権利」を尊重することが倫理基準になっているということをご紹介しました。
古いタイプの訓練などでは犬は常に人間に従わなくてはならないものという考えが前提になっていて、現代でもその考えに縛られている人も多く見られます。
けれども科学の世界で受け入れられている「動物が自分で選択する」という概念を否定することは、何も良い結果を生みません。
犬の心を健康に保ち、より深く良い関係を築くためにも、ひとりでも多くの飼い主さんに考えていただけたら幸いです。
《参考》
https://www.companionanimalpsychology.com/2015/03/the-right-to-walk-away.html