研究の背景
犬は本来集団で暮らす社会性の動物で、同じ集団で生活する仲間同士、互いにたくさんのことを学び合います。食べ物のありかを学んだり、問題を解決するための行動をまねしたりします。
このような、犬の社会的な学習は広く知られていますが、それがどんなことに影響されるのかについての研究報告は今まで多くありませんでした。
そこでホフマン博士らは、「攻撃性」という犬の性質が、社会的学習の妨げになるなど影響を与えるのではないか、という仮説を立て、実験を行いました。
50匹の家庭同居犬を調べた
ホフマン博士らは、25家庭に同居する、2匹の犬(計50匹)をそれぞれの家庭で実験しました。この2匹はある程度の期間一緒に過ごしてきたことが条件です。それぞれの犬がどの程度の攻撃性を持つかは、あらかじめ決められた基準を飼い主さんに質問することで計測しています。
▲ある広さの部屋に2匹の犬を入れ、その前方にフードを盛ったお皿を2つ離れて置きます。2匹はデモンストレーション犬(デモ犬)、オブザーバー犬(オブ犬)に分かれ、デモ犬は先にお皿のフードを食べることを許されます。そして一方のお皿を食べ終えたところで部屋を退出します。
▲この時、オブ犬の前方には空になったお皿と、まだフードがそのまま残っているお皿があることになります。その後、オブ犬も食べることを許されますが、このオブ犬がどちらのお皿に向かうかを観察するわけです。
さらに、オブ犬にフードを食べることを許すタイミングを5秒遅くしたパターンも実験しました。
それぞれの実験でオブ犬はどうしたでしょう?
攻撃性が犬同士の社会的学習に影響を与える
▲攻撃性の高いオブ犬は、デモ犬が去った後、迷わずフードが残っているお皿の方に行く傾向がありました。
反対に攻撃性の低いオブ犬は、なんと空のお皿に自動的に行ってしまう傾向があることがわかりました。
これは、攻撃性の低い犬はデモ犬の動きをよく見ていて、さっきデモ犬が食べた皿を、フードという強力な誘惑に打ち勝って、自動的に調べに行ってしまう、ということを示します。
また面白いことに、デモ犬が去った後に5秒待たされると、攻撃性の低い犬も高い犬と同様にフードが残ったお皿に直行するようになったのです。これは、5秒待たされると、デモ犬がどっちのお皿に行ったか忘れてしまうこともありますが、考える時間が与えられたからだと考えられます。
攻撃性が低い犬は、社会的学習をする機会が多い
実験結果から、攻撃性の低い犬は盲目的に親しい同居犬の真似する傾向にあり(つまり同居犬をよく見ていて、学習する機会が多いということ)、反対に攻撃性の高い犬は、他の犬が何をしているのか注意を払うことが苦手で、従って他の犬から学習しない傾向にある、ということがわかりました(決して攻撃性のある犬の学習能力が低いわけではありません)。
これは攻撃性という犬の個性が、犬同士の関係性を超えて強い影響を与えているということでもあります。
また、5秒待たせると高い犬も低い犬も同じになってしまうことから、お互いに真似しよう、学習しようという行動が5秒間の待ち時間で消えてしまうことがわかりました。
この研究の意味
攻撃性が高いと自分勝手にふるまうだろうし、仲間のことよりも「ごはん!」となるのは、なんとなく想像がつくことですよね。でもそうだろうな、と思うことの意味や原因を科学的に確かめることが重要なのです。この実験で、攻撃性が仲間の行動に注目することを妨げ、それによって社会的学習に影響を与えていることがわかりました。
また、この実験の素晴らしいところは家庭犬を使ったことです。今まで犬の行動学の実験というと、よく訓練された犬を使い、そして知らない犬同士を知らない場所(実験施設)で実験していたのです。これでは本当の犬の社会性はわからないですよね。ホフマン博士たちは、ずっと一緒に暮らしている犬同士を、わざわざその子たちの家で実験しました。このことにより、犬本来の行動を見極めることができたと考えらえます。
※記事内の図は実際行われた実験方法を表すものではありません。
《参考文献》
※Hoffman, C.L. & Suchak, M. (2017) Dog rivalry impacts following behavior in a decision-making task involving food. Anim Cogn. 20:689–701. DOI 10.1007/s10071-017-1091-9
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10071-017-1091-9
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40代 女性 ちびママ