犬が身近な人を判別する時に頼りにするのはどの要因?
例えば、犬と散歩中に他の家族のメンバーが歩いてくるのを見つけて犬が尻尾をブンブンさせて喜んだというような経験はないでしょうか?もしくは、犬が居る部屋に入っていったのにしばらく気付かれず、犬に声をかけたらハッとしたように駆け寄って来たというような経験は?
犬が身近な人間を判別する時に一番頼っているのは視覚なのか?聴覚なのか?それとも嗅覚か?そんな疑問を明らかにする研究が日本大学の研究チームによって発表されました。
犬が人間を判別する決め手になる要因を探る実験
犬が人間を判別する時にもっとも頼っている要因を探るための実験は次のように行われました。
参加したのは11匹の家庭犬で、人間に対して攻撃性などのない犬が選ばれました。
大型犬から小型犬まで犬種はさまざま、年齢は6ヶ月齢〜7歳半でした。
実験に際して、ある部屋の端に小さなブースを設けて、そこに犬にとって馴染みのある人間が座るように設定されました。部屋の入り口からブースまでの距離は約4.8mです。
管理者はブースから視覚・聴覚・嗅覚の内どの種類の情報が犬に届くかをコントロールできるようになっています。
視覚情報を届ける場合、ブースの中が見えるが音と匂いは外に漏れないように設計されています。
聴覚情報を届ける時には、ブースの中は全く見えなくなり音だけが外に聞こえます。
嗅覚情報だけを届ける時には、ブースの中が見えない状態で音も出さず、内部のファンが回って犬のいる方向に匂いが流れるようになっています。
このような設定のブースから、犬が部屋に入ってきた時に
- 1. 視覚聴覚嗅覚すべての情報を犬に届ける
- 2. ブースの内部が見えるように設定=視覚のみ。音と匂いは遮断。
- 3. ブース内部で新聞を朗読=聴覚のみ。視覚と匂いは遮断。
- 4. ファンで匂いを送る=嗅覚のみ。視覚と音は遮断。
- 5. なんの情報も届けない
上記の5つのパターンでブースの中の人間の情報が犬に送られました。犬が2分以内にブースの中の人に気づくとトリーツが与えられます。
犬がブースの中の人間に気づいた率と、気づくまでの時間が観察されました。
実験の結果は?
犬がブースの中の人間に気づいた率は1の「すべての情報を届けた場合」が97%で一番高く、5の「何の情報も届けない場合」が約70%で最低でした。これは予想通りです。
他の3つについては85〜88%で大きな差がありませんでした。
しかし犬が人間に気づくまでの時間にははっきりとした違いが見て取れました。
「すべての情報」と「視覚のみ」の場合には犬たちは6〜7秒でブースの中の人に気づいたのですが、「聴覚のみ」「嗅覚のみ」では15〜19秒の時間がかかりました。
さらに視覚を使って人間を見つけた時、犬は他のパターンに比べて尻尾を振っている時間が長く、喜んでいる様子が観察されました。
これらのことから、人間を判別する上で今まで考えられていたよりも犬は視覚情報に頼っているようだという結論が出されました。
まとめ
犬が人間の存在を確認し判別する時に、視覚・聴覚・嗅覚のうちどの知覚を最も頼りにしているのかという実験の結果、どうやら犬たちは従来から言われていたよりも視覚に頼っている割合が大きく、視覚は犬にとっても利点があるらしいということが判りました。
この結果は最近ナポリ大学の研究チームによって発表された「犬に指示を出す時、ジェスチャーを付けた方が効果的である」という研究結果とも一致しています。
▶犬に指示を出す時、ジェスチャー付きである方が効果的だという研究結果
犬の知覚についての研究が進むことで、私たちが犬のことをより深く理解できるようになれば、犬の福祉や幸せにつながる素晴らしいことですね。
《参考》
https://www.scirp.org/Journal/PaperInformation.aspx?PaperID=77555